第16話【森の湖とミナモソウの採取】
あの後、僕は気恥ずかしく感じながらもほろ酔い状態のサーシャを無事にギルドの寮へと送り届け管理人さんに彼女をお任せしてから自分も宿へと戻った。
次の日、護衛依頼の話で再びギルドを訪れた僕にサーシャはいつもの笑顔で迎えてくれた。
「あ、ミナトさん。
昨日はお付き合いありがとうございました。
やっぱり食事は誰かと一緒だと良いですね。
それと先ほどからダランさんとサーラさんがお待ちしてますので打ち合わせをお願いしますね」
まるで昨日の事はすっかりと記憶になかったような感じで普段どおりの対応に少し拍子抜けした僕だったが深入りしないようにと「わかりました。部屋はどちらですか?」と笑顔で返した。
「――入ります。
ダランさん、ミナトさんが来られたので打ち合わせの詳細をお願いしますね」
サーシャは僕を第二応接室へと案内してから受付へと戻る。
「ダランさん、サーラさんお久しぶりです。
また護衛の依頼を受けてくれてありがとうございます」
部屋に入った僕の前には以前護衛依頼を引き受けてくれたふたりが待っていてくれた。
「まあ、ミナトには儲けさせて貰ったし今回も森の湖への護衛だろ?
あの辺りの獣は他とさほど変わらないから危険性はまあ低いだろう」
「今回はミナモソウの採取依頼の護衛と聞いてるけどあれってそんなに需要があったかしら?」
「実は本命は別にあって採取依頼はついでにこなして護衛料金の補填をしようとなったんです。
ですから今回のおふたりの護衛依頼料金はミナモソウ100個の依頼料を全てそれにあてますので2万リアラになります」
「それだとミナトの稼ぎが全く無いじゃないか?」
「僕の本命は湖での調査と検証ですからギルドの依頼をついでにこなすだけで護衛料がまかなえれば何も問題ないんですよ」
「そ、そんなものなのか?
だが湖での調査と検証とはなんだ?
そのことに対して危険はないのか?」
依頼に関して虚偽をする事は信頼関係を損ねるとのことで僕は正直に話す。
「僕のスキルレベルが上がったのでその効果を試すために湖に行って魚を捕まえたいのです」
「はっ?
スキルの調査のためだけに魚を捕まえたいと言うのか?
スキルの情報ならギルドに問い合わせれば多少の手数料はかかるだろうが閲覧出来るだろう?」
ダランの言う事はもっともであったが今回はカード収納スキルのレベル7に関する事でサーシャにも確認したがギルドの閲覧項目には無かったのだ。
「それが僕のスキルはマイナーすぎてギルドにも情報がないみたいなんです」
「そ、そうか。
それならば仕方ないな、まあ湖に行って魚を取って帰るくらいならたいした手間ではないだろうから手伝ってやるよ」
「ありがとうございます。
明日から行きたいのですけどダランさん達の予定は大丈夫ですか?」
「俺達もそのつもりで準備してきたから大丈夫だ。
ならば明日の朝に東門の前に集まるで良いか?」
「分かりました。
明日の朝に東門ですね。
準備をして待っていますので宜しくお願いします」
僕はダラン達とそう約束をしてその場は別れた。
「うまく話はまとまりましたか?」
ダラン達を見送る僕の後ろからサーシャが声をかけてくる。
「ええ、ギルドの依頼をこなすかたわらに僕の私的な検証もする事を伝えて了承して貰いました」
「それは良かったですね。
では、こちらのギルドからの依頼用の保存箱をお持ちください。
最低数量は100個となっていますがそれ以上でも買取はしますので余裕があればお願いします」
「分かりました。
時間があればそうしたいと思います」
サーシャから保存用の箱を受け取ると僕はそれをすぐにカード化してウエストポーチに入れた。
* * *
次の日の朝、東門の前てダラン達と落ち合い湖に向けてあるき出した。
「前に薬草の採取をした場所に行く途中で右に分かれ道があったと思うがそこの道を進むの川に突き当たる。
その川沿いの道を少しのぼるとそこまで大きくはないが湖があるんだ。
ミナモソウはそこに生えているし、ミナトの検証に必要な魚もいることだろう」
採取のやり方や必要な数量などの話をしながら僕達は安全な道から警戒の必要な森の入口へとたどり着いた。
「さて、ここからは前回同様に周りに注意しながら進むぜ。
少し進んだところに右へ入る小道があるのでその道を進んで行けば湖に出るだろう」
その後、僕達は数匹の角ウサギと出会ったくらいで大きなトラブルもなく湖へと到着する事ができた。
「――着いたぜ。
念のために周りの警戒は俺達ふたりでしておくからギルド依頼のミナモソウの採取をさっさと済ませるんだな。
その後で休憩後にあんたの検証とやらをすればいい。
暗くなる前に森を抜けたいから採取が遅くなれば検証に時間をかけれなくなるから早めにな」
ダランはそう言うと僕の後ろ側に、サーラは僕のすぐ側で周りを警戒してくれる。
「まずはミナモソウの採取をしますね」
ミナモソウはその名のとおりに水辺の水面に浮かぶ葉のようなもので比較的浅い場所にあるため裸足になってズボンをまくり上げれば採取は容易だった。
一枚の大きさは大人の手のひらぐらいでナイフを使って水面から出ているところを切り取っていく。
「――99、100っと、とりあえずギルド依頼分は確保できたな。
これを預かってきた保存箱に入れてからカード化すれば……」
僕は採取したばかりのミナモソウを保存箱に入れカード化スキルでカードにしてウエストポーチへとしまいこんだ。
(追加分もあれば引き取ってくれるとは言ってたけど、今回は僕のスキル検証が目的だから無理はやめておくとしよう)
「ダランさん。
採取は終わりましたので一旦休憩にしましょう」
「なに? もう終わったのか?」
一応の警戒はしながらも比較的見晴らしのよい場所で休憩をとり食事をする。
「相変わらず便利だなあんたのスキル。
これのどこが使い勝手の悪い駄目スキルなんだか……」
僕の使うスキルを目の当たりにしているふたりはカード収納スキルが使えないスキルだとは信じておらず素直に僕が出す食事を受け取って口に運びながらそう言う。
「あはは、前も言ったかと思うけれどそう思いたい人には思わせておけば良いんです。
僕がこうやってギルドの依頼をこなせばこなすほどその認識が間違っていたと思う人が増えてくれるでしょうから」
「――謙虚なこった。
まあ、知ったかぶりをする奴らは自分が正しいと思い込んでるからムキになって相手をしない方が賢明だろうけどな。
さあ、そろそろ検証とやらを始めないと時間がなくなるぜ」
食事を早々に終えたダランはそう言って周り警戒に意識を向けた。
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