配信キューピー地獄めぐり

其日庵

カスみたいな奴ら、と女子高生は言った

①キューピー、妹の告別式でJKに暴言を吐かれるのこと。


 告別式はひと通りすんで会場に人の流れがあった。

 糺一きゅういちは喪服すがたの母のそばへ歩んだ。

 母はまるで目が見えず耳も聞こえぬ人のようだった。


「気分は?」

 糺一は母に声をかけた。


「来ていたの」

 ふりむいて母はいった。


「この後しばらくしたら出棺らしいけれど」

「こっちはどうすればよいのかな」


 母は息子をみつめた。

「あなたはもう遺族ではないから、棺を担ぐ必要はないわ」


「へえ」

「こっちはもう遺族ではないのか」


「形式的にはそうなのよ」


「そうか」

「わかった」


「立つ場所は、私たちの―—つまり遺族のそばの、適当なところで見送りなさい」


「わかった」

 糺一は母のゆるんだ肩に手をかけてからそこを離れた。


               ◇


 糺一がロビーで座っていると、目の前のソファに親子連れらしい三人組がかけた。

 父母に連れられた高校生くらいの娘は夏服の制服姿だった。

 

 彼女は窓の外をみていた。

 横顔に、なにか渇いたものを漂わせている少女だった。


 ただ沈黙を埋めるだけのかたちで糺一は声をかけた。

「きみは、あやのお友だちかい?」


「友だちってほどじゃないかな」

 娘はそっぽを向いたままいった。

「顔と名前を知ってるってだけ」


「学校は同じなのかな」


「そお。あたしの親が——」

 娘はかたわらの両親を顎でしゃくっていった。

「綾の親と付き合いがあったから、それで引っ張ってこられたわけ」


 娘の両親は苦い顔で娘をみやった。


「綾とはとくに親しくしていたわけではないのだね」


「うん」

「あたしたちとはグループが違ったし」


「綾は、学校ではどんなグループだったんだい」


「アレよ。しょぼい負け犬ども」

「オタにもなれないあぶれ者どうしが、他にどうしようもないから仕方なく一緒にいる連中。肚の中ではお互いのこと軽蔑しあってるカスみたいな奴ら」


瀬乃せの!」

 娘の父親が声を荒げた。

「言葉づかいに気をつけろといってるだろう!」


 瀬乃と呼ばれた少女はつっけんどんな目で糺一をみた。

「てか、あんたは綾のなんなのよ?」


「兄です」


 神経が引き裂かれるような沈黙がひろがった。

 瀬乃の両親は恐縮のあまり詫びを言い出しかねているのか、床の絨毯や靴のつま先などに視線を落としていた。


「綾は」

 ひとり平然として瀬乃はいった。

「一人っ子だったはずだけど」


「こっちが小学生のころ親が離婚したのさ。母親が綾を連れていって、その後いまの旦那さんと再婚したという次第」

 それだけいって糺一は瀬乃の両親に目礼し、そして席を立った。

 

 瀬乃はその場を離れてゆく糺一の背をみていた。 

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