2 ボドゲ嫌いな妹は変わったように思う
結局、妹の
場所を教えたけど一人で行くのは不安だと言われてしまった。俺が適当に見繕って買ってくるという提案もしたけど却下された。自分で選びたいと。
そもそも
今だってそれは変わってないように見える。だというのに
ボドゲがたくさん並んでいるのは怖いらしい。ボドゲ棚がある俺の部屋には近付くこともしなかった。それだってカドさんと一緒なら平気らしい。
そして今度はカドさんのためにボドゲグッズを自分で見て選ぼうとしている。ボドゲがたくさん並んでいる店に入ってまで。俺に頼ってまで。
「改めて言っとくけど、並んでるからな、ボドゲ」
家を出る直前、スニーカーに足を突っ込みながら俺はそう念を押した。これを言うのももう何度目かになる。
その度に
「前に
「売り物?」
靴紐を結び直す手を止めて、後ろの
「なんて言ってたかちゃんと覚えてないけど、確か『売り物は遊べる状態じゃない』って。わたしもよくわかってないんだけど」
カドさんは
いや、それはまあ、何度も一緒に遊んでいればわかることもあるだろう。納得はできる。
それよりも気になるのは──
「さっさと靴履いてよ」
俺はもう何も言わずに視線を足元に戻した。
本当になんなんだろうなこいつらは。
カドさんへのプレゼントになりそうなグッズを取り扱っている店。
心当たりの店をそんな条件で
小さな雑居ビルの三階、狭い階段を登った先の入り口で
「外で待ってても良いぞ。何か見繕って買ってくるから」
俺がそう声を掛ければ、
入って正面には雑誌や書籍、新作のゲームなんかがディスプレイされている。店舗スペースは左手側に広がっていて、まずはテーブルトークRPGの書棚、その奥にボドゲ。
店に一歩踏み出したは良いけど立ち止まってしまった
その辺りが、グッズ系の棚だった。色とりどり、形も様々なダイスが並んでいる。ダイストレイもある。プレイマットもあるし、カードスリーブやモビロンバンドといったものも並んでいる。
近くの棚には数は多くないけどペンダントやストラップ、ピンバッジが並んでいて、それもよく見れば何かしらのゲームに関連したモチーフのものばかりだ。
「見ればわかるだろうけど、この辺の棚がそう」
「後は一人でも大丈夫だな」
「え、兄さんどこか行くの?」
「店からは出ないよ。ボドゲ棚眺めてくる」
俺はそう言って、店の奥のボドゲ棚を指差した。
やっぱり無理っぽいから近くにいた方が良いかと思い直したときになって、
「わかった、大丈夫。兄さんは向こう行ってて」
可愛げのない言い方に少し苛立って、俺は
その姿に思ったより大丈夫そうだなと安心して、俺は並んだ箱を眺め始めた。
ボドゲ棚をずっと眺めることはできなくはないけど、ここは店だ。さっきから店員が俺と
「まだ決まんないのか?」
「何が良いのかわからなくなっちゃって」
「長考し過ぎだろ」
「だって」
「あんまりずっとうろうろしてると他の客だとか店の邪魔になるだろ、狭い店なんだからさ」
俺の言葉に
「そっか、そうだね、ごめん」
「それで候補くらいは絞り込んでるんだろうな、さすがに」
俺の言葉に、
「兄さんに話す必要ある?」
「五秒以内にレジにいけるなら話さなくても良いけど」
そう言ってからたっぷり五秒、
「サイコロが良いのかなって見てたんだけど、形がこんなにあるなんて知らなかったから……種類も多いしどれが良いかわからなくて」
思わず口を挟みかけて、まだ言葉が続きそうだったので慌てて口を閉じた。
「それに、確かにかっこいいサイコロもあるけど、やっぱりもらって嬉しいのかわからなくて」
「かっこいいものは嬉しいだろ」
「兄さんはそうかもしれないけど」
カドさんだってたいして変わらない気がする。それにカドさんは
今このタイミングで必要なのは、
「他のグッズはよくわからないし。それでアクセサリーの棚も見て、どういうのが良いのかと思ってたところ」
「それで?」
話を進めようとする俺を
「ペンダントとキーホルダー、どっちが良いかなって迷ってて」
どっちでも良いんじゃないか、という言葉をすんでのところで飲み込んだ。
「兄さんはどっちが良いと思う?」
さっきは俺の意見を切り捨ててただろ、なんで今度は俺に聞くんだよ、面倒くさいと言ってしまいそうになったのも飲み込んだ。
さっきから飲み込みすぎだ。これ以上飲み込めそうになくて苦しくなった分を小さな溜息と一緒に逃してから応える。
「俺だったらキーホルダーだな。特に根拠も理由もないしカドさんがどう思うかは知らないけど」
だって身に着けるアクセサリーとかプレゼントとしては重いだろう、とまでは言わなかった。二人の関係性によってはそっちが正解の可能性もある。その可能性を切り捨てるだけの情報を今の俺は持っていない。
俺の物言いはひどく雑だったけど、
「カドさんは黒が好きっぽいな。プレイヤーカラー、黒があるときはいつも黒を選んでる」
俺の言葉に
「小さい頃、黒い色が好きだったって、前に言ってた」
「今もだろ」
「そうかも」
何を思い出したのか
「じゃあ、買ってくる」
満足そうに小さくそう言って
近くにあったモビロンバンドを大小一袋ずつ手に取って、俺もレジに向かう。あまりに長時間店に留まりすぎた気がして、何も買わずに出るのは落ち着かない。まあちょうど、そろそろ買おうと思ってたところだったから丁度良い、と自分を納得させた。
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