第6話 シスターオルミエーヌのお願い
「シスターオルミエーヌ…あたしはあなたを尊敬しています…」
「ええ、知っていますよ。リーン」
「あなたは厳しいけれど、その厳しさには筋がある…あなたが仰ることには極力添いたい…」
「ありがとう、リーン。そう言ってもらえるのはとても嬉しいことよ」
「だけど…だけど!」
「
「言葉が乱れてますよ、リーン」
「うう…そんな激重任務…なんだってあたしなんかに…」
「リーン、前から言っているでしょう。『あたし』ではなく『わたし』。話し方ひとつでも人から与えられる尊厳は変わるのですよ」
「うぅ…しすたぁ…」
こんなことになるなんて夕餉のときには思ってもみなかった…
『セリアナさん、ビビアさん、リーン、こちらへ』
夕餉後、各々仕事に戻る前にシスターオルミエーヌに声をかけられた。
『まず…セリアナさん、貴方の夕餉時の態度は目に余ります。何時いかなる時も祈りの場。修行の場。心あらずになるなど以ての外です』
『…申し訳ありません…』
『ビビアさん、貴方もですよ。静かには召し上がってらっしゃったけど、ただそれだけ。日々の糧に対する感謝や祈りを怠ってはなりません。召し上がる時には神々への感謝を忘れずになさい』
『…はぁい、申し訳ありません』
『リーン』
『はい!』
『貴方も今日はここに心在らずでした。預かりの身とはいえ、ここにいらっしゃる時はあなたも同士。神々への祈り、感謝、忘れてはなりません。』
『はい…申し訳ありません…』
『セリアナさん、ビビアさんはお務めに戻られて結構です』
『え』
『リーン、貴方はこちらへいらっしゃい』
『……ぇぇ…』
と華麗にシスターオルミエーヌの私室に連行された。
これは他にも何かやらかしてしまったか、と冷や汗をかく間もなく。
『リーン。貴方にお願いがあります。セリアナさん、ビビアさんの指導係、務めていただきたいのです』
爆弾を投下されました。ハイ。
そして、今に至る…現実逃避の回想終了。
「あたしには無理ですよシスター…ご存知の通り、野山育ちの田舎者ですよ?お嬢様方の指導なんてとても…それにちゃんとしたシスターってわけでもない。ただの預りの半端者です」
「『あたし』ではなく『わたし』です。リーンだから出来ると思っていますよ。」
ふ、と一息ついてシスターは白湯を渡してくださる。
まだ温かい。
手でぬくめながら続きを待つ。
「ひとつ。初めてあった時から2人はとにかくリーンとは話します。内容はわかりませんが…他の者達とは殆ど彼女達は話しません。リーンには親しみを感じているのでは?」
それは単に『前世』という共通項があっただけなんです、シスター…とはとても言えない。
「次に預かりの身。それがまさに今回はいいのです」
「え?」
「彼女達の起こしたトラブルは人間関係です。リーンも分かっていると思いますが…教会は共同生活です。どうしても関係性は濃くなります。」
「はぁ…」
「濃い人間関係とは、それだけトラブルも起きやすいということ…特に彼女達の場合、プライドも高い。どうしてもまだ優劣に囚われてしまう」
「…」
「ここでの生活を覚悟した者達は、それも自分で乗りこえます。というより、それを乗り越えることも修行でしょう。ですが強制されて来た彼女達はその意思もない。とすれば、最初のうちはガス抜きが必要です。」
「それであたし「『わたし』」」…私ですか…」
ふう、と息をつく。
「いい意味でも悪い意味でも、春になれば強制的に距離ができる。人間関係が煮詰まる前になんとかなる、てことですね?」
「勿論、リーンへの信頼が1番の理由ですよ。貴方は誰かと誰かを比べたとして、『違い』としても『排除』の理由にはしないでしょう」
う、ずるい。
ここまで信頼してる人から言われて、断れるわけがない…断りたいけど…そして夕餉時に2人を比べてたの滅茶苦茶バレてるけど…
「彼女達がここに来たのも、神々の導いて下さった縁。悪縁ではなく良縁としたいのです。誰にとっても」
ううう。
断りたい。
本音でいえば面倒そうなお嬢様方とか関わりたくない。特にお姫さま…
だがしかし。
「……はぁ…降参です。勝てる気、最初からしなかったけど。」
もう何年もお世話になっているシスターの滅多にない『お願い』。
断れるわけがないのだ。
「貴方にとっても良縁になることを願っています。もし本当に無理なら、その時は仰い。次の手を考えることも、私の役目です」
「…信頼してますよ、シスターオルミエーヌ」
そう言うと、シスターは珍しいほどにっこりと笑われて言った。
「貴方が信頼してくれる分以上に、私は貴方を信頼してますよ。リーン」
だからそう言うとこ!!!!ずるい!!!!
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