(95)真っ黒王子様
~シヴァ目線~
「…………で、いったいあんたは何を考えているんです?」
「何をって?俺は、ただ単に可愛い姪っ子候補に会いに来ただけだぞ?」
ギロリと睨みながらそう言えば、レオン様は不思議そうな表情を浮かべて首を傾げた。
姪っ子候補に会いに来た。
本当に、そうなのか?
今までのこの人を見ていれば、それが嘘であることは簡単にわかる。
この人の性格的に、わざわざ弟弟子が保護者候補になっている子供を身内認識で見に来るはずがない。
「あんたが、そのためだけにわざわざ来たと?で、本音はどうなんです?」
「なんだ、俺のことを信じてくれないのか?」
「あんたの性格からして、わざわざそのためだけにサーヤに会いに来るとは思えません」
「…………いい加減、本音を言った方がいいと思いますよ。ブチ切れたシヴァは面倒ですし」
「え~」
ジッと見ても、レオン様はどこ吹く風と言った感じでニコニコと笑いながら俺を見る。
はぐらかされている。
そんなものはわかっている。
だが、相手はいくら兄弟子とはいえ王族だ。
さすがに、締め上げるわけにはいかない。
そう思っていると、オズワルドが俺が考えていることに気づいたのかレオン様にそう言った。
そんなあいつの言葉に、レオン様は笑っていた表情から真面目な表情に変わった。
「俺が来た理由は、二つ。片方は、言えないな。だが、もう一つは終わった」
「レオン様のもう一つの狙いは、彼女を試すことだ。獣人騎士団に不利益をもたらすか、もたらさないかのな」
…………やはり、サーヤか。
レオン様の立場上、サーヤのことは報告したがまさか考え通りに来るとは思わなかった。
だが、サーヤの前でのあのふざけた行動のなんとなく理解した。
…………まあ、サーヤの中でレオン様が『変人』のレッテルを張られたとしても仕方がないな。
レオン様の自業自得だ。
俺には、関係ない。
だが__
「…………サーヤにスパイの疑いがあるということですか?」
あの阿呆っぽい演技とさっきの言葉から見て、俺は思った言葉をそのまま口にした。
確かに、あいつはこの大陸の種族じゃない。
だがあの状況からしてもあの身体能力からしても、スパイでもスパイの教育を受けた子供ってわけでもない。
それなら、俺達がわからないはずがないからだ。
だが、レオン様もオズワルドも頷くことはなくあっさりと俺の言葉を否定した。
「別に、そこまでは言ってない。ただ、あの子が黒なのか白なのかはっきりさせとけば、後々何が起こっても俺からの証言が取れるぞ?あの子が来てから、いろいろとあったしな。いくらこの国が実力主義で子供を大切にしていたとしても、口さがない馬鹿な奴らは他の国にもいるからな」
レオン様の真剣な表情での言葉に、俺の頭の中に思い浮かんだのは奴や奴の親族たち。
平気で他人の悪口を言う奴ら。
この国では実力主義だし、子供を大切にするのも獣人としての本能だ。
だが、奴らにはそれがない。
だからこそ、サーヤが無害であるということをレオン様が判断したということが大事だ。
一般的にレオン様の【スキル】は公表していないが、知っている者の中では絶対的な信頼がある。
レオン様の審判は、誰も偽ることはできないからだ。
「シヴァだって、俺の【個有スキル】は知ってるだろ?俺の前で、黒を白と偽ることも白を黒だと偽ることもできない。それに、俺はこの国の王子だ。いくらサーヤが幼子だからと言って、国になんらかの悪影響をもたらす存在ならすぐに始末する。それが、俺の王子としてこの【スキル】を得た身としてやるべき仕事だ」
俺の考えていることと同じことを考えているのか、レオン様がそう言った。
…………ああ、確かにそうだ。
この人は、優しい癖にそう言うところは容赦がない。
懐に入れたものには寛容で、敵には容赦がない。
まさに、この獣人の国の王族らしい方だ。
…………サーヤは、今はどの立場にいるんだろうか。
仲間か、敵か、それ以外か。
…………レオン様は、あいつをどう判断したんだ。
その判断によっては、俺はあいつを__
「まあ、結果的にはあの子は白だ。国にも何も悪影響を及ぼさない。ただ__」
レオン様の軽い口調で放たれた言葉に、俺は思わずずっこけてしまいそうだった。
あの緊張感は何だったんだと思いながらレオン様を睨むが、レオン様は何か考え込んでいるのか眉間にしわを寄せていた。
そして、俺も気づいてしまった。
『ただ』と言ったんだ、この人は。
つまり、この国には影響を及ぼさないが、何か他の部分で問題があるということだ。
隣を見れば、オズワルドもそのことに気づいたのか真剣な表情を浮かべている。
「ただ?」
「…………いや、まだ確証がないことだ」
「…………そうですか」
…………よくわからないが、サーヤをしっかりと見とくべきだな。
レオン様の複雑そうな表情を見て、俺はそう判断した。
だが、急に明るい表情を浮かべたレオン様の言葉に驚いてし反応が遅れた。
「まあ、あの子供をシヴァの義理の娘にするのは賛成だぞ。あの子供の価値観は、シヴァにとってもいいからな」
「…………」
急に何を言い出すんだ、この人。
なんで、いきなりその話題になった?
