EP4.5 幼馴染のキモチ
時刻はレイが運ばれた直後に遡る。
呼吸が荒いものから規則正しいものに変わった。恐らく眠ったのだろう。胸元からレイの顔を離す。
「泣いてる顔なんて……見られたく無いよ……」
泣き顔を見られたくなかった。私が泣いているのを見る事は、彼にとって1番不幸な事だって私は理解しているから。……理解しているだけだ、怖くて何もできないのに。
やがてアシモフ先生が来てくれて、レイを背負って何処かへ向かって行った。恐らくレイを医療施設へ連れて行くのだろう。彼の暖かみを惜しみながら、私はそれを眺めていた。
「三人ともどうしたの?」
声のする方を向くと、ハクユさんとツイノメさんが居た。方向的にお手洗いから帰ってきたのだろう。
「あれ、ラース君は?」
疑問に対し、ミツルギくんとアンドウくんが説明した。
「そんな事があったのですね……彼の容態はどうなのです?」
「とりあえず安定はしてた。大丈夫……だと良いな。」
「そうだね……。」
ツイノメさんがレイに突っかかっていることは知っている。それでも彼を心配してくれているのは、彼女にとって彼が純粋なライバルであるからだろう。下劣な親衛隊にはそのような事できない。
「今は彼の無事を祈りましょう。それはそうと、何故カミゾノさんがここに?」
「ああ、彼女は俺たちが大人を呼んでいた間、レイを介抱してくれていたらしい。」
「なるほど。」
ツイノメさんは興味深そうに頷くと、私に問いかけた。
「なぜその様な事を?お二人は親しい仲でもないのに。」
私はどきりとした。彼女には私の心が読めているのか?それに対して私は、努めて平静を装い質問に答えた。
「そんなの、大した理由なんて無いよ。ただ苦しんでいる人が居たから助けたいって思っただけだよ。」
「その割には、随分と顔が紅潮している様にも見えますが。彼とは一体どういう関係なのです?」
ツイノメさんは引き下がる事なく、私に食い付いてくる。表情は声音から悪意は感じ取れず、ただ人の事情が気になるだけだろう。他人の恋バナが気になることと同じだ。
女傑という言葉が似合う人間だが、やはりこう言う話は気になるのだろうか。
「彼とは……レイは、私の幼馴染なの。」
それから私はレイとの過去を話した。最も当事者の一人である彼がいないので当たり障りのないことしか開示しなかったが。
「でも、私は彼にひどい事をしてしまった。」
「だから…疎遠になったと……。」
「うん……でも……私、やっぱり寂しい……レイと離れたく無い……。だから……」
「じゃあ私達、協力してあげる。良いよね?アッシュ。」
「ああ。マトイがそう言うなら。」
私の言葉を遮って、とんでもない事を言い出した。何とハクユさんとアンドウくんが私に協力してくれると言うのだ。
「どうして……?」
「だって、私達も幼馴染なんだもん。そういう気持ち、ちょっとは分かるから。」
「その話、私もご一緒できますか?」
ツイノメさんまで仲間になってくれるというのか。
「大体の事は把握できました。ラース君と貴方が何故いつも暗い顔をしているか、分かったのですよ。」
彼女は自信げに語る。
「色恋沙汰で弱体化した強者を倒しても何の意味もない。私が貴方に協力する理由は所謂、敵に塩を送るという奴です。」
なるほど。要は私とレイの弱体化の原因を潰し、その上で私達に勝とうとしているらしい。私達をライバル視している彼女らしい理由だ。
「今は感謝するわ。……でも、本当のレイは強いよ。私以上に。」
「上等です。」
私と彼女の間に火花が散る。隣のレオン君が「デジャヴ」と言っていた。
「まあまあ、皆んな仲良くね?」
ハクユさんが仲裁に入った。アンドウ君も「デジャビュ」と言った。何があったのだろう。
「それじゃあ、『カミゾノさんとラース君くっつけ大作戦』!がんばろー!」
「「「おー!」」」
「そのまんまですね。」
そうやって意気投合していると、館内放送で集合の知らせが鳴り響いた。私達は急いで所定の場所へ向かう。
「良かったな、カミゾノ。」
「うん……。これで……。」
その最中、私とレオン君は密かに言葉を交わした。
「ん、どうした?」
だがアンドウ君に聞かれてしまったらしい。おそらく内容自体は理解していないだろう。
「いや、何でも無いよ。それより聞きたい事があるんだけど……。」
話題を逸らし、彼に質問をする。
「なんでハクユさんは君の事を、"アッシュ"って呼んでるの?」
私がそう聞くと彼は恥ずかしそうに答える。
「それはだな……」
「昔、好きだったキャラクターがその名前だったの。だから自分の事をアッシュって名乗ってたんだよ。」
ハクユさんが面白げに答えた。
「恥ずかしいからやめてくれよ……」
「ええ〜?でもカッコいいし。それに、馴染みのあだ名で呼び合うって、なんかロマンチックじゃない?」
「分かる!私もレイにサナエちゃんって呼ばれたいって今でも思ってるもん!」
「やっぱり!?カミゾノさん分かってるね〜!」
ガールズトークに花を咲かせながら、私は希望が見えてくるのを感じていた。
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