第23話【金色マースのお披露目会】

 それから1ヶ月ほど過ぎたある日の事、町は異様な盛り上がりを見せていた。


 僕が金色こんじきマースをギルドに持ち込んでからの動きは早く、湖の調査隊派遣から町での養殖(泥抜き処理)設備の建築、調理方法の確立から宣伝・販売網の樹立とギルドマスターを中心に次々と準備が進み、今日のお披露目となった。


「よし! 準備にぬかりはないな?」


「はい! 試食分1000食と販売分1000匹全て準備が終わっています」


「このイベントでロギナスの新名物を町の人全員に知ってもらうぞ!」


 ザッハが職員を鼓舞しているとサーシャがパタパタと小走りに部屋に入ってきた。


「ザッハギルドマスター、エルガーの町のギルドマスターがお見えですがどちらに案内すればいいですか?」


「おう、やっぱり来たか。

 第一応接室に案内してお茶でも出しておいてくれ。

 こっちの確認が終わったらすぐに顔を出すから頼むわ」


「わかりました。

 では、そのように対応致しますね」


 サーシャはそう言うと受付の方へと戻って行った。


「今日こそはあいつの鼻を明かしてやれそうだ。くくくっ……」


 ザッハはそう呟きながら現場を見まわった。


   *   *   *


「――只今よりロギナス斡旋ギルド主催の新たな名物のお披露目会を開催します!」


「「「わあああああー」」」


 ザッハ達がギルド前の公園に出ると町中の人が押し寄せているのではないかと思える人出で大いに賑わっていた。


「――こちらがこの度改良に成功した魚――金色こんじきマースになります!

 マースと言えば黒っぽくてどう料理をしても泥臭くて誰も食べない魚としての代表格でしたが、この度ロギナス斡旋ギルドが改良に成功し、とても美味しく食べられる『金色こんじきマース』として提供出来るようになりました。

 しかし、見た目はともかく本当に美味しいのかは食べてみないと分かりませんよね?

 そこで今回、特別にギルドの料理人達が作った渾身の料理達を無料で試食提供致します!

 あれもこれも食べてみたいとは思いますが1000食分と数に限りがありますのでひとり一品でお願いします」


 司会を任された職員が拡声魔法で近くにいる町民達にそう告げるとさらに一段と大きな歓声があがった。


「あのマースだろ?

 本当に美味いんだろうな?」


 近くにいた者達は半信半疑でギルドの職員から試食の料理を受け取り口に運ぶ。


「!? う、うまい……。

 本当マジかぁ!」


「そんな馬鹿な!

 あのマースだろ!?

 俺も前に食った事があるがとてもじゃないが食えたものじゃ無かったぞ!」


 そう叫ぶ男も疑いの表情をしながら料理を食べてみる。


「うまい!? うまいぞぉ!!

 そんな馬鹿な事が……あった!?」


 ある程度の人数が半信半疑で試してその全員が美味いと絶賛したものだから周りで疑いの表情をしていた者達もこぞって試食を受け取りだした。


「美味いぞ!」

「美味しいわ!」

「これは最高だ!!」


 次々と絶賛の声があがる中、ひとりの壮年の男性がギルドのドアから現れて試食の料理を受け取り黙って口へと運んだ。


「むっ!? これは……」


「いかがですかな?

 マグナムギルドマスター、

 ロギナスの新名物となる金色こんじきマース料理の味は?」


 その後ろに少しの笑みを見せながら整然と立つザッハギルドマスターの姿。


「むむむ……。

 これは本当にどこの湖にでも居るあのマースなのか?」


 苦虫を噛み潰したような表情で唸るマグナムに内心は(ざまあみろ、いつものお返しだ)と思いながらもそんな事はおくびにも出さないすました顔で「そうですよ。まあ、それなりに改良の努力はしましたが……」と答えた。


「……情報共有はしてくれるんだろうな?」


「そうですね。

 今のところはまだ完全な手順の確立とはいってない段階ですので数ヶ月程度様子を見て間違いがないようならば王都ギルドへ報告してから各地方ギルドへの通達となるでしょう。

 なにせ我がロギナスギルドにはこれと言った特産品がありませんでしたからね。

 しばらくは独占させて貰ってもバチは当たらないでしょう?」


 ザッハはそう言うと「お気に召したならば販売もしていますからどうぞお買い上げください」と言って試食会場の向かい側で呼び込みをしているテントを指さした。


   *   *   *


 お披露目会が盛況に開催されている頃、僕はギルドからの依頼でマースの輸送に奔走していた。


 湖では小型の船を複数浮かべてと網でマースを捕獲している。

 この網も僕が前世の記憶からなんとなくで指示をして作ったものだ。


「おい! こっちの分も頼むわ!

 あとどれぐらいの量摂れば良いんだ?」


「そうですね。

 正直言っていくらでも捕れるだけとってもいいですけど皆さんが大変なのでこの辺りで切り上げても良いですよ」


 僕はそう伝えると捕獲したばかりのマースを鮮度保持箱へと詰めてはカード化をしていった。


「しかしすげーよな。

 確かに鮮度保持箱に詰めれば町まで鮮度は十分持つけど湖までは馬車は入れないしミナトのカード収納が無ければこんなに大量のマースは運べないよな。

 しかもこのマースはこのままじゃ食えたもんじゃないから金色こんじきマースにするためにギルドが確立した手順で1日くらいかかるんだろ?」


「そうみたいですね。

 かなり好評みたいで注文がたくさん来てるとサーシャさんが言ってましたから。

 あ、この分が終わったら今日はもうギルドに戻りますから皆さんも運べるだけにしてくださいね」


 この湖は思ったよりも広かったうえ、マースも今まで食べられなかったので大繁殖をしていたとの事でしばらくは取り尽くすといった心配は無さそうだった。


「じゃあ、帰りの護衛も宜しくお願いしますね」


 僕はカード化した大量のマースをウエストポーチにきれいに詰めるともうほぼ専属となったダランとサーラと共に町へ向った。


   *   *   *

 

「ミナトさんおかえりなさい。

 今日の予定分は確保出来ましたか?」


 ギルドに戻るとサーシャが出迎えてくれる。


「捕獲組が頑張ってくれましたので予定数は確保出来てると思いますよ。

 えっと、空いている水槽はありますか?」


「そうですね。

 こちらの部屋の水槽分はもう出荷しましたので入れても大丈夫です。

 でも、おそらく2割程度しか入れられないと思いますので、残りはすみませんがカード化したままでギルドの保管場所にお願いします。

 明日にでもまた来て頂いて開放して貰えれば助かります」


「分かりました。

 では明日、また伺いますね」


 僕はそうサーシャに伝えると会釈をしてからギルドを後にした。

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