(96)魔法の授業の講師

~紗彩目線~



「サーヤに魔法を教えるのは、俺でよくないか?」

「は?」



 入り口から入ってきたレオンさんは突然言い出したことに、レオンさんと一緒に入ってきたシヴァさんとオズワルドさんが戸惑ったような声を出した。


 ちなみに、声を出していないだけでレオンさん以外のその場にいた全員が同じ心境だったと思う。


 私も思った。

 この人、いきなり何を言い出すんだと。



「あのレオン様、それはいったいどういう意味でしょうか?」

「ん?だから、俺がサーヤに魔法を教えればいいんじゃないかって」



 アルさんが戸惑ったよな声音でレオンさんに聞くと、当の本人は首をかしげながらなんでもないように言った。


 うん、だから待って?

 なんで、そうなったのこの人。


 唯一というべきかストッパーになりそうなオズワルドさんの方を見れば、彼は頭を抱えて天井を見上げていた。


 あ、この王子様の独断なんですね。

 お疲れ様です、オズワルドさん。


 あと、レオンさん。

 お願いですから、これ以上突飛なことをしないでください。

 お宅のオズワルドさんお母さんの胃がかわいそうですよ。



「あなた、教えれる脳みそあったんですね」

「酷くないか!?」



 天井からレオンさんの方を向いたオズワルドさんは、疲れ切って現実に絶望したサラリーマンのような表情を浮かべていた。


 というかそんな疲れた表情を浮かべているオズワルドさんを見て、言った言葉がそれなんですねレオンさん。



「いやな?シヴァたちは忙しいし、何より騎士団に魔法を教えれるぐらい強い奴がいるのかと思ってな」

「…………ああ、確かに」



 首をかしげながら言うレオンさんに、遠い目をしながらアルさんが同意する。


 え、というかどういう意味なんだろう?

 確かにシヴァさんたちは最近忙しそうにしているから頼れないけど、それと魔法が教えられないというのがどういう意味なんだろう?


 てっきり私は魔法を習わないのか、彼ら以外の誰かから習うのかと思っていた。


 そう思って周りを見ていると、ジョゼフさんが困ったような表情で説明してくれた。



「騎士団はね、基本的には物理で解決することがほとんどなんだ。だからみんな腕っぷしが強いんだけど、魔法の方は使えると言えば使えるけど誰かに教えるとなるとそこまでの腕前の人物はいないんだ」

「一般的な常識や知識は教えることはできますが、魔法の場合はどうしても実践を通して学べという感じでして…………サーヤのように座学から学ぶことを得意とした者からはあまりいいとは思えませんし」



 ジョゼフさんの言葉に、アルさんが付け足すように言う。

 

 物理で解決って、物騒だな。

 いや、騎士団だからいろいろな意味で物騒なんだろうけど。


 でも、それなら私は誰から習えばいいのだろうか?

 できれば、迷惑はかけたくはないのだけれど。

 だって子供ならまだしも、私は成人女性だし。



「…………魔法に関しては、親父に頼もうかと思っていた。親父は基本厳しいが、まじめに取り組む者に対しては真摯に教えてくれる」

「師範ならば問題はないと思うが、師範は今は忙しいぞ?だから、どうせならしばらくここにいる俺が教えようかと思ってな」



 シヴァさんは眉間にしわを寄せながらそう言うが、レオンさんが首をかしげながら言った言葉に何か考え込んでしまう。


 シヴァさんの父親でレオンさんの師範って言うと、確か前騎士団長だったはず。

 え、私そんな偉くてすごい人から魔法習うことになってたの?


 驚きの事実に固まっていると、アルさんが困った表情を浮かべながらシヴァさんの方を見た。



「ええと…………どうしましょうか、団長?」

「教材はあるのか?」

「ええ、一応取り寄せてあります」

「そうか…………すみませんが、レオン様。サーヤのことをお願いします」

「おう、任せろ!」



 アルさんと何度か話すとと、シヴァさんはレオンさんに向かって頭を下げながらそう言った。

 そんなシヴァさんに対して、レオンさんはニカッと笑いながら言った。


 …………どうやら、私は王族から教えを乞うことになりました。

 え、これ一問でも間違えたりしたら首刎ねられない?


 某不思議の国に出てくる女王様が主人公にしたように。

 いや、実際に首を斬られたのは紙の兵隊さんだっけ?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る