第9話 持続可能エネルギー

「ううっ…ううっ…」

さめざめと顔を手で抑え、美少女が泣いている。

本来であれば胸をつくような光景だがちっとも心は痛まない。

何故なら泣いているのは性悪女ビビアだからだ。

「何手篭めにされたみたいに泣いてんのよ。たかが肥溜め作業くらいでしょうが。本当は畑も整えたかったのに」

「『くらい』?!アンタはみたいな芋女と同じにすんじゃないわよ!こっちは根っからのお嬢様よ?前世は都民よ!」

ギロ!と般若のような顔で睨む、が。

「どうせ上京民でしょ。ていうか慣れなさい。ここで暮らすんだったら必須作業よ」

「もうヤダ…乙女ゲーム世界に転生して何で人のう⚫こ運んでるのよぉ…有り得ないでしょ…」

「それが発酵していつしか大地の恵みになって還元されて…また新しく生み出されていく…究極のサスティナブルじゃない」

「誰が意識高いように言い変えろって言ったぁ!結局う⚫こになるってことじゃない!」

ばさぁ!とお湯を巻き上げて腐臭ロリ美少女ビビアが叫んだ。

ちなみにこの世界には風呂がある。

庶民はあまり入らないけど。

肌着をつけて入るけど。

教会は本来は隔週に一度沸かす程度だ。

ただし作業によっては教会近くの温泉に入ることを許される。

そう。

あるのだ温泉が。

もう本当に小さくて浅くて2人できつい様な有様だが。(教会もちの土地なのでろくに整備もされてない。贅沢は敵!らしい。)

これって実はめっちゃくちゃ有難いんだよな、と今更ながらに痛感する。

王都近郊になると、温泉が湧き出るような場所もないので、庶民は手桶で体をふいてすますのもざららしい。

上下水道誰か整備してくんないかな…そんなんやる知識スキルはないのでぜひ誰かに丸投げしたい。

「ていうか…サスティナブルとか、だいぶ前のこと思い出したわけ?」

「いんや~?私自身についてはちぃとも。…思い出してもどうなんだろうね?今更今のあた…私になんか影響あるのかな。へぇそうとしか思えなそうなんだけど」

「…ふぅ~ん。そうよねぇ…」

ふっと真表情になって続ける。

「私は子どもの頃に思い出しちゃった。だからもうビビアってより前の私の続きって感じだったのよね。もし思い出すのが遅かったら…」

ぽつり、と泡のように小さな声で呟く。



「あんな馬鹿みたいなこと、しなかったのかな」



「…ごめん、知らんわ」

「…あんたはそういうやつよね…」

「ん~…だって、過去は変えられないし。今からでしか、考えられない」

手でお湯をすくう。お湯はそのまま指の間をすり抜けて、腕を伝っておりていく。


「例えばあたしが本当にヒロインだとして。今更王都に行ったって。

貴族にはなれない。

貴族の偉い人になんて会えない」


「会ったとして」


「今のあたしが、貴族の偉い人見初められるなんて思えない」


「もうあたしは出来ちゃってるもの。」


「田舎者のはみだし者のあたしが

出来上がっちゃってる」




「…アンタはそれでいいの?」

じっと琥珀が見つめてくる。

性悪なのに目はキラキラ綺麗って変なの。

「もしかしたら、それこそお姫さまになれたかもしれないのに」

真剣にそんなことを言うもんだから


ぷ!


思い切り吹き出してしまった。

「お姫さまとか絶対ヤダ!絶対行きたくない窮屈!スカートの下で足組みかえてカーテシーとか絶対無理!」


「あたしは今のあたしがいい!」


そう笑ったら、目の前のはすっぱ女はふかーーーいため息をついた。


「自分をそんだけ肯定してみたいわ。やな女」



失礼な。あんたほど嫌な女じゃないわ。


と思いつつ。

最初よりなんとなく、狭いお風呂に一緒に入るのは嫌じゃなくなっている。


本当にちょっとね!

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