第2話 自爆乙な転落劇

「や~なんとかなるもんだね~」

ぱん!と洗濯を叩きながら話しかける。

ちなみに今は3人仲良く、洗濯を干しながらの会話だ。

戒律に厳しい院なので、本来はこんな長話や大声での会話は許されない。

ただ洗濯干場はすこし院から離れており、多少の会話なら許される為、なんのかんの理由をつけて2人まとめて連れ出した。

あたしがいるなら、とシスターオルミエーヌの了承もあり。

日頃の信頼って大事ね。

「お、お礼なんて言わないわよ!」

「私も~女にお礼なんて言ったってなんにもなんないしー」

「おん?そんなん言うか?今からでも『祈りの間』行ってくるか?おん?」

「「すいませんでしたァ!!!!」」

スライディング土下座を綺麗に決めてきた。

惜しいな、採点ボードあったら10点出すのに、とまで思って。

スライディング土下座ってなんだ、採点ボードってなんだと疑問がでる。

今までだったら、疑問に思いつつ流してた。

でも


「恩があると思うなら教えて。『日本』て本当にある場所なの?」


さっき栗毛が零した『日本』。

無視のできないひっかかりを覚えてどうしても聞かざるをえなかった。




「つまり…あたし達はもともと日本ていう国に住んでて?」

「ええ」

「ここはその世界にあった乙女ゲームってやつの世界観で?」

「そー」

「本当はあたしがヒロインのはずだった、と?」

「「そうよ」」

「頭大丈夫?」

「「ほんっっっっと腹立つ!!!!!」」

「いやだってさぁ…」

荒唐無稽だ。

どう考えても頭がおかしい。

ただおかしいと思いつつ、納得してしまう所もある。

例えばスマホ、電車、マンション、ラーメン…今まで頭の中に浮かんでは消えてしまっていた言葉が、2人と話すことによって今では鮮明に思い出せる。

もしかしたら、日本という国に住んでいた、というのは本当なのかもしれない。

だが。

「乙女ゲームの中の世界とか、あたしがヒロインとかはないわー」

「このっ!わたくしだって信じたくないわよ!一番脅威に思ってたヒロインがまさか最初っから断罪後の終着地待機してるとか誰が思うか!!!」

「そうだっての!ていうかやっぱりこんなのがヒロインなら、ヒロインやる気ないんだったら私でもよかったじゃない!何がだめだったのよー!!」

「まだそんな事を貴方は…!身分もマナーも弁えず学園や社会をかき回して!そんな事が許されると思って?!」

「何よあんただって原作が真っ青になるくらい散々いじめ抜いてくれたじゃない!ていうか原作知ってるくせに殿下の婚約者とか公爵令嬢とかの立場で立ち回れないとかそれだけでプークスだし程度がしれますけどおおおお?!王妃になるんだったらそれくらい上手く転がすもんじゃないのぉお?!」

「何よぉぉぉぉぉぉあんただって結局上手く立ち回れずにモーションかけてた相手全員にドン引きされてボッチだったくせにいいいいいい!!」

「はぁああああああああん?!!あんたの邪魔さえなければ誰か一人くらい落とせたわ!少なくともあんなぽっと出女に全部もってかせなかったわああああああああ!!!!」





「…いやうるせぇわ」




あれ以上騒ぐとどう考えてもまた鬼軍曹シスターオルミエーヌに見つかるので、応急処置空手チョップを行った。

大分静かになり、自身の才能と過去の自分にまたひとつ触れた気がした__「て何浸ってんのよ」

「いや、自分の溢れる才能が流石だなっと」

「ええ…何なんですのこの方…」

「まじこんなのがヒロインとか本当にないわ…」

「だからこっちこそ本当にヒロインとかないわー…ていうか何、さっきの話とまとめるとさ」


「王太子殿下の婚約者だったのに低爵位の女と所構わずキャットファイトし」

「うっ…!!」

金髪が呻いた。

「身分差も考えず、手当り次第所構わずモーションかけ」

「くっ…!!」

栗毛が呻いた。

「最終的に第3勢力に全部持ってかれたと」

「「くううううううううううううう!!」」

「やば、面白」

ふと

「あれ?でもさー」

「何よ…」

「それだけでこんな僻地の修道院送りになる?」

「え、と…」

「う、」

「まだ何かやらかしてんだろ」

「「ああああ~~~~~~…!!!」」



舞台は中間成果発表会後の簡単な打ち上げパーティーだったらしい。

中間成果発表会とはなんぞや?と聞いたところ学園における自由研究発表の場だと。

発表テーマはなんでもありで、「研究」といいつつ歌や楽器演奏も可、チーム参加も可だとか。

それぞれのクラスで1次発表をし(チームの場合は代表者をえらんで、代表者所属クラスで発表だとか)、優績者を選抜。学年での優績者は全学年向けに発表の場を与えられるという、『日本』でいう文化祭を大分お固くしたものらしい。

