第25話(最終話) 「間森一佐 ! …どうした?応答しろ!」

「目標が山裾から県道方向に進路を変えて移動速度を速めました ! 間森一佐を追跡する模様 ! 」

「間森一佐、県道32号線を時速70キロで北上中 ! 」

「間森一佐と目標との距離、現在500です ! 」

 …豪雨のため、視認性は良くないが、監視カメラ映像をモニターに見ながら管制室スタッフが次々と状況を報告する。

 雷鳴轟く永野川渓谷の県道32号線を逃げるバイクと、追う "地底雷獣 FC" !

 激しく水飛沫を巻き上げながら走っていた間森はしかし、急ブレーキをかけて止まった。

 そして振り返ってロケットランチャーを再度構えると、目標に向けて撃った。

 "地底雷獣 FC" はいつの間にか眼を青く発光させ今まさしく雷撃弾を放つところだったが、直前に間森のロケットランチャーを頭部のすぐ後ろの背甲部に受けて雷撃弾の方向が少しそれ、県道脇の古民家の屋根を直撃。

 バシーン !!

 と大きな音とともに火花が散り、古民家の屋根の3分の1くらいが四散して吹っ飛んだ。

 間森はロケットランチャーを捨て、またバイクをウィリーさせながらフル加速で走り出す。


「何か、まさにバトルチェイスだな、頑張れ間森さん !! 」

 僕もついにそう叫んでいた。


 県道脇の永野川はすでに増水してあふれそうだったが、間森は速度を80キロに上げて必死に目標を引っ張っていた。

「目標も追跡速度を上げました ! 動きが速いです ! 移動速度現在85キロ ! 」

「間森一佐、間もなく大越路トンネルに入ります ! トンネルまで距離900 !! 」

 その時、多々貝自衛官が指示をだした。

「山上部隊、援護射撃開始しろ!」


 トンネルが2003年に開通するまで、ここは標高393メートルの大越路峠を越えて行く急坂急カーブの峠道だったところだ。…旧道は現在進入禁止になっているが、今日はトンネル上の峠付近に10名の隊員が、やはりロケットランチャーを構えて配置についていた。

「目標に向け、射撃開始 !! 」

 眼下に現れた "地底雷獣 FC" は、間森に追い付きそうな勢いで移動して来た。

「ドン !! 」「ドン !! 」「ドン !! 」「ドン !! 」「ドン !! 」…

 山上からの一斉射撃は、しかし距離があるのと、目標の移動の速さのため 背甲部に2~3発当たっただけで、効果は無かった。


 間森は緩い右カーブにバイクを傾けながら、大越路トンネルの開口部に向かって走る。

 そのすぐ後ろには、眼光を青く変えた "地底雷獣 FC" が迫っていた。すでに触覚を前に伸ばし始めている。


「間森さん ! …危ないっ !! 」

 掛賀先生が叫んだ。


 間森のバイクがトンネルに飛び込んだ。

 "地底雷獣 FC" も続いて行ったが、頭部しかトンネルに入らず、巨大な胴体が山面に

「ダーン !! 」

 と当たって止まった。 しかし触覚からは同時に雷撃弾を放っていた。


「間森一佐はトンネルへ進入!」

「目標はトンネル入り口で止まりましたが、雷撃弾をトンネル内へ放った模様 !! 」

「何だと !? …間森一佐は?」

 多々貝自衛官が叫ぶ。


 その間森一佐はトンネルに入った瞬間にバイクを倒し、自らハンドルを離して身体を路面にスライドさせながらバイクから距離をとっていた。

 直後に "地底雷獣 FC" から放たれた雷撃弾は乗り手が離れたバイクを直撃、

「ドンッ !! 」

 と火花を散らすと同時にバイクは火を噴いて炎と黒煙を上げながらトンネル内を奥へ「ザーッ !! 」と音を立てて滑って行った。

 そしてトンネル入り口から50メートル、トンネル壁の左右両側に配置され、ロケットランチャーを構えていた自衛官2名が、トンネル入り口で静止した目標頭部の触覚の付け根部分に正確に弾を放っていた。

