第2話 突然の荒野
しばらく闇に包まれていた気がする。
それは突然の事だった。
「ん? えっ?」
俺は目覚めた。
目の前に白いモヤが広がっていた。霧か?
不安になり目を擦ると遠くの方に山々のようなものが
嫌な予感が支配し始め下を覗くようにすると茶色っぽい地表らしきものが見えた。
「っ……これってどういう状況なん!?!?!?」
俺は腕組みをしながらしばし考えてみる。
確か……自転車で帰宅途中に車に轢かれて……と考えていると、何故だか胃が浮くような気持ち悪さが込み上げてきた。
そうジェットコースターの急降下のあの感じだ。
そして景色も急速に上に流れて……。
「いっいっいっ……いっくぅぅぅぅううううううう!!!!!!!!!! じゃなかった……いっやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! 落ちてる落ちてる!!! 落ちてるってば!!!!! 俺落ちてるって!!!!! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬううううううう」
俺は上に向かって必死に泳いだ! しかし落下速度を落とすには余りにも無力であった。
努力空しく無情にも景色は逆さまになり俺は今、頭から落ちているらしい。
あっ!!!!! そうだきっとこれは夢に違いない!!! 悪夢は得てして夢とは気付かないものだが、俺は今正に気付いたのだから怖いものは何も無い!
「怖くない怖くない怖くない……やっぱり怖ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!! うぎゃぁぁぁぁぁ助けてぇぇぇ落ちるぅぅぅ誰かぁぁぁぁぁ!!!!!」
当然返事がある訳もなく死のカウントダウンが進んでいく。
終わった……俺は何故か上空数百メートルから落ちているようだ。
俺は死を覚悟して姿勢を正した。つまり背筋ピーンだ。
ネギとシラタキ持ったまま死を迎えるという黒歴史が脳裏に一瞬フラッシュバックしたからだ。
今回はせめてカッコ良く刺さって死にたい……。
俺は目をギュッと閉じその時を待つ。
そして数秒後――激しい衝突音が辺りに響く。
「ゴボラッ!!!!!」
地面に派手に刺さった瞬間変な声が出てしまった。
そんなことよりも、俺死にました。夢ではありませんでした。
何故なら……とても痛いから! 夢ならこんな痛い訳ないしね。短い人生でした。ではでは。
……て違ぁぁぁう!!! まだ生きてるから! 死んだら痛み感じないよね?
俺は生きてる事を不思議に思いながらも地面に刺さった頭を尻を振って必死に抜こうとした。真っ暗で何も見えない!
藻掻くが余程の勢いで突っ込んだからか、なかなか抜けない。土に埋まってるから息も苦しくなってきた。
「むぐぐ……むぐぐ……ンゴンゴ……ンゴンゴンゴンゴ!」
まずい、このままでは本当に死んじゃう! 前に一回死んだ気もするけど。
俺は最後の力を振り絞り一気に力を入れた。
「ぶはっっっ! はぁはぁはぁはぁはぁ!! あやうく死ぬところだった!」
何とか頭が抜けた俺は仰向けになり新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込む。
しばらく荒い呼吸を繰り返しては生きてることに感謝する。
マジで死ぬ一歩手前だったわ。
なんか知らんが、だいぶ高いとこから落ちたみたいだけど何で生きてんだ俺。
俺を中心に隕石が落ちたみたいにクレーターが出来てるし……こわっ!
取り敢えずどこかケガがないか確認してみよう。
俺はその場で足踏みしたり、ぴょんぴょん跳ねてみるが骨折とかは無さそうだ。
少し頭と首に違和感があるくらいか。
そこで突然冷たい突風が吹きつけてきた。思わずよろけたが何とか踏みとどまった。
「てか寒っ!!!」
状況の変化に混乱していて今まで寒さに気付かなかったようだ。
よくよく見てみれば遠くの山の頂には雪の様なものが見える。
そりゃ寒いだろうさ。俺は腕を摩りながら肩をすぼめた。
そして改めて周りを見渡すも何も無い。デカい岩だとか枯れた木がちらほら見えるばかりだ。言うなれば荒野てやつか?
しかし何だろうね。この不安な気持ち。どこからくるのか。寒いからか? いや違う、ここが何処か分からないから?
いやもっと重大な何かを見落としているような……。
思考していると、そこでまた冷たい突風が吹いてきた。
その時俺の下半身がキュンとなるのを感じた。
いやな予感がして恐る恐る目線を下ろすと……。
そう、そこには見慣れたアイツが居ましたよ。
「……」
一旦落ち着こう。心臓がドキドキしてきた。どうしてこうなった? 流石におかしくないか?
記憶を整理しよう。
俺はおそらく車に轢かれた。そして気付いたら荒野上空にいた。自転車には当たり前だが服を着て乗っていた。しかし今はどうだ?
「ガッッデム!!! ありえないだろがぁぁっ!! 何で俺フルチン! 何でフルチン! 何で俺はフルチンなんですかぁぁぁぁぁ……」
誰! 俺の服取ったの! 俺は全てに絶望し、どこかの誰かに向かって訳わからん絶叫をしていた。
涙が溢れ出して止まらなかった。
しかしこんな荒野に人が居るはずもなく、からっ風が吹くのみ……と思われたのだが……。
どこからか声が聞こえた気がした。
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