地味ガールの恋

璃々花

吹奏楽部人生

初めて

間宮 美穂(まみや みほ)、高校3年生.。小中学校では何も部活に入らず、友人も少なくて、結構地味な女子生徒。九州の田舎に住んでいる。

美穂が通う高校は県でもトップクラスの進学校。しかし、美穂は成績はそんなに良い方ではなく、この高校に入学できたのも、奇跡のようだった。

入学後、なんとなく昔から憧れのあった、吹奏楽部に入った。特に希望する楽器もなかったが、吹奏楽の音楽がかっこいいと感じていた、のだろう。


美穂は、県で実施される夏の吹奏楽コンクールに向けて、朝から練習をしていた。


「あーあ、全然ピッチが合わん」


誰かと演奏を合わせることなく、美穂は一人で音のピッチを合わせたり、指の動きを確認したりしていた。

美穂は目立つのが苦手、というか嫌い。誰も私のこと見ないでほしい、、、と思う地味ガール。

そんな美穂が担当しているのは、ホルン。この楽器を選択したのは特に理由はない。なんとなく、演奏の中でメインになることはないかな、、、、と思っていただけである。そんな甘くないのが、吹奏楽。誰もが大事なパートだし、一人が間違えれば、演奏にも支障が出る。美穂は入部して、初めてマーチを演奏した時に感じた。



「あ、朝礼始まる!」


そう言ったのは、同じクラスの竹本 洲(たけもと しゅう)。

1年生では図書部という、きっと本人の性格に合わないであろう部活に入部していたそうだ。しかし、1年で退部し、2年生になってから、パーカッションのパートに居る木下くんが、誘ったようで、突然、竹本くんが入ってきた。彼も、友人である木下くんと同じ、パーカッションのパートに入った。


1・2年生の時は違うクラスで、教室の場所も遠かったため、全く関わりは無かった。しかし、人気者という噂があり、美穂も「すごい人が吹奏楽部に入ってきた」と感じていた。


吹奏楽コンクールでは、パートでそれぞれ出場できる人数が決まっている。美穂が入っているホルンパート内は、人数がもともと少なく、1年生以外は全員出場することになった。他のパートは2年生でも出場できない同級生もいて、なんだか申し訳ない気持ちだった。入部したての竹本くんも出場はしないようだった。


2年生の時のコンクールでは、先輩との最後の演奏になるため、美穂は精一杯練習を頑張った。本番では美穂自身も驚くほど、ピッチも完璧、演奏も自信があった。先輩からも「美穂ちゃん、頑張ったねー!」と言われるほどだった。見事、この年のコンクールでは、金賞を取ることが出来た。


今年のコンクールでは、3年生は全員出場することが決まっていた。しかし、美穂は去年の頑張りを超えるほどの努力が出来ていなかった。『先輩との演奏』が楽しかったからであろう。そんな気持ちで臨んではいけない、と毎日喝を入れながら、朝や昼休み、放課後に練習をしていた。


3年生では、美穂は竹本くんと同じクラスになったものの、人気者と地味な女子が関わることはなかった。


朝練が終わり、走って教室に戻っていると、


「間宮さん! 古文の課題した?」


と竹本くんから話しかけられた。


「えっ、課題は、途中までしたとけど、難しくて、全部はしとらん」


「課題をしとることには、変わりないたい。さすがやね、間宮さん」


そう言って、竹本くんは美穂を追い越して、教室へと走った。美穂も慌てて後を追いかける。


ギリギリ朝礼には間に合い、先生の話を聞いていた。しかし、美穂は竹本くんから話しかけられたことに、少しドキドキしていた。


『なんで、私に話しかけてくれたとやろ、、、ただ、そこに同じクラスの人間がおったけん、聞いただけやろうな、、、』


美穂は一人で解決し、その日もいつも通り授業を受けた。


「おい、竹本、寝とるんか? ここの文章答えろ」


古文の授業中、課題の答え合わせをしている最中、竹本くんは居眠りしていたそうで、先生に当てられていた。


「すいません、課題忘れました、へへへ」


「へへへ、じゃないやろ!」


さすがの人気者。課題を忘れて、こんなにクラスのみんなが笑うなんて。


「じゃあ、今ぼーっとしていた間宮、黒板によろしく」


『はぁ、だるいなぁ、、、ぼーっとしていて悪いんか、、、』


美穂は黒板に答えを書き、席に戻ろうとすると、


「さすがやね、間宮さん」


という竹本くんの声が聞こえた。竹本くんは美穂に向かって笑顔でピースサインをしていた。美穂は恥ずかしくなり、小走りで席に戻った。


『なんやろ、今日は竹本くんと関わることのあるなぁ、、、初めて喋ったとに、、、』


いつしか、美穂と竹本くんは関わることが少しずつ増えてきた。


放課後、美穂は部活に行こうとトボトボ歩いていると、後ろから声をかけられた。竹本くんだ。


「間宮さん、今日の古文は助けてくれてありがとうね」


「別に助けてないよー」


「なんをぼーっとしとったと?」


「特になんも考えとらんかったけど、当てられてしもうた」


「間宮さんって、なんか面白いね! さっさと部活行こうぜー」


何故か、美穂は竹本くんに肩を組まれ、部室まで一緒に行った。


『なんで、今日はこんなに関わるとやろ!!!、、、別に嫌じゃないけど』


遠くから木下くんが竹本くんに話しかける。


「よっ!竹本! 間宮さんと、なんで肩組んで来とるん?」


『あああああ、大声で言わないでほしい、、、肩を振り払うのも失礼だし』


「おお、お疲れ、木下! 間宮さんと仲良くなったんよ、ね?」


「あ、、、うん」


『仲良くなった?そうなの?!これは、、、喜ばしいことだと思っていいのか、、、こんな地味な奴が仲良くなって、彼に迷惑をかけないだろうか、、、』


美穂はネガティブな考えが頭の中でぐるぐるとしていた。

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