襲撃!!”ハトポッポ”

HUDi

とある夏の夜

ーさあ、今年もこの季節がやってきた。

 夏も近づく88夜、のんびりとトンボが交尾しているような片田舎。

 網戸から吹き込む涼しい夜風に当たりながら、勉強をしない私。ふと耳につく、カツカツという音。

 気づいた時には、もう遅い。

 最近明るいやつに取り換えたばかりの照明を見上げれば、いるわいるわ、小さな羽虫の大群が。

 念のため言っておくが、室内である。よく死んだ水の近くにいる蚊柱やらブヨではない。


 彼らの名前はオオヨコバイ。大とついても小虫である。脚による左右移動を得意とし、初夏に早苗の汁を啜って生きる害虫だ。

 哀れな走光性の彼らは、文明の光に誘われる。

 そして雨にも負けず築50年。古さゆえ密閉性の甘い我が家の、窓と窓枠の細い隙間を得意の横這いで潜り抜ける。

 それは人間の血を必要とする蚊にはできず、植物の汁を吸うオオヨコバイにはできる芸当。神はどこで間違えたのだろう。ダーウィンにこれを突きつければ自信喪失するだろうか。

 そういえば例年、暖かくなると窓にへばりついて虫を獲っている爬虫類達はどこにいるのだろうか。家守だろ、守れ。


 こうして人間様が手を下す。ヨコバイバイの時間だ!!と不快害虫をスプレーで落とし、ティッシュで潰し、勝手に力尽きた者の亡骸を一つ一つ拾い集める。彼らが火垂るなら壺で墓を作ってやったものだが。

 可哀想に思うかも知れない。確かに罪悪感はある。

 だが考えても見よ。飛ぶ子虫が人間より多いのだ。

 そして彼らは警戒心に欠ける。

 ぱちっという音がして、ふと腕を見てみると、2つ並んだ円らな瞳と目が合うのだ。こんにちはああああああ!!!!


 ところで、ゴキブリに合いたくないという人は、通る道をできるだけ明るくしてゆくと良い。彼らは暗がりに隠れるだろう。

 許せない、殺したいという方はまあ、どうぞ。

 しかし、我が家の場合、闇を払えば光にオオヨコバイが群がる。光にヨコバイ闇にG。大変雅だ。月に叢雲花に風の類義語である。テストに出る。

 

 と、ここまで毛嫌いしておいたが、オオヨコバイも虫の中では可愛い部類と言えなくもない。祖父が彼らを「ハトポッポ」と呼んだのが思い出される。方言か何かだろうか。

 ハトが人間を襲う映画があるらしいが、オオヨコバイが人間を襲う映画もそのうちできるんじゃないだろうか。絶対見ない。

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