第20話【ギルドの思惑と美味い魚】
――数分後、サーシャが厨房の許可をとって戻ってきた。
「マースの話をしたらギルドの料理長も一緒に見学させて欲しいと言われました。
その条件ならば厨房を貸しても良いと……」
もちろん僕達はその条件でOKを出し、金色に変わったマースを持って厨房へと向った。
「それがマースだというのか?」
厨房に入った途端、側に立っていた壮年の男性から声をかけられた。
「こちらがギルドの料理長をされているアードラさんです。
アードラさん、こちらの方々が今回マースを美味しく食べられるようにいろいろと試されているんてす。
男性がミナトさんにダランさんでこちらの女性はサーラさんです」
お互いを知るサーシャがすぐに双方の紹介をしてくれた。
「サーシャから聞いたが本当にその魚があの黒っぽいマースなのか?
あいつは泥臭くて煮ても焼いても食えない魚で有名なんだがそいつはなんとなくだが美味そうな感じがするな。
ちょっと一匹ほど
「いいですよ。ぜひお願いします」
僕の許可が出たのでアードラは黄金色に変わったマースを手に取り匂いを確かめるとおもむろにまな板の上に置き見事な手腕で活け締めをした。
「今までのマースではありえない食べ方――マースの活造りだ」
もともと魚を率先して食べる文化の薄い町であったので普通に焼くのかと思っていたらまさかの刺身となって出てきたのにはその場にいる者、全員が驚いた。
「これ、本当に食べられるんですか?」
サーシャが真っ先にアードラに聞くと「もちろん食べられるにきまっている。但し、美味いか不味いかは食べてみないと判断は出来ないな」と答えてヒョイと一切れ手に取るとためらうことなく口に入れた。
――もぐもぐ。
皆が息をのんで見守る中でアードラは金色マースの刺身を飲み込む。
「
その味に信じられなかったのかアードラはさらにもう一切れ口に運ぶ。
「泥臭さはおろか魚独特の生臭い感じも全くしない。
いったいどうやったらこんな事が出来るんだ!?」
アードラが信じられないといった表情で何度も美味いを連呼する。
「まさかな……。
あんな魚が美味いわけないだろう?」
ダランはそう言ってまな板の上のマースの刺身を一切れ口にする。
「う、うまい!?」
「ほ、本当? お兄ちゃん」
兄の言葉にサーラも刺し身に手を伸ばす。
「本当! 美味しいわ!」
もうこうなると誰も疑う事なく次々と刺し身に手が伸びる。
「――ありえねぇ。
コイツは間違いなくロギナスの新名物となるだろう。
もちろん刺し身だけじゃない、まだ試してないが焼きも煮付けもいけるだろう。
なあ、コイツは安定的に供給できるものなのか?」
アードラは僕の方を向いてそう問う。
「ある程度は出来ると思いますけど、あの湖にどのくらい魚がいるかわかりませんし浅瀬から奥に行くならば船がいるでしょうし効率よく捕まえる方法も考えないと安定的に供給は難しいと思いますよ」
「――調査隊を派遣して調べてもらいましょう。
ギルドマスターにこの魚を食べさせて町の利益になるからと言ってギルド依頼で調査と造船と捕縛方法を募集すればなんとかなりますよ。きっと……」
サーシャはすでに乗り気でアードラに料理がどのくらいで出来るかの確認をしている。
僕は泥抜きがうまくいった事で満足したので、その後の事はギルドに丸投げするつもりでいた。
(まあ、ギルドが動くなら僕がいちいち運ばなくても輸送隊を編成するだろうし、たかだか数時間もあればたどり着く距離だから鮮度保持箱の魔道具を準備すればいいだけだからな)
「あ、せっかくなんで今持っている魚はギルドで買い取って貰う事は出来ますか?」
「それはもちろん出来ますけど……。
あれ? ミナトさん帰っちゃうんですか?」
「うーん。魚の泥抜きは興味本位で試してみただけだから。
うまくいって皆が美味しい魚を食べられたらそれでいいかな……と思ってね。
まあ、もしギルドが泥抜きの方法に対する情報料を出すと言うならありがたく受け取るけどそれ以上の権利は主張しないから町のために役立ててください」
「わかりました。
ミナトさんのご厚意をありがたく受けたいと思います。
魚の買取額は上に相談しないといけないのでこの場では示すことが出来ませんが明日には伝えられるようにしておきます」
「ありがとう。
じゃあ水槽に魔法水を満水状態まで満たしてください。
手持ちの魚を開放しておきますので……」
僕はそう言ってウエストポーチからマースのカードを数十枚取り出した。
* * *
――チャポン。
「とりあえず今持っているマースはこれで最後ですね。
だいたい6時間くらいで泥抜きが終わると思いますが念のために半日くらい置いたほうがいいてしょう。
多分外観で分かると思いますが、もしも可能ならば鑑定スキルを使って確認されたら間違いがないと思いますよ」
僕はカード化していたマースを全て開放して水槽に入れると「また明日にでも顔を出します」と言ってギルドを出た。
「なんだか思ったよりも事が大きくなったようだな、僕はただ不味いと言われていた魚を食べてみたかっただけなんだよな。
まあ、後はギルドに任せて久しぶりにノエルさんの顔を見に行こうかな」
僕はそう呟くとノエル雑貨店へと足を向けた。
――からからん。
もう何度も聞いたギルドとは違うドア鐘の音を心地よく感じながら店の中に足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ。
あら、ミナトさん今日は配達は無かったですよね?
どうされましたか?」
僕が店に入った時は他には誰もお客がいない状態だったのでノエルは棚の整理をしていて僕を見るとそう聞いてきた。
「ちょっと時間ができたのでノエルさんの顔を見に寄らせてもらいました。
あ、前に選んで貰ったウエストポーチは凄く使いやすくて重宝してます。
ありがとうございました」
「ふふふ。そう言ってもらえるのは嬉しいですが買ってもらったのは私のほうなんですからお礼は私から言うものですよ。
どうも、お買い上げありがとうございました」
ノエルはそう言いながら丁寧なお辞儀をした。
相変わらず少しおっとりとした雰囲気を出しながらも優しく微笑むノエルにドキドキしながら僕は慌てて何か話さなければと話題を探すのだった。
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