第8話【素材採取の実践と新たな鑑定方法】

 そこは森とは言っても鬱蒼うっそうと繁った木々や草花のある所ばかりではなく所々で開けた空間も見受けられる浅い森だった。


「さて、依頼の薬草はどこにあるかな……。

 おっ! この草がそうなのか? 見本とよく似ているとは思うけど……」


 僕は見本と見比べながら薬草を摘み取っていく。


(結構な量あると思うけど薬草採取の依頼は割に合わないと言ってたから買い取り金額もそれほどではないと思っていた方がいいか)


 ものの一時間程度でカゴに一杯の薬草を摘み取った僕はふたりに声をかけて食事を兼ねた休憩を提案した。


「もう終わったのかい?

 やけに早かったけど秘密のコツでもあるのかい?」


 ダランが僕の持つカゴを見ながらそう聞いてくる。


「いやいや、これはとりあえず似たものを取っただけだからこれで終わりじゃないよ。

 今から昼食を食べながら本当に依頼の薬草かを鑑定して分けていかないといけないんだよ」


「そ、そうか。やっぱり薬草の採取は面倒なんだな。

 わかった、休憩するなら木陰に集まった方が交代で護衛が出来るからそこの巨木の下にしよう」


 ダランの提案で僕達は巨木の根本で休憩をする事にした。


「あ、パンと串焼きくらいしかないけどふたりにも食事があるから交代で食べてよ。

 僕は先にパッパと食べてから鑑定の作業に入るから。

 ――開放オープン


 僕はそう言ってカード化してあるパンと串焼きと果実水を元に戻してダランに渡した。


「なっ!? なんで食べ物が温かいんだ!?

 カード収納って物をカード化するだけで劣化や時間経過はするものじゃないのか?」


「まあ、普通はそうだけれどいろいろあって劣化しない方法が分かったんですよ」


「マジか……。誰だよカード収納は使えないクズスキルって言ってた奴は……」


「まあまあ、言いたい人には言わせておけば良いだけですよ。

 あ、でもあまりあちこちで言いふらさないでくださいね。

 隠すつもりはないですけど自分から宣伝してまわるつもりも無いですから……」


「ああ、わかったよ。

 それにもともと護衛の依頼中に知った事は基本的に守秘義務があるし、犯罪行為でもない限りギルドへの報告とかはしない事になってるから大丈夫だ。

 お前もうっかり話さないように気をつけろよ」


「うん、気をつけるわね」


 ダランの言葉にサーラも同意をする。


「じゃあ僕は言ったとおり食事後は鑑定作業をするから宜しく頼みますね」


 僕はそう言って手早く食事を摂ると採取してきた薬草の鑑定をしていった。


   *   *   *


(――おろろ? なんだこの鑑定結果は……。

 確かにカレダチソウは依頼のミズトギソウに似ているとは聞いていたけどほとんどそっくりじゃないか……。

 これじゃあ採取依頼を受ける人が少なくても当然だろう、なにせあれだけ採取した草の約8割がハズレだったんだから……)


 採取した物の鑑定が終わったのをみたサーラがちょうど交代で休憩になったからだろう僕に声をかけてきた。


「あ、鑑定終わったんですね。

 どうでした? 依頼の量は確保出来てましたか?」


「ははは、まだまだ全然足りなかったよ。

 まさかこんなにニセモノが多いとは思わなかった。

 仕方ないからもう一度集めるから周囲の警戒をお願いするよ」


「え? そうなんですか?

 これほとんどニセモノなんです? 私には全く見分けがつかないんですけど……」


「心配しなくても僕にもほとんど見分けがつかないからね。

 あくまでも鑑定スキルがあったから分かっただけなんだよ」


 僕は「ふう」と息を吐いてもう一度薬草の採取を始めた。


 ぷちぷちと薬草を摘んでいくうちに(これ触ったものをその場で鑑定すれば取る前に分かるのかな?)と思いたって試してみることにした。


「手で触れたものを鑑定する」


 初めはそんな曖昧な条件指定で試してみたが触るもの全ての情報が頭を巡って処理が追いつかずにすぐに解除した。


 ならばと「触った物がミズトギソウならば頭に名前のみ浮かぶ」といった条件を絞ってやると……。


 ――ぴこん。


『ミズトギソウデス』


 ――ぴこん。


『ミズトギソウデス』


 なんかナビのようにミズトギソウに触るたび頭にガイドが浮かぶようになった。


(すげー。めっちゃ便利だこのスキル。こんなカスタマイズが出来るなんて他の人は知ってるのだろうか?

 ……ってかいつの間にか鑑定レベルが上がってるし)


 そんな事を考えながら次々と依頼の薬草を採取していった。


「――お疲れ様でした。今日はこのくらいで帰ろうと思います」


 結構あれから一時間程度で予定の量が達成出来た。


「ん? もう良いのかい?

 さっきはほとんどニセモノだったんだろ?」


「ええ、ちょっと上手い探し方を見つけましたので早く終わってしまいました。

 ただ、このやり方だと魔力がガンガン減っていくので長時間向きではないのと、その副作用で頭痛がするので帰って休みたいと思います」


「おいおい、本当に大丈夫かい?

 背負って行けなくもないが、せめて荷物でも持とうか?」


「いえ、荷物はカード化してカバンに入れてありますので大丈夫です。歩くことは出来ますので少しゆっくり歩いて貰えたら良いですよ」


「わかった。それじゃあ周りを警戒しながらゆっくりと帰るとしよう」


 ダランはそう言って僕の前をゆっくりと歩き、そして僕を挟むようにサーラが後ろからついて歩く。


 あまり奥まで来ていない場所なので危険も少ないと思って歩いていた時、前を歩くダランがストップをかけた。


「なんかいるな。音と気配からするとおそらくボア系のようだ」


「ボア?」


「なんだ?

 ボアを知らないのか?

 屋台や食堂で出る少し固めだが旨い肉かあるだろ?

 あれがボアの肉だ。

 この町で食べられているガッツリ系の肉のほとんどはコイツで仕留めたらギルドが買い取ってくれるんだ。

 ちょっと依頼とは違うが狩ってもいいか?

 依頼中だからあんたの許可がないと勝手には仕留めに行けないんだよ」


「危険は無いのかい?」


「狩りに危険はつきものだから絶対に安全な事はないさ。

 だが俺はもう何頭も仕留めているし、新たに覚えたスキルのおかげでほとんど苦戦はしなくなった。

 念のためにサーラは側に置いておくから許可を貰えないか?」


「そこまで言うなら許可をするけど、くれぐれも怪我をしないようにしてくれよ」


「ありがたい。

 コイツの買い取り報酬で旨いメシと酒にありつけるって事だ!」


 ダランはそう叫ぶと音のする方角へ走って行った。

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