第30話【付加処理と大量の荷物】
「――ギルドマスターを連れて来ました。
先ほどの説明をもう一度お願いしてもいいですか?」
サーシャは手にしたまんじゅうを用意したお皿に置くと僕に待つよう告げてギルドマスターを呼びに行っていた。
「おいおい、今度はなんだ?
すまないが俺にも分かるように説明を頼む」
ザッハはそう言って僕の説明を黙って聞いていた。
「またとんでもないスキルになったもんだな。
まあ、カードの開放がこちらの都合で出来るようになるのはメリットがあるな。
ただ、前にも言ったがあまり便利すぎるスキルは悪用しようと考える奴らが湧いてくるから気をつけておけよ。
今回に限っては俺が対応してもいいがどちらかと言うとサーシャの方が常にギルドに居るか休みの日でも寮にいるだろうから問題はないだろう。
まあ、俺が同席している時かひとりでの開放ならばサーシャが担当でもいいんじゃないか?」
ザッハはそう言うとサーシャに対応出来るかを聞く。
「出来なくはないですけど周りへの配慮と特別手当ては出してくださいね」
「そうだな。ミナトが来てないのに水槽内のマースがあきらかに増えていたら怪しむ者も出るかもしれんな。
どうせ水槽チームは数名だしそのメンバーにだけ
ザッハの提案にサーシャが
「じゃあ今あるカード全てに付加していきますのでサーシャさんを暫くお借りしますね」
「わかった。
やりやすいようにしておいてくれ、サーシャは終わったら報告をあげてくれ。
俺は部屋で仕事をしているからな」
「わかりました。
そのように処理をしておきます。
ではミナトさん、お願いしますね」
ザッハにそう告げるとサーシャと僕はカード化したマースが保管されている部屋へと向った。
* * *
「――とりあえずこれで今あるカードは全部ですね。
まだかなりあったので結構時間がかかってしまいましたね」
付加処理を終えたカードの整理をしながらサーシャに注意点を話す。
「そうそう、わかってるとは思いますがサーシャさんが出来るのはあくまで付加処理の終わったカードの開放だけですので間違えで開放してしまってもカード化は出来ませんよ。
その時は僕を呼んで貰うか鮮度保持箱のまま置いておくしかないですね」
「そうですね。
間違えないように気をつけます」
サーシャはそう言うとふと思い出したように話題を変えた。
「そう言えばノエルさんのお店の修理が終わったようですよ。
実際のところは店舗部分の家具がいくつか壊れただけで後は売り物が散乱したくらいでしたのでそれほど時間はかからなかったようですね。
あ、ギルマスから少しだけ聞いたんですけどあの強盗達他の町でも同様の事件をおこしていて襲われた人は殺され、お店は全て火をつけられて全焼してしまったそうです。
本当にミナトさんが捕まえてくれて良かったです」
サーシャは心底ホッとした表情でそう語る。
「それに関係してノエル雑貨店に届ける予定の荷物がギルド内に留まってますので時間があればお願いしても良いですか?」
良いですか?と言いながらも既に僕が配達する事は決定しているかのように話すサーシャに苦笑しながらも僕は頷いてギルドの荷物受け取り部屋にサーシャと共に向った。
「えっと、これとこれとあとこれも……。
ふう、やっぱり2週間も配達が滞ると部屋が狭くなるくらい溜まりますね」
「いやいや、そんなにギルド止めにしておいて良かったんですか!?」
「あ、もちろんノエルさんには伝えてありますから大丈夫ですよ。
一応、腐りものが無い事は確認していますから」
サーシャは手をひらひらさせながら僕にそう言って「じゃ、これ全部お願いしますね」と部屋の中に積み上げられている荷物という荷物を指差した。
「うげぇ……。
これ、絶対に馬車一台じゃ乗り切らない量ですよね?
ノエルのお父さんが送ってきたんだろうけど、これだけの荷物を置くスペースはあのお店には無かったような気がするんだけど一体何を考えてるんだろうか……」
僕はそう言いながらもとりあえず部屋の端に積んである箱達から次々にカード化していった。
「――かぁっ! やっと終わった!!」
そう叫ぶ僕の後ろでニコニコと笑顔を振りまきながらサーシャが一枚の書類を手に立っていた。
「お疲れ様でしたね。
こちらが配達の依頼書になりますのでサインをしてから届けてください。
荷物が無くなってスッキリしました。
これで私の仕事も片付きそうです。
お礼に今晩食事でも……と言いたいですけど早くノエルさんに届けてあげたいですよね。
今回のお礼はまた今度にしますので早くノエルさんに会いにいってくださいね」
最後はいつもの丁寧な受付嬢に戻ったサーシャは深々と頭をさげてから僕を送り出してくれた。
「――うまくやりなさいよ」
ギルドのドアから出ていく僕の後ろ姿にサーシャはそう呟いていた。
* * *
コンコンコン。
「ギルドからの配達便です。
ノエルさんはご在宅ですか?」
ノエル雑貨店の表のドアは鍵がかかっていたため、勝手口となる裏の居住区のドアをノックする。
「ミ、ミナトさんですか!?
ごめんなさい、すぐに鍵をあけますので正面のドアにお願いします」
ドア越しに数週間ぶりに聞くノエルの声にホッとしつつ、心臓がドキドキする感覚に手が震える。
正面のドアにまわると中からドアの鍵を外す音が聞こえ、中から長い髪を後ろにひと括りに束ねたいつものお店で会う服装とは違うラフな格好でノエルが姿を見せた。
――ドキリ。
いつもお店で見る
「あ、荷物を届けに来たんですけど忙しそうですね。
また明日にでも出直しましょうか?」
ノエルの姿を見た僕は急になぜかその場から逃げ出したくなり、思わずそう告げる。
「そんな、せっかくミナトさんが持ってきてくれたのにまた来てもらうなんて出来ませんよ。
どうぞ、まだ散らかってますけど中に入ってください」
ノエルはそう言うとドアを大きく開けて僕を招き入れた。
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