(55)甘味①

~紗彩目線~



 アルさんの種族説明会が終わった後、私は昼食を食べに来た。

 アルさんは私を椅子にのせた後、近くにいたノーヴァさんに私のことを頼んでどこかに行ったけど。


 まあ、あの人も騎士団の副団長をしているから忙しいんだと思う。

 とりあえず勉強頑張って、他の人たちの手を煩わせないようにしなきゃ。


 黙々と雑炊を食べていると、ノーヴァさんがコトリと雑炊が入っている鍋の横に何かを置いた。

 見て見れば、それはオレンジ色のプルンとしたゼリーだった。



「ゼリーですか?」

「…………知ってた?これなら食べてもいいって、ジョゼフ言ってたから」

「ありがとうございます」

「ううん…………回復したら、一杯甘いものが食べれるよ」

「楽しみですね」



 この世界にもあったことに驚きながら確認すると、ノーヴァさんが嬉しそうな雰囲気を出しながら言った。

 どうやら、この世界でも食べ物の名前は同じみたい。


 そういえば、ゼリーは私が学生の時にも体調が悪い時に食べた。

 果物がない奴だけど。


 ゾウスイを食べた後、ゼリーをスプーンですくって口の中に入れる。


 一瞬ミカンの酸味が口の中に広がったかと思えば、後からミカンの砂糖ではない自然の優しい甘さが口の中に広がる。


 ゼリーを食べている私の横で、ノーヴァさんは恐る恐るデザートらしき板チョコをバリバリと食べている。

 板チョコのまま食べる人って、初めて見た。

 チョコレートって、だいたいハート型とかケーキとかに加工されているイメージがあるし。



「ここには、どんな甘いものがあるんですか?」

「う~ん…………みんな手の込んだものばっかり。【カミビトゾク】の人、天才だよね」

「【カミビトゾク】?どういう種族なんですか?」



 そんな種族、アルさんが教えてくれた中にはなかった。


 でもノーヴァさんの口ぶりから、その種族の人が甘いものを作ったらしい。



「…………ジョゼフが教えてくれる。まあ…………文化の根っこみたいな人?」



 文化の根っこ…………この世界での偉人みたいな種族なのかな?

 日本で言う徳川家康とか福沢諭吉とか。


 それにしても【カミビトゾク】…………漢字的に【神人族】かな?

 うん、なんか不思議な感じになった。

 どんな、種族なんだろう?


 それにしても、気になることを聞いた。



「…………手の込んだものばかりというのは?」

「うーん、必要な道具が多い…………作るより買った方が簡単」

「え、干し柿とかサツマイモの蒸しパンとかは?」



 確かに、お菓子にも手のこんだものはある。

 お店に売っているデコレーションケーキとか、店で売っている和菓子とか。


 でもホットケーキとかは子供でもできるし、電子レンジがあれば蒸しパンだって作れる。


 それに、別にお菓子じゃなくてもいい。


 柿を干せば、干し柿になる。

 干したものは長持ちするし、砂糖じゃない自然の甘さがギュッと詰まっているから砂糖を使わない分体にもいい。

 そういえば、地元にいるときはよく食べたな。

 窓とかから糸で釣って干して。



「サツマイモ…………芋だよね?お菓子になるの?あと、干し柿って何?柿の種類?」

「干し柿は、紐と柿さえあれば簡単にできます。サツマイモの蒸しパンは…………まあ手の込んだというよりは子供でもできるものです」

「へ~、サーヤすごい」



 あ、サツマイモってこの世界にもあるのか。

 でも首をかしげているノーヴァさんの反応から、野菜っていうイメージが強いのかな?


 サツマイモって、結構おやつにも使えるのに。

 焼き芋もおいしいし、ふかし芋もおいしい。


 それに、サツマイモはおやつになると同時に体にもいい。

 砂糖を使ったお菓子よりも、果物と同じで健康にいいおやつだ。



「あとは…………チョコレートを使ったお菓子とか?」

「すごい!サーヤ、すごい!チョコレートって、板の形の奴以外にも食べ方あるの!?」



 びっくりした。


 チョコレートのことを言えば、ノーヴァさんが食いついてきた。

 私の両肩に両手でつかんで、ガクガクと前後に揺らす。

 

 うう……、気持ち悪くなるから切実にやめてほしい。


 左肩を掴んでいるノーヴァさんの左手をペシペシと叩けば、ノーヴァさんは慌てて揺らすのをやめてしょんぼりとして謝ってきた。

 なんだろう、ノーヴァさんがいたずらして怒られている子猫に見えてきた。

 あ、ノーヴァさんは猫の獣人だっけ?

 なんか、年下の子供を見ているようで微笑ましくなってきた。


 それにしても、なんだかお菓子の文化にむらがある。

 ゼリーはあるのに、チョコは板チョコしかない?


 でも雑炊はあるし…………お菓子の文化だけあまり発達していないのかな?



「ねぇ、サーヤ。休みの時、一緒に作ろうよ!ラーグには、許可貰うから!!」

「ラーグ…………さん?」



 …………そんな人、いたっけ?


 騎士団メンバーの前で自己紹介した後、かわるがわる自己紹介された。

 でも、その中に『ラーグ』っていう名前の人はいなかったはず。



「あ、会ったことなかったっけ?ジョゼフの義理の息子で、料理人。サーヤのゾウスイもラーグ作。ラーグ、甘いもの好きなのに甘いものを作るのだけは不器用なの。だから、簡単なのがあるのなら教えてほしい」

「え、あ、はい」



 興奮したノーヴァさんの勢いに押されて頷けば、ノーヴァさんは立ち上がってピョンピョンとジャンプして喜んでいる。


 というか、ジョゼフさんって息子いたんだ。

 いや、あのダンディというか大人な色気や雰囲気があるからいそうだけど。(偏見)


 でも、義理の息子ってことは娘さんの旦那さんとか?


 どんな、人なんだろう?

 あと、もし会えたら雑炊のお礼も言わなきゃ。

 あんなにたくさんの人のご飯を作るので忙しいのに、私の雑炊まで作ってくれたんだ。

 きっと、面倒だったと思う。


 私だって、予定外に増えると面倒だと思うし。

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