(62)vs誘拐犯①
~紗彩目線~
あれから、どれぐらいの時間がたったのかはわからなかった。
とにかく、ドクンドクンと早鐘を打つ胸を抑えながら周りの音を聞くことに集中していた。
とは言っても、周囲からは何も聞こえてこない。
誰かが怒鳴り合う声も。
剣で戦う時にある金属がぶつかり合う音も。
走る足音も。
不気味なぐらい、何も聞こえてこない。
犯罪者への恐怖心と周囲の状況が気になるという好奇心がせめぎ合っている時に、ガチャリとロッカーのドアが開いた。
「え?」
「お、おねぇちゃん…………だれ?」
ロッカーのドアを開けたのは、私の身長の半分よりも低いぐらいの身長の黒髪の男の子だった。
頭の上には黒色の犬耳があり、白い半そでと青い半ズボンを着た男の子。
なんで、こんな所に男の子が?
確か、騎士団の本部には所属している騎士以外は入れないはずなのに。
…………まあ私という例外がいるけど、シヴァさん曰く私は保護されているから問題はないらしい。
男の子を観察すると、ところどころ擦り傷などがあり服もボロボロだった。
…………この子は、どちらなんだろう?
確か戸籍がなく犯罪を犯す子供もいるらしいから、この子供が犯罪者の仲間である可能性があるし。
でも、誘拐事件が起こっているらしいから犯人の所から逃げ出してきた可能性もあるし。
いや、さすがにそれはないか。
犯人たちもそこまで馬鹿じゃないはず。
誘拐した人質であり、誘拐の証拠でもある子供を逃がさないように拘束しているだろう。
ということは、仲間の可能性が高い。
「えっと…………僕は何処の子なのかな?ここは、騎士さんたちがいる場所なの。迷子なのかな?」
とりあえず怪しんでいないように笑顔を浮かべながら、子供にわかりやすいように男の子に聞く。
そう聞けば、男の子は安心したのか強張っていた表情が緩んだ。
「あのね、こわいおじちゃんにママがけがしたからいっしょにおいしゃさんのところにきてっていわれたの。でもね、そのおじさんのかおがしらなくてこわくなってにげたの」
「そっか…………よく頑張ったね」
涙声でそう言う男の子に、私は頭を撫でながら言う。
男の子の話からして、男が母親が怪我したから一緒に行こうと話しかけて来たから怪しんで逃げた。
親が怪我したから一緒に病院に行こうって、誘拐の常套句じゃん。
いや逆に母親から注意されたのかもしれないけど、しっかりと怪しんで逃げたこの子は偉い。
この子の話からして、たぶん誘拐事件の被害者なんだろう。
そうなると、さっきのブザーは誘拐犯が騎士団の本部に入ってきたから鳴ったのか?
ガッシャン!!
そう考えていると、部屋のドアの向こうから何かが割れる音が聞こえた。
「くそ!あの糞ガキ、まじでどこに行きやがった!!」
「!?」
「ヒッ!」
続いて聞こえてきたのは、男性の乱暴な怒鳴り声だった。
その言葉に、思わず男の子を抱きしめてしまう。
腕の中にいる男の子は、泣きそうになるのを必死にこらえながら震えていた。
「お、おねぇちゃん」
「大丈夫、大丈夫だよ」
もう、泣き出す一秒前の声だった。
とりあえず、落ち着かせるように背中を撫でる。
今泣きだされたら、絶対に部屋の前にいる誘拐犯であろう男性に聞こえてしまう。
そうなれば、今私達がいるロッカーはバレてしまう。
周囲は、ロッカーの壁で逃げ道がない。
まさに、袋の鼠状態だ。
撫でながら、貰ったカバンの中を見る。
何か、何かないの?
何メートルも背の高い相手を、少しの時間でもいいから隙を作らせるもの。
せめて、大人として子供のこの子を守らなきゃ。
ドンッ!!
「おい、糞ガキ!!」
「ひっ、うえ…………うえ~ん」
壁を叩く音と共に男性の怒鳴り声を聞き、とうとう男の子は泣き出してしまった。
声の主がそれに気づいたのか、こちらに向かってどたどたと大きな足音を響かせてやって来る。
その瞬間、カバンの中にある『あるもの』を見つけた。
急いで、蓋を開ける。
「そこか!」
開けたのは、髭面のそこまで身長が高くない男性。でも、あの高さならジャンプすればいける!!
「せいっ!!」
私は、持っていた『あるもの』の中身を男性の顔に向かって投げつけた。
『それ』が顔にかかった瞬間、部屋の中に響いたのは悲鳴だった。
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