空が戦場になったこの世界で、誰よりも空を飛ぶことが上手い俺は、浮遊島の士官学校生活を満喫する -蒼穹の眠れるエース-

サケ/坂石遊作

飛翔のエース

第1話 プロローグ

「敵影、発見!」


 宙を飛翔する女性が、付近にいる仲間たちへ情報を伝達した。

 眼前から迫り来るのは巨大な化物。細長い胴体を雲間に潜めながら、その化物はうねるよう接近してくる。女性は恐怖を押し殺し、目の前の光景を直視した。


百足型タイプ・センティピードEMITSエミッツです!」


百足ムカデにしてはでかいな……散開せよ! あの巨体だ、固まっていれば一掃されるぞ!」


 現場の指揮を取っていた男が、素早く叫んだ。

 高度四〇〇〇メートル。雲以外の遮蔽物が一切ない空の上で、人々と化物は対峙する。

 身に纏う外套の効果により、空を飛ぶことが許された彼らは、その恩恵を受ける代わりに空に現れる化物との戦いを義務づけられていた。

 絶え間なく銃声が響いた。その度に光の弾が化物の身体を穿つ。

 しかし、化物の動きが止まることはない。


「くそっ! この連戦で武器の消耗が激しい!」


「持ちこたえろ! 今、こちらに金轟が向かっている!」


 男が活を入れると、周囲で戦っている仲間たちの顔に希望が灯された。


「おお、あの金轟が……ッ!」


「良かった……あの英雄が来てくれるなら、私たちも助かる……っ!」


 安堵に胸を撫で下ろす仲間たち。

 その隙を突くかのように、百足の化物は身体をうねらせ、鋭く足を振り回した。

 仲間が切り裂かれる寸前――男の銃から光弾が放たれ、化物の爪が弾かれる。


「気を抜くな!」


 男が一喝する。


「我々の役目は、この化物の侵攻を食い止めることだ! なんとしても地上を守れ!」


 仲間たちが散開し、化物の気を引き続ける。


(戦力が足りない……ッ!!)


 熾烈な戦いの最中、男は不利な現状を見抜くと同時に、その理由に思い至った。


(人材が……いや、雑兵が増えたところで、この戦況は変わらん……)


 目の前の戦いだけではない。

 人類と化物の戦いは世界各地の空で、幾度となく行われている。その全てにおいて、共通して言えることが――致命的な戦力不足だ。


(英雄が欲しい……)


 必要なのは量ではなく質。一騎当千の力を持つ特殊な人間。即ち――。


(この空には――エースが必要だ)


 銃を構え、光の弾丸を放つ。

 他力本願かもしれない。それでも、無力な人々は願うしかない。

 新たなエースの来訪。それは、化物たちと戦う空の人々にとって、何よりも求めていることだった。








※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

第7回カクヨムコンを本作が受賞しました!!

2023年の春頃に書籍化予定です!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る