俺にとってもいい?
なんで、そう思うんだ?
俺が、あいつの保護者になんてなれるわけが__
「俺も、あの子の保護者にはお前を推薦しとく。でも、保護者とか関係なく一度あの子と話し合うべきだと思うぞ」
「話し合う?」
「あの子にお前がハーフだってこと言ったら、あの子にとってシヴァはハーフだろうと関係なく大切な恩人なんだって。というか無表情だったけど、俺のこと睨んでたぞ。よっぽど、シヴァのことが好きなんだな!あと、あの復讐はできればあいつらにやってほしいけど」
「は?」
「復讐?」
オズワルドに言われ聞き返せば、レオン様が言った言葉に思わず俺とオズワルドは驚いてレオン様の方を見た。
レオン様は、その時のことを思い出しているのか口元を抑えて笑いをこらえている。
…………もしかして、あの聞こえてきたレオン様の笑い声はそれが原因なのか?
とりあえずサーヤ、お前本当に何をした。
だが、サーヤが言ったであろう言葉の方は純粋に嬉しかった。
ハーフである俺を、実の父やその親族から忌み嫌われる俺を恩人だと言い慕ってくれるのは嬉しいし少しむずがゆい感じもあるが。
だが、復讐はダメだ。
そう思っていると、レオン様がその復讐の内容を教えてくれた。
その内容に、俺とオズワルドは微妙な表情を浮かべてしまった。
…………復讐か、それ?
いや、確かに俺も毛皮がある。
それなのに、テープをつけて一気に剥がすのはどんな拷問だと思う。
だが、お前体毛薄い方だろ?
どっちかって言うと、そんなので冬を生き残れたのか心配になるぐらい薄いだろ?
あ、そうか。
薄いからこそ、痛みを知らないのか。
あと小指をぶつけるのは、地味に痛い。
俺も急いでいる時にぶつけて、悶絶したからな。
だが、サーヤよ。
なんで、復讐がそれなんだ?
俺が幼少期に考えた復讐なんて、自分で言うのもなんだがかなりエグイ方法だぞ?
「…………子供にとっての復讐って、そんなものなのか?」
「俺に聞くな」
「な、笑っちゃうだろ?こっちは、犯罪を起こすのかって身構えたのに」
オズワルドがまるで微妙においしくない食べ物を食べたような表情で俺のことを見ながら言うから、俺は思わず否定した。
んなわけないだろ。
そして、そんな俺達にレオン様は笑いをこらえながら言う。
笑うをこらえているからか、レオン様の声が少し震えている。
「だが、それはいいな。それなら、奴らのプライドをズタズタにできる」
「だろ?」
「…………俺は、サーヤを奴に近づけたくはないんだが。存在自体が、教育に悪すぎる」
オズワルドが嫌な笑みを浮かべながら言った言葉に、レオン様もまた意地の悪い笑みを浮かべて言っている。
そんな二人に、思わず弟子だったころの自分たちを思い出した。
そういえば、あの頃もこんなふうにおかしなことを言っては笑っていたな。
だが、俺としてはサーヤを彼奴らに近づけるのは嫌だ。
あんな奴らに近づけたら、サーヤが穢れる。
何より__
「何より、俺は奴の前で冷静で居られるかがわからない。だって、奴は__」
奴は、俺のお袋を殺した。
だから、俺は奴が憎い。
奴を思い出すだけで、目の前が真っ赤になって腹の奥底から沸々と怒りがわいてくる。
そんな俺が、あいつを目の前にして冷静にサーヤを守れる気がしない。
何しろ、奴のことだ。
サーヤの存在を知れば、絶対にサーヤを狙ってくる。
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