「ドンッ !! 」「ドンッ !! 」

 ロケットランチャーの着弾音がトンネル内に響き、目標の頭部から小さな炎と白煙が上がり、次の瞬間触覚2本は付け根から外れて地面にボトボトッと落ちた。


 間森はトンネル内を40メートルほど転がりながら滑って、用意してあったクッションマットに突っ込んで止まった。

 そして狙撃手2名が作戦通りに任務を遂行したことを確認すると、ゆっくりと起き上がって、

「ナイスショット!」

 と叫んで笑顔を見せた。


「間森一佐より戦闘指揮管制室 ! …移動部隊状況終了 ! トンネル内からの狙撃により目標の触覚2本を撃ち落とした ! …隊員に負傷無し、引き続きの作戦遂行を指揮せよ ! 以上!」

 …間森さんの報告が来て、管制室の面々に安堵と喜びの色が浮かんだ。

 僕なんかもう、飛び上がって叫びたいくらいだったけど、自衛官らはまだ作戦遂行の途中だったみたいだ。


「輸送ヘリ2機、間もなく目標地点に到着します ! 」

 瀬津自衛官が言った。

「輸送ヘリ?…」

 僕が戸惑いを見せると、甲斐路が

「最後の仕上げだよ !」

 と応えた。


 触覚を失った "地底雷獣 FC" はゆっくりと身体をバックさせて頭部をトンネルから抜いた。

 その眼光にはすでに光は無かった。

 …そして上空には自衛隊の輸送ヘリ2機が、何か大きな袋のような物を吊り下げてやって来た。


「あれは…いったい何を運んで来たんですか?」

 僕が訊くと、瀬津自衛官が

「塩化ナトリウム溶液です ! 」

 と答えた。


 "地底雷獣 FC" が再び上体を振動させて地中へ逃れようとする動きを見せたが、輸送ヘリからは吊り下げて来た袋が連続して目標に落とされた。


 塩化ナトリウム溶液を身体に浴びた "地底雷獣 FC" は、身体のあちこちからビシッ、バシッとスパークを飛ばし、痙攣するようにその身を震わせたが、

 10分ほど経ってパタリと動かなくなった。


「管制室に掛賀先生や甲斐路 優さんたちはいますか?」

 現地の間森さんからまた通信が来た。

 多々貝自衛官が僕たちに目配せして通信機器の前に3人で移動する。

「掛賀先生、調査隊の皆さん、ようやく私は自衛官としての職務を今回全う出来ました、皆さんの協力のおかげです、ありがとうございました!」

 間森さんの言葉にしかし甲斐路は、

「そんなことより間森さん!…先生から大事な要望が出てますよ !! 」

 と応え、掛賀先生を機器の前に立たせた。

「間森さん、要望を聞いて頂きたいの ! 」

「何でしょう先生?…私で出来ることなら…」

 間森さんが戸惑いながら返信する。

「私と結婚して下さい !! 」

「 !? ………… !! 」


 管制室は一瞬、驚きのあまり沈黙したが、甲斐路だけは予想内のことだったのか笑顔を浮かべていた。


「間森一佐 ! …どうした?応答しろ!」

 多々貝自衛官が沈黙を破って言った。

「了解 ! …私は掛賀先生と結婚します !! 」

 と返信が来た。



 …松戸市の自宅に甲斐路と2人で帰る電車に乗る頃には、雷雨も上がり、暗くなりかけて来た空には月が見えた。

 僕たちは何だか疲労感を覚えて、甲斐路は座席で半分寝ているような状態だった。

(こういうビジュアルは可愛いんだけどなぁ…)

 その顔を見て僕は意味もなくニヤケてしまいそうになっている。


(でも、もうこれ以上日本に怪獣は出て来ないでほしいよ!)

 …車窓から栃木方面の山の黒いシルエットを見ながら、そう僕は呟いていた。



 怪獣少女 甲斐路 優2


 完



※当作品執筆中に、安倍晋三元首相が狙撃され命を落としました。

謹んでご冥福をお祈り申し上げます。














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

怪獣少女 甲斐路優2 ("地底雷獣 FC" を撃て ! ) 森緒 源 @mojikun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画