戦後処理

 マリナ様は、それでもこの世界に残ることを選択しました。

 けれども、マロン様と共に魔の森に行くという事は選択せず、皇国の隣の国に行くことを選びました。

 その際、ワーグナー様に、「いつまでも待ってます」といっておりましたが、どうなのでしょうね。


「では、ティーム殿。戦後処理と行きましょうか」

「敗戦国の国王として、望めるのなら、国民を虐げずにいていただければと思います」

「それは保証しよう。私共としても、無益に血を流そうとは思いません」

「ありがたい。貴族への対応は?」

「この国は各国に出来る限り均等に吸収することになっています」

「そうか」


 ティーム兄様はそう言って息を吐き出します。


「こちらで出来ることは?」

「特には」


 ワーグナー様の言葉に、ティーム兄様は「そうだろうね」と苦笑します。

 まさか前国王が、直前で戴冠をするとは思いませんでしたので、四ヶ国で事前に様々な取り決めをしておりました。

 完全に均等というわけにはいきませんが、四ヶ国はそれぞれの領土を増やすことになります。

 すでに領地に戻っている貴族には話しておりますが、未だに王都に残っていた、貴族に関しては、その限りではありません。

 マリナ様を受け入れていた侯爵家も、王都に残っていた家なので、領地はほぼ没収という形になります。

 財産に関しては受け入れ先の国に委ねられますが、皇国では、新たに領主を任命するという方向で話が進んで居ります。

 ティーム兄様はその話を一通り聞くと、頷きました。


「さて、僕はどうなるのかな?」

「どうとは?」

「敗戦国の最後の国王として、国民の前で処刑される覚悟はあるよ」

「その覚悟はいいね」


 感心したように皆様が笑みを浮かべます。

 ワーグナー様が「前国王ならそれでもよかったんだけどね」といえば、他の方も頷きます。


「ティーム殿が、前国王の治世の間も、国民に気を配っていたことは有名だ。そのティーム殿を国民の前で処刑してしまえば、折角の無血開城が無駄になってしまうね」

「じゃあ、どう責任をとれば? 名誉ある死を賜れるのかな?」

「それがいいのならそれでもいいけど」

「こちらといたしましては、ティーム様の能力をかっておりますのよ」

「ポリアンヌ殿、どういうことかな?」

「私の後宮に入ると言う選択肢がございますよ」

「は!?」

「もともと、我が国への配分を少なくする代わりに、ティーム様を頂くよう、交渉をしておりましたの」

「それは、どういう?」

「私にはすでに夫が居りまして、次期女王としての能力を求められております。けれども、夫一人では私の補佐を完全に出来るかといえばそうでもなく、子供を作るという事もございますし、後宮に有能な方が欲しいと思っておりましたの」

「それが、僕?」

「ええ、母君もご一緒で構いませんよ。悪くない話だと思うのですが?」

「悪くないどころか、破格だね」


 けれども、ティーム兄様の顔色はあまりよろしくありません。

 恐らく婚約者の事を考えているのでしょう。

 けれども、ティーム兄様の婚約者はジュピタル公爵家が王都を離れてすぐに、追随するように王都を離れております。

 政略結婚でございましたので、元々恋愛感情は無かったと思いましたが、ティーム兄様は違ったのでしょうか?


「僕は、一応婚約者がいるのだけど」

「存じています」

「……彼女に、新しい婚約者を紹介してあげて欲しい」

「彼女は我が公国の所有となる。配慮いたしましょう」


 その言葉を聞いて安心したのか、僅かにティーム兄様の顔色が戻りました。

 確かに、敗戦国の国王の婚約者であったとなれば、新しく婚約を結ぶのも難しくなりますものね。


「敗戦国の王だ。彼女の今後の安全が保障されているのならそれでいいよ。今後、よろしくお願いする、ポリアンヌ様」

「ええ、こちらこそよろしくお願いします。ティーム様」


 淡々とした戦後処理がその後も続き、魔術師の一人が、マロン様を魔の森に届けた報告をしてきたので、全ての処理が終わりました。

 無血開城で、王都も一切傷ついていない事、そしてティーム様が直接拡声魔法で降伏宣言をしていることから、王都の中もさして混乱していないとのことでした。


◇ ◇ ◇


 各領主などの手配を皇国の宰相に任せ、わたくしとワーグナー様は皇国に帰りました。


「はあ、あっさりとしたものだったね」

「そもそも、守護結界に甘えて、自国を守ると言う能力を強くしていませんでしたもの」

「自業自得だね。魔導士頼りで、騎士や兵士の力をつけさせなかったのも問題だよね」

「そうですわね。彼の国に残っていた下級魔導士は、再度各国で魔導士試験を受け、合格しなければ魔導士の資格をはく奪することが決まっておりますわね」

「魔力が回復するまで待ってあげるだけ、各国は親切だと思うよ」


 ワーグナー様の言葉に思わず苦笑してしまいます。

 彼の国に残っていた下級魔導士は、王都に張られた結界を維持するために、全員がギリギリのところまで魔力を使用させられていましたので、回復するまで時間がかかるようです。

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