乙女ゲーム(笑)の中では、この打ち上げパーティーこそ、ルート確定?のイベントだったとか。

「本当だったら、この発表自体も好感度上げポイントなんだけどね…この性悪元公爵令嬢が足引っ張ってくれてぜんっぜん上手くいかなくて!」

「それはこちらの台詞よ!殿下たちとの発表をするはずだったのに邪魔してくださるから私まで締め出されてしまって!」

「はいはい…でそのままパーティーで?何したの?」

「う、その…」

「そんなつもりは、なかったのよ、そんなつもりは…」

パーティー会場で本来であれば、ルート確定した人物にエスコートされるらしい。

が、常にキャットファイト状態で好感度などあってなきが如し。


ヒロインになり変わろうとした、ビビア・ウォード男爵令嬢も


その邪魔をしようと画策し、大きく学園や社交界を乱してしまった、セリアナ・シュレーゼン公爵令嬢も


射止めようとした王太子殿下に呆れ果てられ、


男爵令嬢は自主退学勧告を、


公爵令嬢は婚約に関して改めて見直すと通告され。


パニックや、責任のなすりつけ合いからこれまでにない規模の壮絶な掴み合いをやらかし


その拍子に誤って近くにあったカクテルを倒し


さらにはタイミングわるく燭台をなぎたおし


パーティー会場でまさかの火事騒ぎをやらかしたと。



「わぁ…思った以上に壮絶かつくだらな…」

「くっくだらないとは何よ!こっちは必死だったっていうのに!」

「そうよ!逆ハー狙ってたけど、完全無理目になったからせめてと思ってこっちは必死に王太子固定ルートに変えてたのよ!」

「それが!図々しいっていうのよこのメスだぬき!」

「はぁ?!性根が根っこから360度曲がってる女狐に言われたかないわ!」

「ふふーんおバカね!360度なら私の性根は真っ直ぐってことじゃない!」

「一回転回ってねじ曲がってるっていってんだよばーーーーーーーか!!!」

「それでお互い修道院行きって言われたわけね。わーなかよしー」

「「…」」

そうここの修道院。

在籍者は大きく2つに分けられる。

1つはより厳しい戒律、修行を求めてくる本当の修道女。

1つは貴族社会でやらかし、貴族牢にずっといれるほどではないけど、領地にも置いておけない、そんな元貴族子女。

今までのケースを考えると、キャットファイト程度じゃここ行きにはならない。

多分その時は社交界追放、領地から出れないってくらいなんだろう。(前にやらかした別のねーちゃんが言ってた)

火付けというのは大変罪が重い。

場合によっては極刑も十分有り得る。

今回は小火程度で収まったみたいだけれど、多くの貴族子女が集まる場での火事騒ぎ。

「いや…逆にここ行きで収まってよかったじゃん」

「他人事だと思って!」

「正真正銘、今日あったばかりの他人だし」

「ていうか…ヒロインてこんな性格だった?見かけはまんまヒロインだけど…名前もリーンって呼ばれてたわよね?」

「性格は知らん。名前は…リリープリアンナって母さんがつけた名前がサブイボ立つほど嫌いだから、リーンに変えたの」

「あ~…」

「そうか、あの伝説のデフォルト名か…」

いわく、ダサすぎるということで界隈で大盛況だったとか。

人の名前で大盛況とか辞めて欲しい。

「元々ってどんなゲームだったのよ」

「信じたの?」

「ゲームについてはあんまり。でも日本についてはちょっと信じ始めてる」

なぜなら2人と話していると、チラチラ断片的に思い出すからだ。

と言っても、自分に関わるようなことっていうより、電車で見た景色とか、食べ物とか、そういう切り抜きみたいなもんだけど。

ちょっと自分についても思い出せるかな、と思ったけどそっちは全然ダメみたいだ。

まぁ大して本気で思い出したい訳でもないからいいかな。

「でも自分がヒロインのゲームがあるって聞いたら気になるでしょ」

「まぁそうよね…じゃあざっとだけど」

ヒロインはリリープリアンナ(14)。

ピンクブロンドの髪に緑柱石のような瞳が印象的な少女。

パッと見は地味だけど、物語が進む事に磨きがかかって美少女化。性格は明るく前向き。

4歳の時、両親が離婚し、母親に連れられて王都へ。

王都の食堂で働いてる中、体調を崩した通りすがりの男性を介抱。

それが金持ちの男爵で、大層感謝した男爵の希望で養女となり貴族の通う学園へ。

そこで繰り広げられる攻略対象とのきらめく恋愛模様。

メイン攻略対象の王太子、王太子の護衛、クラスメイトの騎士候補生、王太子側近候補のクールメガネ、実は王弟殿下の血をひく教師…「まってまってお腹いっぱい」

「なによまだ触りでしてよ」

「すでにツッコミどころが多すぎて突っ込みきれねーわ。待ってそんなんが現実に起こると思ったの?この世界で10年以上生きといて?」

「そ、それは…」

「いくら親切にしたって庶民を養女にするわけないじゃん。したら絶対裏あるって!ロリコンとかそういうやつでしょ」

「ううう」

「それにいくら貴族なったからって!そんなお偉いさんと簡単にお近付きなれるわけないじゃん!」

「うっ!」

「起こるわけないってそんな芝居にもならなそうなネタ」

「「…だって乙女ゲームにはなってたんだもの…」」

「…」

「…」

「…」

「今日は遅くなったし、そろそろ入ろっか…」

妙に大人しくなった2人組の背中を、院内に押し込む。


こんなんでこの子ら大丈夫かね?

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