(54)純粋で残酷な幼子
~アルカード(アル)目線~
「さて、サーヤ。団長から聞いていると思いますが、午前中は私があなたにこの大陸にいる種族について教えましょう」
私は、これからサーヤにこの大陸の種族について教えることになりました。
まあ、教えるとは言っても絵本を見せながらの説明なのできっとうまくいくと思いますが。
ちなみに私がなぜ教えるのかといえば、まともに教えれる者がいないというのが大きな理由ですかね。
ジョゼフはいいとして、団長はとてもお忙しいですし。
ノーヴァは、どちらかといえば「気合い」だの「こんな感じ」だの感覚でものをいうことが多いですから論外。
というか、ノーヴァの説明で理解できたものなんてジャックしかいませんし。
ジャックは、まあ同類っぽいので理解できたのでしょう。
見たところ、サーヤは座学で理解するタイプのようですのでこの二人は無理ですね。
セレスも、ノーヴァと似たところがあるので無理です。
「はい!よろしくお願いします!!」
「緊張しなくても大丈夫ですよ。種族の話とは言っても、そんなにたくさんの種族はいませんから」
種族は四種族しかいないというのもありますが、緊張しすぎて話を理解できないのは困りますからね。
それにしても、本当に理解力がありますね。
一度教えて質問をしたと思えば、その質問もしっかりと教えた内容を理解しているうえで聞いています。
「竜人についてもいいですか?防御面で恐ろしいと言いますが、彼らに攻撃することは不可能なんですか?」
「そういうわけではありませんね。彼らは、人型の時もドラゴンの時も鱗がない部分があります。もし戦う時の場合は、そこを狙います。まあ、鱗がない柔らかな部分は人型の時の方が多いですね。それに、幼い竜人はまだ強靭なうろこが生えていないためかなり弱い存在です」
竜人は、確かに一見すれば最強のように思えますが実際には違います。
鱗は硬いですが、そこ以外は強度もありません。
幼い竜人であれば、弱い魔法でも一発であの世に行ってしまうほど弱いです。
そういえば幼い竜人が大人の竜人よりも強度がないと知られた時は、その幼い竜人を狙って攻撃しようとした愚か者もいたらしいですね。
まあ、それを聞いた時「アホですか、そいつ」としか思いませんでしたけど。
竜人は獣人以上に自身の子供を大切に思っていますし、何より幼子が大好きな種族です。
竜人は、四種族の中ではバランスタイプで長寿な分子供が生まれにくいというマイナス点がある分、子供は大切にしようという風潮が強いのでしょう。
ですから、その竜人の子供を狙ったバカは見るも無残な最期だったらしいですね。
まあ、今ならその竜人の気持ちもわかりますね。
サーヤが狙われれば、私も相手に容赦できないでしょうし。
そこで、ふと思ってしまったことがありました。
セレスは、彼女の思想にとても驚いていました。
もしかしたら、あの件についても彼女であれば何か違った考え方ができるのでしょうか?
「他種族間の混血について、あなたはどう思いますか?」
他種族同士の混血。
私たち獣人や竜人のような実力主義で子供好きの種族にとってはどうとも思いませんが、一部の精霊や魔族からはあまりいい目では見られません。
精神的虐待、もしくは利用されるかの二択ですね。
あいつらにとって、ハーフは一個人ではなく物だと思っているようですから。
非常に、腹立たしいですが。
獣人騎士団でハーフと言えば、団長やジョゼフの義理の息子の『ラーグ』でしょうか?
