第80話 魔道具を求めて

「質がいいマジックランプがほしいです。買うとしたら、どこがいいですか?」


 ここにいる全員、特にアイリーンの冒険者としての知識を期待してメディは質問した。

 彼女ならば様々な場所を知っていると思ったのだ。

 普通の魔道具であれば最寄りの町に売っているが、メディが欲しいのはお香を持続させるものだ。

 しかし話し合った通り、質も売値も様々である。

 それを踏まえた上でアイリーンは一つだけ思い当たった。


「魔道具といえば工業都市プロドスだな。あそこには腕がいい魔道具師が集まっている」

「とはいえ、ピンキリよ。それに腕がいい魔道具師となると先約が多いわ」

「カノエの言う通りだが、メディがどうしても妥協したくないとなれば選択肢の一つだろうな」

「腕がいいのはお偉い人達が大体、確保しちゃってるのよねぇ」


 工業都市プロドス。

 国内で使用されているマジックランプのような生活魔道具を含めて、ほとんどがここで製造されて輸出されている。

 第二の王都とも呼ばれており、近年では魔道具以外の製造も盛んだ。

 そのため、魔道具師以外にも多くの労働者が職を求めて訪れる。


「宛てはある。プロドスには私の師匠がいてな」

「アイリーンさんの師匠ですか!?」

「私が魔道具師を目指していた時に世話になった」

「え……」

「どうした?」

「いえ、その」


 メディだけではなく、エルメダも何か言いたげだった。

 やたら過去が多いアイリーンについては半信半疑であったせいで、実話だったという現実を受け入れられない。

 しかもアイリーンの剣以外の腕前についてはすでに聞いている。

 その師匠となれば、と不安を抱かずにはいられなかった。


「心配するな。師匠はプロドスの中でも一、二を争う腕前だ。少し変わっているお方だが、私が口利きをしてやろう」

「変わっている……?」

「あぁ、ゴルイといってな。悪い人ではない」


 その説明を聞いてメディが真っ先に思い浮かべたのがワンダール公爵だ。

 彼についても事前に聞いていた通りだった。

 そんなメディの不安な表情を見て、カノエが助け船を出す。


「もしかして再生屋ゴルイ?」

「そう呼ばれていたな。本人は毛嫌いしていたが……」

「その人ならワンダール公爵が懇意にしていたわ。アイリーンさん、すごい人と知り合いなのね」

「ほう、珍しいな。貴族から大金を積まれても、虫の居所が悪ければ断る人だというのに……」


 また一つアイリーンの過去が増えたところで、メディはまだ心配だった。

 ワンダール公爵、ゴルイ。二人の会話から察するに、どちらも一癖以上ありそうな人物だからだ。

 アイリーンの話によれば、再生屋と呼ばれるゴルイの手にかかればガラクタでさえも新品に蘇る。

 更に彼が開発した大気を浄化する魔道具は工業都市内を一変させた。

 大気汚染による健康被害など、それまで誰も注目していなかったのだ。

 都市内における健康被害が解消されたことで、生産性を著しく向上させた功績は王族も認めるところだった。

 ただしゴルイは誰にも媚びず、作りたいものしか作らない。そう聞いて、メディの不安は増大した。

 どこかで聞いた人物像だからだ。

 メディは改めて父親の言葉について考えた。

 縁を作るということは簡単ではない。

 時には変わり者とも関わらなければいけないのだ。

 同時にメディはゴルイに親近感を覚える。


「再生屋……。大気汚染の解消……。ゴルイさんは環境を治療したんですね」

「そうだな。他にも室内の温度を変える魔道具といい、世に出回っている便利な魔道具のいくつかは師匠の手で作られたのだ」

「しゅごい……!」

「しゅごいぞ」


 人物に対して不安があったメディだが、シンパシーを感じた途端に胸がときめいた。

 薬師と魔道具師、畑違いではあるが何かを生み出して助けるという点では共通している。

 メディの中で早く会いたいという欲求が高まっていた。

 それは傍から見てもわかるものだ。


「メディも大概アレだよね」

「エルメダ、聞こえるぞ」


 全員、メディの周囲に何かがキラキラと輝いているのが見えた気がした。


            * * *


 まずはカノエのアドバイスに従ってワンダール公爵宛ての手紙をメディが直筆で書いた。

 本来であればワンダール公爵相手に手紙で所要を済ませたところで突っぱねられるだけだ。

 しかしメディは彼が隙あらば手中に収めたいほどの人材である。

 カノエも一言、添えた上で獣人部隊のイグルスに配達を頼んだ。

 彼の翼ならば地上を経由するよりも半分以下の時間で届けられるのだ。

 そしてイグルスがクレセインから配達を終えて帰ってきた時、メディは緊張していた。


「汝は言う。ありがとうございます、と」

「ありがとうございます。こちらがお返事ですね」


 突っぱねられたらどうしようという不安とは裏腹に、イグルスはワンダール公爵からの手紙を預かっていた。

 おそるおそる手紙を開いたメディだが、その内容は予想を上回る。


「『ゴルイ、そいつに魔道具を作れ』って……。これだけですか?」

「一応、公爵印が押されてるわ。これを持ってゴルイさんのところにいきましょう」

「え! え! これじゃ断られますよぉ!」

「信頼というのは言葉だけじゃないのよ」


 カノエに言われるがままにメディは旅の支度を始めた。

 目指すは工業都市プロドス。

 メンバーはメディとロロ、護衛としてアイリーンやカノエ、エルメダ。

 過剰な護衛だが、全員のモチベーションはなぜか高かった。

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