第19話【新たな名物料理の予感】

 奥の部屋へと入って行ったサーシャを待つあいだに僕はサーラにどのくらいの水を出せるかを聞いていた。


「やっぱり一度には難しそうですね。

 とりあえず今日のところは持ち帰った分だけ試してみて、うまくいったら明日からもう少し大きな容れ物を用意してやってみましょう。

 あ、もちろん手当は出しますので心配しなくていいですよ」


 僕はサーラと今後の調整を決めているとサーシャがカウンターに戻ってきて僕に告げた。


「ミナトさん。

 先ほどのマースの話ですがギルドが調査のバックアップしてくれるそうです。

 試す場所や設備等の斡旋や成功した時の情報提供料の支払いをするそうですがどうしますか?

 もちろん、断ってもらっても大丈夫ですけど報酬は出ません」


「な、なんでこんな不確かな事にギルドがそんなバックアップをするんですか?」


「それは、このギルドにとって有用な情報となりうる可能性があるからです。

 もし、あなたの持っている情報が正しければ一大産業としてこの町に莫大な利益をもたらすかもしれません。

 もちろん、ミナトさんが独自に解明して産業を立ち上げる事も可能ですけど流通させるにはやはりどこかの大きな組織と組まなければ発展させる事は出来ないでしょう。

 ですから町の利益になるような事は公共性からもギルドが携わるべきとギルドマスターが判断されたのです」


「いや、僕はただの興味本位でやってるだけだから産業を立ち上げようとか全く考えてませんよ」


「でしたらギルドの協力を受けて頂けますね?」


 いつになく押しの強いサーシャにピンときてちょっとだけカマをかけてみた。


「もしかして、うまくいったらギルドからボーナスでも出るんですか?」


「な、な、な……。

 なんでそうなるのですか!?」


 サーシャは真っ赤になって手を左右に振りながら最後は頬に手をあてて顔を隠しながらそう言った。


「あはは、適当に言っただけですので本気にしないでください。

 わかってますよ、サーシャさんも美味しい魚を食べてみたいんですよね。

 じゃあ、いつもお世話になっているサーシャさんのためにも成功させないといけませんね」


「じゃあ受けて頂けるんですね?

 ありがとうございます!」


 恥ずかしくて涙目になっていたサーシャが嬉しそうに僕の両手を握ってお礼を言ってきた。


「あ、でもさっき言った『町の利益になる』ってところは本当の事ですからね」


「ええ、分かってますよ。

 でも、僕からもひとつ条件をお願いしますね。

 今回の検証はダランとサーラさんに手伝ってもらっている案件ですので最後まで携わってもらい、彼らにも報酬を出してあげて欲しいです。

 まあ、僕が受け取ってからふたりに分配してもいいですけどね」


「わかりました。おふたりには検証を手伝って頂いてその報酬を出すようにしておきますね」


「ありがとうございます。

 では何処で続きをすればいいですか?

 出来ればそれなりに広い空間と水に濡れてもいい場所があれば良いですね。

 あと、大きな水槽とそれを満たせるだけの水を出せる魔法使いの方をお願いします」


「それならばギルドの裏庭にある訓練場を使いましょう。

 水槽と魔法使いの人材は2時間ほどで揃えますのでお待ちくださいね」


 サーシャはそう言うと側にいた同僚に手配のお願いをしてから僕達を裏庭の訓練場へと案内してくれた。


「ここならば邪魔も入りませんし、濡れても大丈夫ですよ」


「――開放オープン


 サーシャの言葉に僕はウエストポーチから1枚のカードを取り出してその場に開放した。


「よっ! どれどれ?

 うん、特に問題はないようだな」


 湖でカード化した大きな鍋に入った魚たちはカード化が解かれた途端に何事も無かったように水の中を泳ぎだす。


「これがその泥抜きをしているマースですか。

 あと、どのくらいで終わる予定ですか?」


 生きたままカード化していた事には特にツッコミを入れなかったサーシャが本題の方に質問してくる。


「あ、あと5時間くらいですね。

 カード化すると時間が止まるから死なないけれど当然泥抜きも進まないですからね」


「5時間ですか……。

 今日の事にはならないですね。

 終わったかどうかの判断はどうしてるのですか?」


「あ、それは鑑定スキルを使って確認するんですよ」


 僕はそう言ってサーシャにやり方を教える。


「こんな鑑定のやり方があるなんて……」


「まあ、指定の仕方が普通ではやらない内容ですからね。

 とりあえず、今日はこのままにしておいて明日の朝から続きをしますので手配のものは明日の朝でお願いしますね」


「わかりました。

 では、そのようにしますね」


 サーシャが了承するのを聞いた僕はダラン達と共に今日のところは宿に引き上げた。


   *   *   *


 ――次の日の朝、僕達は早々にギルドのドアをたたいた。


「おはようございます。

 どうなったか気になって早めに来てしまいましたよ」


 サーシャは僕の顔を見ると興奮した様子で大鍋まで連れて行った。


「これ! 見てくださいよ。

 私も出勤してからすぐに確認をしに来たら黒っぽい色をしていたマースが金色に変わっていたんですよ!

 これってミナトさんが何かやったのですか?」


 鍋の中で泳ぐマースは昨日までは確かに黒っぽい色をしていたが、今確認すると金色に変化していた。


「本当に同じ魚なのか?

 誰かが夜のうちに入れ替えて僕を騙そうとしているんじゃないのか?」


 そんな疑惑をもった僕は金色の魚に鑑定を使った。


金色こんじきマース――魔法水を取り込んで身が清められた魚。食べると美味しい】


「うーん。間違いなく同じ魚ですね。

 どうやら魔法で出した水で一定時間飼えば泥臭さが抜けて美味しく食べられるようになるみたいですね」


 僕がそう言うとダランがすぐに「食えるようになったのなら食ってみようぜ。

 どうしたら旨いんだ? 焼けばいいのか?」


「そうですね。

 とりあえず焼き魚にしてみましょうか。

 ですが、さすがにここで火を使うのはまずいでしょうからギルドの厨房を借りて調理してみましょう。

 サーシャさん。

 ギルドの厨房って借りる事は出来ますか?」


 僕がサーシャに問いかけると「すぐに確認をとってみます」と言って建物内に走って行った。

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