団長もハーフであるがゆえに前団長に出会うまではかなり悲惨でしたし、ラーグもジョゼフに出会うまでは悲惨な幼少期です。
…………うちの騎士団って、ヤバい過去持ちが多い気がします。
そう思って聞いてみれば、驚いてしまいました。
あんまりにも正論すぎて。
「ハーフだからって本人にはどうこうできませんし。はっきり言って、本人がどうこうできないことで何か言うのはおかしいと思いますよ。ハーフなんて、性別と同じようなもんですし」
「それにハーフだからって、相手の性格が同じとは限らないでしょう?性格の不一致で好き嫌いが別れるのであれば仕方がないと思いますが、ハーフだからという理由はちょっと意味が分かりません。はっきり言って、ハーフだとか関係なくその人の人柄で判断するべきだと私は思います」
正論でした。
とても、正論でした。
はっきり言って、ハーフだからと虐げている奴らに聞かせてやりたいほど正論でした。
子供って感情で動く生き物だと思っていましたが、この子は違いますね。
でも、大人とは違った純粋さがあります。
なんというか、本当にこの子には驚かされてしまいますね。
セレスの言葉遣いを個性といったり、ハーフのことを性別と同じと言ったり。
まあ、確かにハーフという血縁は性別と同じで変えることはできませんもんね。
性別を変える魔法は、禁術ですし。
でも、なんでしょうか。
団長を侮辱した奴らに、この言葉を聞かせてやりたいですね。
サーヤのような幼子に言われて、精神面で打撃を負えばいいのですよ。
ああ、でもあいつらにサーヤを近づけたくはありませんね。
純粋なサーヤが穢れてしまいます。
「それでは、他種族間の結婚についてはどう思います?」
これについては、ほんの興味ですね。
他種族間の結婚は別に禁止はされていませんが、高確率で周りから止められます。
その理由は、子供にどう作用するかが不明だからです。
他種族間のハーフは身体や精神がどこか不安定だったり欠けていたり、逆に親の種族の能力が合わさったことで強化されたりします。
いわば、違う血同士がうまく合わさるか反発しあうかです。
合わされば強化されますが、反発した場合は何かが欠如します。
だからこそ、子供のことを考えれば周りは反対します。
獣人や竜人であれば子供のことを想い、血統主義の者たちは自身の血が穢れることを厭います。
思想が違うだけで、この差です。
彼女は、どんな答えを出すのでしょうか?
「本人たちが、納得したり愛し合っているんならいいと思いますよ。誰かを想うのは、その人たちの自由ですし。まあ、想いを相手が嫌がっているのに一方的に押し付けるのはどうかと思いますが。結婚は……まあ本当に愛し合っているのであれば自分たちでなんとかするしかないのでは?」
確かに、誰かを愛す心というのは時には本人ですら我慢することができなくなります。
ですが、自分たちでなんとかするというのはどういうことなのでしょうか?
「周りが反対しても?」
「それについては、本人たちの気持ちだと思います。周りから反対されたからやめようか、っていうのも自由ですし。それでも結婚したい、ていうのも自由ですし。…………まあ、好きになった相手なんていませんけど」
なるほど。
簡単に言えば結婚したいのであれば、子供のこともしっかりと責任を持って愛して育てろということですね。
彼女は感情で動きませんが、子供らしい残酷さがありますね。
本当に愛し合っているのであれば、自分達よりも強い能力を持っていようがどこか欠如していようが愛しい相手と自分の子供なのだから愛せるだろう?ということなのですね。
言葉では愛せると言えても、行動に移せる方はどれぐらいいるのでしょうね?
ジョゼフもラーグの実の親ではありませんし、前団長も団長の実の親ではありません。
実際、ハーフの捨て子は多いです。
ですが、私としては彼女の考え方はとてもいいと思いますよ。
生まれる子供には何の罪もありませんし、親は親としての責任と仕事を全うすべきです。
残酷ですが、正論だからこそ反論はできないでしょうね。
「それでも、あなたは考えはとてもいいですよ。…………ええ、本当にとてもいいです」
「そうですかね?」
「どうか、あなたはそのままでいてくださいね」
ハーフを厭う者たちにとっては、残酷に現実を見せてくる幼子。
ですが、団長やラーグの苦しみを知っている私達にとってはとても良い考えです。
ただただ、理解力のある幼子。
そのイメージは、たった今覆させられましたね。
理性的で現実を見て、それと同時に子供らしい残酷さを合わせ持つ子供。
とても興味深く、味方であれば彼女の視点からまた新しいものがわかりそうです。
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