第10話 畑作り

畑の土 ランク:D


「ふーーーーーむ!」


 メディは耕された畑の前で唸っていた。この場所で育つ薬草は少ないとはいえ、土の状態がよくない。

 この町に来る途中で種を買っておいたものの、植えるのに躊躇していた。


「これではランクD、もしくはそれ以下の薬草しか育ちませんねぇ」


 メディの腕ならばせめてランクCであれば、ものによるがランクAの成果物が出来る。

 ただし低ランクでは調合に手間がかかる事があるので、ランクが高いに越したことはない。頭を捻るも、なかなか答えが出なかった。


――メディ! 一流の薬師は畑も一流なんだ!

  畑を見りゃ薬師の力量がわかるとまで言われてるからな!


「今の私は三流ですねぇー」


 いい畑にするには土をどうにかしなければいけない。メディは畑の肥料を作ろうと思い立つ。

 考えられるのは魔力水、ブルーハーブを媒介としたものだがこれらも手持ちに限りがある。

 魔力を持つ魔力水やブルーハーブなら、いい土ができるかもしれないとメディは頭をぐるぐると回して考えた。


「魔力水とブルーハーブ、グリーンハーブ! レスの葉! 揃えたい素材が多すぎますねぇ……」


 メディの独り言が進む。昔からメディは言葉にすることで思考をまとめやすいのだ。

 治療院時代に調合室から聴こえてくる独り言を不気味がられたのは今でも知らない。


「レスの葉は入手が厳しいですねぇ……」


 口にしてみて、メディは改めてこれらの素材のありがたみを思い知る。

 レスの葉はあらゆる調合の素材として重宝されるが、この村や周辺では手に入らない。つまり遠出をする必要があり、もしくはアイリーンに依頼するしかなかった。

 更に魔力水に至っては大きな町に行かなければ、ほぼ手に入らない。

 源泉は有力な貴族が独占しており、メディのような平民は彼らが市場に流すのを待つしかないのだ。

 そのせいで村長に処方したポーション以外は水とブルーハーブの調合で代用している。あくまで代用品であり、純度が高い魔力水はやはりメディにとって手に入れたいものだった。


――メディ! 素材ってのは案外、どこもでもあるんだ!

  あらゆる場所に目を光らせろ!


「肥料……肥料……あっ!」


 メディは走り出した。一つ、思いついたからだ。


                * * *


「牛の糞をくださいっ!」


 酪農で生計を立てている村人、ポールは小さな訪問者の要求に対して瞬きを繰り返した。

 変わった女の子もいるものだと考えたところで、メディの職業を思い返す。


「もしかして畑の肥料かな?」

「はい!」

「いいところに目をつけたね。うちの牛は良質な餌を与えているから、いい肥料になるよ」

「よし! よーし! さっそく、ください!」


 メディは糞が大量に入った革袋を受け取ってまた駆け出す。

 糞を持ちながら、おおはしゃぎして村中を走るメディの姿は誰の目にも奇異なものとして映った。


                * * *


 調合室にて、メディには注意すべき点があった。まず調合釜に糞を入れるわけにはいかない。

 口に入るポーションなどを調合するのだから当然だった。つまり別の容器に移して、糞は最後の仕上げとしなければいけない。


「魔力水は貴重だから、ここはブルーハーブですね……」


 調合釜にブルーハーブを投入して、次は普通の水だ。

 最大火力で沸騰させた後、ブルーハーブを投入して手早くかき混ぜる。レスの葉を魔力水と掛け合わせてポーションを作ったように、魔力によって効果を最大まで拡散させるためだ。

 魔力水とブルーハーブは調合において要となる場合が多いので、メディとしても大量に確保したい素材だった。


ブルーウォーター ランク:B


「うーん……まぁまぁとしましょう!」


 ブルーウォーターを冷ましてから、最後に糞だ。これを嫌がっては薬師など出来ない。

 年頃の女の子特有の反応が一切なく、メディはブルーウォーターと糞を掛け合わせた。


「さてさて、どうかな?」


畑の肥料 ランク:B


 メディはガッツポーズで成果を喜んだ。さっそく裏手の畑にいって一通り、肥料を撒く。

 畑の土が輝き出して、色が変化した。黒に近くて潤いを含んだ土が畑に広がる。


「まずは第一段階!」

「メディの姉御!」


 慣れない呼ばれ方をしてメディはドキリとした。畑の外に三人の男達がいて手を振っている。

 先日、山で助けたアンデ、ポント、ウタンだ。人が変わったように、ヘコヘコしていた。


「あなた達は……」

「あれからメディの姉御に助けられて目が覚めたんです!」

「オレ達、これからは姉貴の店にどんどん素材を仕入れます!」

「まだレスの葉とブルーハーブみたいなのしかないんですけどね。あとグリーンハーブも……」


 三人が見せつけてきたのは大量のレスの葉とブルーハーブだった。

 願ってもない展開で、メディは小躍りさえしそうになる。


「こんなに! わざわざありがとうございますっ!」

「山にいけばそこそこあるみたいっすね」

「買い取らせてもらいます!」

「こんなに喜んでもらえるなら、もっと採ってくりゃよかったなぁ」


 メディにとってレスの葉は特にありがたい。彼らの話によれば、これら以外にもまだまだたくさんの素材が眠っているという。

 アイリーンに弟子入りしたようで、日々の鍛錬に励んでいると三人は嬉々として語った。

 元狩人の村人も復帰して、アイリーン、この三人と山狩りとしては充実したメンバーとなっている。


「オレ達、これから姉御に尽くすんで何かあったらすっ飛んできますぜ!」

「舐めた真似する奴がいたらオレ達が殺しますんで!」

 

 姉御呼びに一切突っ込まず、メディは大量の素材に目を輝かせていた。


――――――――――――――――あとがき――――――――――――


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