第6話【素材採取依頼のお願い】

「――ノエル雑貨店への配達完了しましたので報告書の確認をお願いします」


 配達の仕事を終えた僕は報酬の受け取りのために斡旋ギルドを訪れていた。


「お疲れ様です。

 いつもどおりに早い達成ありがとうございます。

 ミナトさんのおかげで今まで不人気で遅れ気味だった配達依頼が達成率でトップになりましたよ」


 完了報告書の処理をしながらサーシャが僕にそう話しかけてくれる。


「それは良かったです。

 ところでそれがそんなに嬉しい事なんですか?」


 書類を処理しながら鼻歌でも聞こえて来そうなほど嬉しそうなサーシャを見て僕は聞き返していた。


「他所の町のギルドのことはあまり詳しくないけど、うちのギルドに関しては受付嬢ごとに処理する依頼内容が決まっていて配達は私の担当なんです。

 今まで依頼達成率が悪かったせいで私の仕事の評価もいまいちでしたけどミナトさんのおかげで今はとっても幸せですよ」


 サーシャはそう言って依頼完了済の書類と報酬をカウンターに置いた。


「ありがとうございます。

 サーシャさんは配達依頼専門だったのですか?

 確かにいつも僕の依頼処理を担当してくれていましたけど……」


「配達依頼……も、になるわね。

 あとは私は鑑定スキル持ちだから素材採取の依頼とかも担当しているわ」


「素材採取か……。

 素材採取依頼って危険な事があるんですか?」


「そうね。素材にもいろいろとあるから一概には言えないけれど薬の材料となる薬草採取くらいなら町の東門を出た先の森に行けば手に入るわよ。

 たまに野生の獣が出ることがあるけど新人の冒険者でも軽くあしらえるレベルね。

 でも、ミナトさんは剣を振りまわす職業じゃないからもし素材採取をやってみたいなら護衛を雇った方が安全だと思うわ。

 駆け出しの新人冒険者なら安く雇えるでしょうし必要ならばギルドが斡旋を仲介しますよ」


 サーシャはそう言うと手元のファイルをパラパラとめくり、ある書類のページを開いてみせた。


『ミズトギソウ』


「この薬草は怪我の治療薬を作る時に使うものなんですけど在庫が少なくなっているので今は常時依頼に加えて特別報酬の上乗せ依頼が出ています。

 これならば近場の森での採取が出来るので比較的安全で、今の配達よりも報酬は高くなると思います」


「在庫不足ならばそれこそ新人冒険者達がこぞって採取依頼をするんじゃないですか?

 危険度も低いようですし……」


 僕が疑問を口にするとサーシャがわかりやすく説明をしてくれた。


「そう思うでしょうけど、薬草の採取って誰でも出来る訳じゃないの。

 貴重な薬を作る元になるものだから別のものが混じってると駄目だし、品質が悪いだけならまだしも見た目は似てるけど全然違うものを持ってくる人も居るの。

 だから、私みたいに鑑定が使える人がいるのだけど適当に持ってこられて『鑑定してくれ』となると私達の業務を圧迫するし、別途鑑定料金が発生してあまりにも不適合品が多いと依頼料を払う以前に鑑定料の方が高くついてしまうの。

 だから、基本的には薬草採取は鑑定スキル持ちが同行する、もしくは鑑定スキル持ちの人が護衛を雇って採取するのよ。

 だから簡単なようで不人気依頼として在庫不足になっているの」


 サーシャがため息をついたのを見て僕は苦笑しながら言った。


「良いですよ。

 薬草採取依頼を引き受けますから護衛の人の手配をお願いしますね。

 あ、護衛は新人冒険者でも良いですけどあまり怖い人は遠慮しますのでその辺の人選はお願いしますね」


「本当に引き受けてくれるのですか!?

 ありがとうございます。

 すぐに護衛の人選をしますので明日の朝一にギルドまで来てくださいね。

 絶対ですよ。嘘ついたら私泣いちゃいますからね」


(サーシャさん。どれだけ無理な案件を押し付けられているんだよ……)


「大丈夫ですよ。他ならぬサーシャさんのお願いですからね」


 僕はそう言ってサーシャに別れを告げるとギルドを後にして市場へと向った。


(さてと、町の外で活動するのは今回が初めてだから必要なものを買い物しておくとしよう。

 まずは食事関係からかな……。

 そういえば護衛って何人来るのかな?

 近場だし、ひとりか多くてもふたりだよな?)


 僕はそんな事を考えながら日頃から使っている屋台のおじさんに声をかけた。


「おっちゃん。串焼きとパンを3人前と果実水の瓶を3本ほど頼むよ」


「はいよ! なんだミナトじゃないか。

 3人前とかひとりでそんなに食べるのか?」


「いやいや、ちょっと人を雇うのに食事を用意しておこうと思ってね」


「雇い人のメシの用意?

 そんなもん自分で用意させるのが普通じゃないのか?

 それに、パンはともかく串焼きなんてどうやって保管……。

 ああ、そうかそう言えばミナトはカード収納持ちだったよな。

 ならば問題ないか……。

 ほらよ、熱いうちにカード化しときな」


 屋台のおっさんには僕のカード収納スキルは何度か見せていたのですぐに納得してくれた。


 カード収納スキルは使い手が少ないだけで存在すること自体は知られていたので初めこそ珍しいものを見るようにしていたがすぐに慣れて気にしなくなったようだ。


「ありがとう。そうするよ」


 僕はそう言うと焼き立ての串を1本づつカード化していった。


「しかし、本当に便利だな。

 カード化しちまえば時間経過も劣化もしないんだろ?

 そうやっておけばいつでもアツアツの焼き立てが食えるってのは最高の贅沢ってやつだよな。

 他のカード収納スキル持ちもの奴らも同じ事をやればいいのに誰一人として真似する奴がいないのは不思議だよな」


 屋台のおじさんは不思議そうに首を傾げるがなんの事はない、レベルが足りないだけなんだから。


 僕も初めから今のように便利なスキルでは無かった、レベル4まではカード化出来る容量が少しずつ増えただけでそこまで有用ではなかったんだ。


 レベルが5になった時に一気にカード化出来る容量が増えて使えるレベルになった。


 そしてレベル6になった時、今まで無かった新たな機能が使えるようになった。


 それが『カード化時の時間停止機能』だったんだ。


 この新たな機能のおかげで傷みやすい食料品や今回のように温かいものを温かいまま保存する事が出来るようになった。


「まあ、いろいろ試しながら努力したからね。

 こればかりは教えて出来るようになるものじゃないから自分の貰った能力スキルは自分で調整していかないとうまく使えないと思うよ」


「そうだな、俺だって料理スキルのおかげで旨いものを客に提供出来るんだからな。

 まあ、気をつけて行くんだな」


 屋台のおじさんはそう言って手を振って送り出してくれた。


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