(28)理解不能
~ジャック目線~
鍛練で負傷して、医務室に行けば小っちゃい生き物に出会った。
見た目は俺たちに近いけど、種族を表す耳も尻尾もない。
かといって、他の種族のように耳がとがっているわけでもない。
匂いも、なんていうか不思議な匂いだった。
別に臭いわけじゃねー。
なんていうか、今までに嗅いだことがなくて隣にいるだけで安心できる匂いだ。
俺は、興味がわいたけど同時に疑問が浮かんだ。
この建物にいるのは、騎士団以外はありえねー。
でも、別に敵意もない。
今までで見た中で一番幼くて小さくて、よわっちー感じ。
よゆーで俺でも制圧できそうだけど、もしかしたらそう思わせることで相手を殺せる殺し屋なのかもしれない。
そう思って近づいてみれば、その疑いはすぐに晴れた。
殺し屋は、殺しを生業としている分体に血の臭いが染みついている。
それに、この子はあんまりにも隙が多すぎる。
団長たちもわざと自分が攻撃しやすいところに隙を作って罠にかかった相手を攻撃する戦法をたまにとるけど、この子の隙だらけだから違うんだろうね~。
そうなると迷子かな~って思ったけど、わざわざ迷子を医務室で保護する理由はないしな~。
そう思いながら聞いても、返事は返ってこない。
はっきり言って耳が聞こえないのかって心配になったけど、別にそうではなかった。
この子、この大陸の言葉以外の言語を使っていたから。
この子の反応的に、こっちが言っていることはわかるみたいだったからまだ敵意はないよ~って伝えれるからよかったけど。
そうなると、一番有力なのは保護かな~?
はっきり言って、言葉が通じないなんてことはこの大陸ではありえないことだ。
それに、他の大陸から来たと言っても方法がない。
他の大陸とは、かかわりがほとんどないからな~。
基本的な資源は、他の種族の国との貿易でなんとかなるし。
【神人族】が、彼らの世界から伝えてきた技術もあるし。
でも、そうなるともしかしてかな~りヤバい立場なのかなこの子。
どこで保護されたのかは知らないけど、言葉も通じず違う大陸に子供だけ放置とかクソ過ぎだろ。
とりあえず、俺は仲間だぞ~的な気持ちで団長に保護されたことを言う。
俺は、もともとは親のいない孤児だった。
いや、親はいた。
母親だけだけど。
でも、母親は俺のことを要らないって言って俺を捨てた。
小さい俺を育てたのは、ちょっと黒いことをやっていた貴族だった。
実際、俺も加担していたらしい。
そんな犯罪者の俺がなんで騎士団にいるのかと言うと、それは団長に救われたからだった。
ストレスのはけ口として貴族に暴力振るわれていた時、さっそうと現れて俺を救ってくれた。
俺以外にも脅されたり人質に取られたりとかで加担させられていた奴らも、みんな救った。
俺にとって、団長はおとぎ話に出てくるヒーローだった。
家族や仲間がいる奴は帰ったけど、俺は孤児だったからそのままジョゼフ先生に引き取られた。
最初は、犯罪をしていたから騎士団の大人たちからどんな目で見られるか怖かった。
でも、騎士団の皆もジョゼフ先生も俺が悪いことをすれば叱ってくれて、いいことをすれば褒めてくれた。
俺にとって、騎士団の皆は親のような存在であり、家族だった。
実際に、そう思っているのは俺だけじゃなかったけど。
たぶん、この子は団長とか副団長とかジョゼフ先生とかに保護されたんだろう。
俺は、他の騎士みたいに複雑な家庭環境でもねー。
でも、この子はなんらかのヤバい事情があって、事故死目的か逃がす目的かなんかでこの大陸のどこかに放置されたんだろうな。
そう考えると、この子も今日から家族になるのか?
ヤバい家庭環境なら、守るために誰かとよーしえんぐみ……だっけ?的なものをするはずだ。
どっちにしても、家族の家族は家族だ。
と言うことは、俺は末っ子を卒業して晴れてお兄ちゃんになるのかな?
そう考えながら団長の凄さを教えていると、ジョゼフ先生が医務室の中に入ってきた。
ジョゼフ先生に何かを言ったのか、あの子はジョゼフ先生に無理をしてはいけないって言われてる。
「なあ、ジョゼフ先生」
「なんだい、ジャック君」
「あの子、どういう身の上なわけ?俺みたいに保護したんだろ?」
「ああ。保護したのは、シヴァ君とアル君だけどね。【帰らずの森】の中に一人だけでいてね。体の状態もあちこちボロボロでね。今のところ、誰かを保護者として立てる必要がある」
ジョゼフ先生に話しかけて軽く事情を説明されれば、その中身のクズさに眉を寄せる。
あの森の危険性は、幼い頃も見習い騎士になってからもよく理解している。
少なくとも、逃がす目的って言うのは消えたな。
明らかに、あの子を殺しにかかっている。
たぶん、あの子を森に連れて行ったのは自分の手を汚さずに始末するためか。
怒りに震えていると、あの子がジョゼフ先生に話しかけたかと思った瞬間土下座した。
もう一度言う。
土下座した。
一瞬何しているのかわからなくて、あの子__サーヤを止めようとする。
だって、そうだろ?
こんな小さな子が、土下座なんてしているんだから。
【土下座】
【神人族】が、この世界にもたらしたものの一つで、数少ない【負の遺産】と呼ばれるものの一つだ。
これを伝えた【神人族】の女性は、土下座は彼女の『二ホン』と言う母国の謝罪の方法の一つだったらしい。
でも、この方法はこの世界では受け入れられなかった。
プライドがあり相手に謝罪とはいえ地べたに這いずっているところを見せ、なにより土下座することは急所の一つであるうなじ__首を相手にさらしているということ。
俺たち獣人も他の種族も、仲間や自分の命が大切で急所なんて相手にさらさないしプライドだってある。
だからこの二つの事実が原因で、【土下座】は『プライドを捨て相手に服従し死をもって詫びるという謝罪』としてどの国からも【負の遺産】認定をくらっている。
そんなヤバいものを、この子は謝罪として使ったんだ。
この子は、死を覚悟してジョゼフ先生に謝罪したんだ。
そう考えると泣きそうになって、思わずジョゼフ先生に泣いていいかと聞いてしまう。
ジョゼフ先生には難しい表情を浮かべながら却下されたけど。
あの子は頭を下げたままだから、全く気付いていないみたいだけど。
この子は、いったい今までどんな生活を強いられてきたんだろう。
あの感じなら、土下座することも慣れているんだろう。
そう思うぐらい、不慣れな感じも戸惑う感じもなかった。
小さい頃、世の中はクソだって言った奴がいるのを見たことがある。
そのころは騎士団の皆がいるから何言っているんだって思ったけど、今なら俺もそう思う。
こんな小さい子虐げて、あんな危険な森に放置したクズ野郎が今も違う大陸でのうのうと生きていて、それが当たり前のようになっている。
絶対に守るんだ。
この小さな子供を。
俺もまだ成人していないから子供だけど、この子も守れないような軟弱な奴じゃない。
もう、あの頃の受け身な俺じゃないんだ。
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