(59)事件

~紗彩目線~



「おはよう、サーヤ」

「おはようございます、シヴァさん」



 あれから、二週間が経った。


 特に代わり映えがあるわけでもなく、毎日文字と言葉の練習をして少しずつ食事が変わっていった。

 今は、雑炊から柔らかく煮込んだ具だくさんのスープを食べている。


 時間に追われて仕事が終わらない日々だったから、こんなふうにのんびりとできるとは思わなかった。


 モグモグとくたくたに煮込まれた甘い野菜を食べていれば、バンッと食堂のドアが乱暴に開け放たれた。

 驚きながらもドアの方を見れば、そこにはジャックさんが慌てた表情で肩で息をしながら立っていた。



「団長!近くの町で集団誘拐が起こったらしいです!!見回りの騎士が犯人たちを追っていますが人手が足りず、指名手配犯も数名いるらし…」

「なんだと!?」



 ジャックさんの言葉は、立ち上がったシヴァさんのガタンっという大きな音でかき消されてしまった。

 シヴァさんの表情は、驚愕に満ちていた。


 それもそうか。

 集団誘拐に指名手配犯。

 かなりヤバい単語が並んでいる。



「指名手配犯は何名だ?」

「今のところ、確認されているのは五名です。A級が三名とB級が一名とC級が一名です」



 A級、B級?

 もしかしたら、犯罪者のなんらかの基準値なのかもしれない。

 危険度とか。


 焦った表情を浮かべるジャックさんの言葉を聞いたシヴァさんはすぐに周囲を見回した。



「すぐに向かう。駐屯の者以外は、部隊を組み聞き込みと罪人共を追え!」



 ザワザワと騒ぎながらもせわしなく席を外していく騎士たちを見ながら私はどうすればいいのだろうかと思っていれば、隣に座っていたアルさんに抱き上げられた。


 え、どういう状況?


 状況が読めずにキョロキョロとしていれば、【資料室】と書かれている部屋に連れてこられた。

 その部屋の中には、複数の騎士たちが書類などを整理していた。


 あれ、指名手配犯を捕まえに行くんじゃないの?



「サーヤ、彼らとこの部屋にいてくださいね」

「どういう状況なんですか?」

「危険な犯罪者が、本部の近くの町で出没しました。いいですか?もし本部内に大きな音が鳴り響いたら、すぐに隠れなさい。いいですね?」

「はい」



 そう言えばシヴァさんが駐屯の者以外って言っていたし、もしかしたら彼らが駐屯している人なのかもしれない。


 そう思いながら彼らを見ていれば、アルさんが私の頭を撫でながら言った。





「大丈夫ですよ。彼らは強い。A級の犯罪者など一網打尽にできますからね」



 私としては、そのA級とかB級とかの危険度の方が気になるのですが。

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