第31話【告白から始まる急展開】

「――失礼します」


 そう言ってノエルの後ろについて入った僕が見たものはシンと静まり返った休業中のお店の中をパタパタと歩くノエルの足音だけが僕の耳に届いていた。


「大体のところは片付いたのですけど今回の事を教訓として防犯に強いお店のレイアウトに改装してみたんです。

 例えば、入口から入って来た人がいきなりカウンターの私に向かって来れないように棚を設けてみたり、魔道具屋さんで買った通報装置も設置してもらいました。

 他にもいろいろとアドバイスをもらいながら改装していたら思ったよりも時間がかかってしまってオープンが遅れてしまいました」


 言われてみれば確かに前とは違う部屋のレイアウトになっており不審な者がドアから入れば鐘の音ですぐにノエルが気がついてわかって対策をとれるようになっていた。


「いいお店になりましたね。

 これならばお客もぐるりと店内を見て回れるし万が一の場合も時間が稼げて防犯魔道具を使う事も出来ますね」


 僕が店内を見てそんな感想を述べるとノエルは少し驚いた表情をして「一目でそれが分かるのですね」と微笑んだ。


   *   *   *


 結局、お店に入ってから僕達は一時間を越える程にいろいろな話をした。


 僕からはあの時の事はあまり記憶に留めて置きたくないだろうとほとんど話題に上げず、もっぱら今話題の金色マースに関してギルドと交わした守秘義務内で話せる事をそしてカード収納スキルのレベルが上がった事などを伝えるとノエルは優しく微笑みながら頷いてくれた。


ノエルからはあまり話題にはしたくなかったであろう今回の強盗事件についてのお礼を中心にこれからのお店のあり方や王都に構える両親の店の事などを話してくれた。


 楽しい時間はすぐに過ぎるもので夕の鐘が鳴ったところで僕達は我に返り本来の目的に戻った。


「――それでこの大量の荷物は何処に置けば良いですか?」


 僕はギルドのから預かってきた大量の荷物をウエストポーチよりカード化した状態で取り出しテーブルに並べる。


「ええっ? こんなにあるのですか?

 お父様ったらいくらなんでも送ってくる量が多すぎると思うんですけど……」


 あまりの荷物の多さにノエルが絶句しているので僕はノエルにひとつの提案をした。


「まあ、王都の両親には今回の件は報告してない、もしくはまだ王都には連絡が届いていない状態ですよね?

 それで2週間もお店を休んでいたらそれは在庫がたまるのは仕方ないですよね。

 なので、僕からひとつお手伝いの提案をさせてください」


「お手伝いの提案……ですか?」


「はい。ノエルさんは僕のスキルの能力をご存知ですのでいきなりの話になりますが、まずこのカードになっている時点で時間劣化はありませんのですぐに必要のないものについてはとりあえずこのままの状態で保管してしまいましょう。

 そして、必要な時に僕がカード化の解除をするためにお店を訪れましょう」


「え? でも、そんなのミナトさんに負担がかかるだけでなんの得にもならないですよ?」


 ノエルの言葉に僕は『ここだ』と思い、思い切って話を切り出した。


「僕の得ですか?

 そんなのノエルさんに会えるだけで十分ですよ」


「え? ミナト……さん?」


 僕の言葉に顔を赤くしてそう答えるノエルに僕ははっきりと告白をした。


「ノエルさん。

 初めて会った日から一目惚れしてました。

 僕と……交際をして貰えませんか?」


 まだ成人したての16歳にしてははっきりとした言い方でしっかりとノエルの目を見ながらの告白に彼女は顔だけでなく耳まで赤くしながら僕を見つめていた。


「――の?」


 少しおいてノエルの口からかすれたような小さな声が聞こえてきた。


「本当に私でいいの?」


 僕の告白が信じられないかのようにノエルはうつむき加減にもう一度同じセリフを唱えた。


「――本当に私でいいの?」


「ノエルさん。

 あなたが良いんです。

 いえ、あなたでなければ駄目なんです。

 好きになった原因が『一目惚れ』とか、ありがち過ぎるかもしれませんが他に言葉がないんです。

 あなたの笑顔を見ていたい。

 あなたと一緒に笑いたい。

 あなたと共に感情を共有したい。

 悲しい時も、苦しい時も、楽しい時も、嬉しい時も……一緒にいてくれたらどんなに幸せだろうか。

 そう考えたら気持ちが止まらなくなってしまいました」


 僕は告白をしてまだはっきりとは返事を貰っていない状態だったが感情の高ぶりから自然と涙がこぼれ落ちていた。


「――嬉しいです」


 口元に手を持ってきたノエルも僕につられてか目に涙を浮かべながらそう答える。


「でも、ひとつだけ聞かせてくれる?」


 告白の返事の「はい」もないままにノエルは僕にひとつの条件を提示してくる。


「私と交際をするつもりならば両親と会って欲しいの。

 前に少しだけ話したと思うけど私の両親は王都でそれなりのお店を構える大店なの。

 王都の本店は兄が継ぐことになるから大丈夫なんですけど、私もこのお店が軌道に乗ったら王都の資産家との婚姻をすすめられる事になってるの。

 もちろんまだ相手も決まっていないし、もちろん婚約とかもしてないけれど遅かれ早かれ両親からお見合いの話は出ると思うの。

 だからその前に私の両親と会って私との結婚を認めてもらう必要があるわ。

 あなたならばきっと両親を納得させることが出来ると信じてるの。

 ――それが条件。

 それが出来ないのならば嬉しいけどあなたの気持ちは受けられないわ」


 普通に告白をして、YesかNoの話になるだけだと思っていた僕は突然のノエルの告白に驚いたが迷う事なく「わかりました。ご両親に会いに行かせてください」と答えていた。


「――本当に後悔しませんか?」


 ノエルの念押しに僕は「後悔なんて後でするものであって先にするものではないですよ」と覚悟を決めた顔で答えた。


「でも、少しだけ時間をください。

 今のスキルの検証を済ませてから行きたいと思いますので……」


「どのくらいかかりそうなの?」


「おそらく一月くらいは見ておいた方がいいと思います」


「わかりました。

 では一月後に王都へ向けて出発すると両親に手紙を書いておきます。

 おそらく馬車や護衛の手配は両親がすると思いますのでミナトさんは心の準備だけはしっかりとしておいてくださいね」


 ノエルはそう言うとそっと僕に寄り添って手を握り微笑んだ。

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