第5話【レベルアップと仕事のある日常】
――その後、結局僕は依頼された公共施設の清掃を一人でやりきった。
元々この仕事は僕のようにスキルレベルが低くてまともな仕事にありつけない人達に対してギルドが仕事を斡旋するために作った仕事らしく、そもそも応募する人がほとんど居なかったのだ。
おかげで時間はかかったがそれなりに報酬も貰えたのは大きかった。しかも掃除をするにあたり僅かながらスキルのレベルが上がったのだ。
【カード収納レベル2:カード化出来る容量が少しだけ増えた】
【鑑定レベル2:鑑定対象の名前が分かるようになった】
実はあれからギルドで色々とスキルについて教えて貰っていて収納スキルはコイン1枚をカード化しては戻す作業を繰り返して集中力が途切れてきたらやめて掃除をするを繰り返していると3日程でレベルがあがった。
鑑定スキルも同じようなものだがこちらは掃除をしながら色々な物を鑑定しまくる事によりレベルが上がった。
「素晴らしいですね。こんなに早くスキルレベルが上がるなんて。
この調子で鑑定レベルが3になれば斡旋出来る仕事も増えますので頑張ってください。
――で、今日も別の施設の清掃依頼を受けられますか?」
そして今日のサーシャも笑顔で
* * *
――鑑定レベルが3になった。
【鑑定レベル3:鑑定対象の真偽が分かるようになった】
鑑定レベルが3になった事でギルドから鑑定依頼が来るようになった。多くの偽物の中から本物を探す依頼なのだが普通では全く見分けがつかないのでひとつずつ鑑定をしていかなければならなく、すぐに頭が痛くなる日々が続いた。
――鑑定レベルが4になった。
【鑑定レベル4:鑑定対象の詳細が分かるようになった】
鑑定レベルが上がる度に頼まれる依頼が増えてきている。それに伴って報酬も上がってきているがはっきり言って報酬を使う暇などないに等しいくらいに忙しい。もしかしてギルドの仕事も全部こちらに投げているんじゃないか?と思えるくらいだ。
内心苦笑いをしながらも仕事をくれるギルドに感謝していた。
そして、メインスキルであったカード収納スキルの方は……。
「――じゃあこの荷物を西区のノエルさんに運んでください」
西区のノエルさんとは雑貨屋を営んでいる娘さんで斡旋ギルド経由で荷物を定期的に仕入れているそうで主に近隣の大きな町からの品物を取り扱っていると聞いている。
「おお、今回は結構な量になりますね」
僕はカウンターに積み上げられた荷物を見て感想を口にする。
「ええ、最近となりのエルガーの街で人気の雑貨の注文が多く入ったそうで
「へー、そうなんですね。
じゃあスキルでカード化しちゃいますね」
僕はそう言うとカウンターに置かれている荷物の入った箱に手を添えてスキルを使っていった。
「――
量があるので一度に全部をカード化することは出来なかったが箱ひとつにつき一枚のカードに変換されていった。
「――いつ見ても凄い光景ね。
ついこの前までは手のひらに乗る程度の物しか変換出来なかったのに、もうこのサイズの荷物まで出来るようになったのですね。
仕事で使うとはいえ頑張って鍛錬をしてきたのは素晴らしい事ですね」
「ありがとうございます。
そういえば使っていて思ったのはメインスキルの方がサブスキルよりも成長が早いみたいです。
これって常識なんですかね?」
「そうですね。
数値化した経験値が見える訳ではないので確実ではないですけどそういった内容は報告されています。
ですが、ほとんどの方はメインスキルばかり使うのでそう感じるだけとも言われていますね」
サーシャは頬を手を添えながら首を少し傾げて微笑む。
「それにしても今まで収納スキルレベルをまともに上げた人を見たことが無いですから知らなかったけれど使いこなせれば便利なスキルなんですね」
「そうですね。まあ、まだまだ荷物運びの域を越えてはいないですけどね。
おっと、全部で7箱分ですね。
では、今からすぐに持っていきますので夕方には完了報告を持ってきますね」
「はい。宜しくお願いします」
僕が荷物をカード化して肩がけ鞄に入れるとサーシャは笑顔で送り出してくれた。
* * *
――からんからん。
ノエル雑貨店のドア鐘の音が鳴る。
「ノエルさん、ギルドからのお届け物です」
「あ、ミナトさん。
いつもありがとうございます。
待っていたんですよ」
ノエルの笑顔にドキッとするが親しい人にはよく見せる彼女の性格なのだと知り、過度の期待を飲み込みながら笑顔で返す。
「今回も結構な量になってますけどこんなに仕入れて大丈夫なんですか?」
僕は鞄からカード化した品物を取り出しながら余計な心配をしてしまう。
「実は今回の分は予約でほとんど売れてしまうんです。
ですから、実際にお店の在庫として置いておけるのはほんの僅かな個数だけなんですよ」
「それは失礼しました。
ノエルさんは商売上手なのでしたね」
僕が少し大げさにお辞儀をすると「クスッ」とノエルが笑ってくれた。
(今日のノエルさんも可愛いな)
「それで、お届けした品物はどこに置きますか?
いつもの棚では入り切らないでしょうし……」
「お店売りの分は棚に、予約分は奥の在庫部屋にお願い出来ますか?」
「はい、良いですよ。
一箱分を商品棚に、残りは在庫部屋ですね」
僕は指定された場所にカード化した商品を置いて手を添えたままキーワードを唱える。
「――
僕の言葉に反応したカードが淡い光を放ちながら元の箱に戻っていく。
「はぁ……。
いつ見ても見事なスキルですね。どうしてこんな有用なスキルが不遇扱いなのか私には理解できません」
荷物の搬入を側で見るノエルは心底羨ましそうに僕のスキルを褒めてくれた。
「ギルドのサーシャさんにも同じような事を言われましたけど、サブスキルだとレベルアップも遅いし、カード化出来る量も多くないから使い勝手が悪いイメージが浸透しているのだろうと説明されたんですよ」
「私みたいに商売をやっている非力な女性には神のスキルにしかみえないですけどね。
あ、今回も配送ありがとうございました。
完了報告書にサインをしておきましたのでギルドで支払いを受けてくださいね」
ノエルはそう言うと満面の笑みを浮かべながら僕に完了報告書を手渡してくれた。
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