『おい変態!』から始まる異世界(泣)~どSエルフとモフモフと共に~

八万

第一章

第1話 ぶた肉のすき焼き


「ふんふふん♪ ふふふん♪ ふっふふん♪ ふふんふふん♪ ふんふんふーん♪ うっふん♪」


 俺は鼻歌を唄いながら愛車フェラーリ(赤いママチャリ)にまたがり、颯爽とバイトからの帰宅中だった。

 高校は中退してるから今はバイト三昧だ。

 前カゴには食材が満載されている。すき焼きの材料だ。ちなみに使う肉は豚肉。

 上下に激しく揺れるカゴから長ネギが横に飛び出して今にも落ちそうだが気にしない。


 そう俺はワイルドだからだ。


「あー腹減ったー! 早く帰ってすき焼き喰うぞーっ!! いえーい!!!」


 俺はこぶしを振り上げながら絶叫した。

 涎が風にのって後方に飛んでいくが気にしない。

 今の俺は風だ風なのだ。

 誰も俺のスビードには追い付けない。

 ペダルを踏む足の回転はさらに加速をする。

 横を通り過ぎる人々を遥か彼方に置き去りさ。


「すき焼き待ってろよぉぉぉ!!! 今参りまぁぁぁぁぁすぅ!? あっシラタキが落ち……アンギャッ!?!?!?」

 

 自転車が段差か何かで跳ねて、カゴから落ちそうになったシラタキを左手で見事キャッチしたと思ったら、視界横から急に何かが現れ、物凄い衝撃と音と共に俺は弾き飛ばされていた。


 突然の衝撃と世界がグルグル回る感覚に気持ち悪くなる。

 暫く後にやってきた頭や体への激しい痛み。


 ……あれ……んっ……胸が苦しい……ア、ア、ア、テステス……スキスキ、ヤキヤキ……やばい……声も出ない。

 指一本さえも動かない……。

 あぁ死んだわこれ。


 すき焼き食べたかったぜ……。


 なんでよりによってバイトの給料日に車に轢かれるかなぁ、ついてねぇ……。

 友達少ない彼女無しで独り暮らしの俺は、給料日にささやかに一人ですき焼きパーティーをしようと思っていただけなのに。

 そんなささやかな楽しみさえ奪われてしまうとは……。

 この世に神はいないのか?


 

 俺の小さい時に父は突然失踪し、元々体が弱かった母は女手一つで働きながら子育てし、二年程前過労が祟ってか当時高校生の俺一人残して亡くなってしまった。


 高校生になってから俺はバイトで家計を助けていたが、俺を大学に行かせる為に母は無理をして働いていたのかもしれない。「俺は大学になんか行かんから!」て突っぱねたのに。

 生前母は夜遅く帰ってくることがよくあった。

 母はちょっと人手が足りなくてと笑顔で言っていたが、失踪した父を探し回っていることは鈍い俺でも分かった。

 心当たりのある場所に行っては父の写真を見せて、誰彼構わず父を見なかったかと聞き回っていたいたらしい。それは父の知り合いから聞いた話だ。

 そんな母が亡くなったのは正直精神的にこたえた。

 そしてあんなに仲睦まじかった母をほっぽり出して失踪した父を俺は恨んだ。


 ある日母は病室で俺の手を握り締めて寂しげな笑顔で言った。


「お父さんは絶対帰ってくるから。お父さんを恨んではいけないよ。お母さんには分かるの……きっと何か帰れない事情があるのよ。だってお父さん本当優しい人なんだから……お父さん帰ってきたらお前の大好きなすき焼きまたみんなで食べようね」


 その日の夜中に母は静かに息をひきとった……。

 母は本当に最後まで父を信じて亡くなったんだ。


 だからもしひょっこり父が帰ってきたら、一発思いっきりぶん殴るだけで赦してやると時間が経過するにつれ俺は思うようになっていた。



 そして今現在ようやく母の死から立ち直ってこれから頑張って強く生きて行こうとしていた矢先にこれとは……。

 

 まさにオーマイゴッドだっ!


「……母さん……今から俺会いに行くから待っててくれ……一緒にすき焼き食べようぜ……」




 最後に俺の目に映ったのは、右手に握りしめたままポキンと折れた長ネギだった。

 左手に握った、シラタキの袋の感触が妙に癒しだった。


 しかし……事故の現場を目撃した人はどう思うのだろうか。

 右手に長ネギ、左手にシラタキを握り締めた死体……なんそれ怖っ!!


 薄れゆく意識の中でそんなアホな事を考えていると、俺の身体と目蓋まぶたは急速に鉛の様に重くなる。


 あぁ……短い人生だったぜ……さらば……ん? 何だ!?


 俺はなぜか身体が深海に沈みゆく船のようにゆっくりと地面に沈み始めるのを感じていた。

 

 ここで俺の意識は途切れた……。




 ズズズ――ズズズ――ズプリ――





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