(27)頼る

~紗彩目線~



『ふむ……、少しいいかい?』

「なんですか?」

『なんだ、ジョゼフ先生?』



 ジョゼフ先生の言葉に、私とジャックさんがジョゼフさんの方を向く。


 ちなみに今私とジャックさんはベッドの隅に腰かけている状態で、ジョゼフさんは椅子に座っている状態だ。

 さすがにジョゼフさんにずっとかがんでもらうわけにもいかないけど、私とジャックさんはジョゼフさんとかなり身長差があるから顔を見て会話するには首が限界を迎えてしまいそう。

 あとは、単純にジャックさんの怪我の手当てだ。


 え?

 顔を見なければいいって?

 礼儀上、それは普通にダメでしょ。



『サーヤ君は、今【言語一致魔法】が半分作用している状態だ。私の考えが正しければ、シヴァ君たちにもかければお互いの言葉が一致するのではないかと思ってね』

『なら、試しに俺にかけたらどうだ?俺なら問題ねーし、歳も近いから言葉が通じといたほうがい~と思うよ?』



 ジョゼフさんの言葉を聞いて、ジャックさんが提案する。


 と言うか私は言葉が通じるよりも、ジャックさんの年齢の方が気になってしまった。

 ジャックさんは私との身長差はたぶん三十センチから一メートルぐらいだろう。

 

 でも、この世界の人……少なくともジョゼフさんたちは長寿のようだからジャックさんも見た目に似合わず長生きしているのかもしれない。

 そんな人に年が近いと言われても、いったい何歳だと思われているんだと複雑な気持ちになる。



『なるほどね……確かに、ジャック君はこの騎士団の中で最年少だ。年齢に関しては、サーヤ君に最も近い。サーヤ君も年齢が近い方が話しやすいこともあるだろうから、ジャック君に頼もう』

『よっしゃー!』



 なんか、ジャックさんが年上に見えなくなってきた。


 ジョゼフさんに魔法をかけられながら、私は心の中でそう思ってしまった。



「えっと、通じていますか?」

『お~、通じてる通じてる。改めて、俺の名前はジャックだ。犬の獣人の小型種だ!名前、改めて聞いていいか?』



 うん、小型種ってなんぞや?

 そして、耳や尻尾の形状のとおり犬だった。


 しかも、今回しっかりと聞こえてきた。



 【獣人】



 異世界ものの小説なら、よく出てくる種族の一つだ。

 他にもドラゴンとかも出てくるけど、この世界にもいるのかな?


 それにしても、小型種か。

 あれかな?

 犬の種類で言う、小型犬的なものなのかな?



 とりあえず、考えるのは後にするか。



「紗彩です」

『サーヤって言うんだな!俺はこの騎士団の中で一番最年少だから、サーヤにとっては一番年が近いんだ。だから、困ったら俺を頼れよ!!』

「よ、よろしくお願いします」



 なんというか、ジャックさんは青年と言うよりは少年という感じだ。

 狼さんや黒猫さんたちは尻尾の状態と表情があまり合っていないような気がしたけど、ジャックさんはそんな感じではない。

 なんというか、素直な感じだ。

 ジャックさんと言うよりもジャック君という感じな気がする。


 いや、別に狼さんたちが素直じゃないと言っているわけじゃない。

 ただ、彼らには会社の取引先にいた何を考えているかわからない役員の人たちに似た雰囲気を持っている気がしたから。



『うんうん。仲良くなれたようだね』



 ジョゼフさんが、微笑ましそうな表情で私とジャックさんを見ている。

 なんか、時々ジョゼフさんが父親のように見えるのは私だけなのだろうか?



『すまないがジャック君、彼女をシヴァ君たちの元に連れて行かなければいけないんだ。交流の時間は、また後ででいいかい?』

『ああ、大丈夫だぜ!じゃあ、また後でなサーヤ!』



 ジョゼフさんの言葉を聞いたジャックさんは、私に手を振りながら医務室から出ていった。



『さて、行こうかサーヤ君』

「はい」



 ジョゼフさんは私に声をかけると、まるで当然と言うように私のことを抱き上げた。


 まあ、考えるまでもない。

 私と彼では、明らかに歩幅も歩く速さも違うからだろう。

 成人した身としては、非常に恥ずかしいけれど。



『……私にも彼にも、敬語は不要だよ?』

「すいません。癖みたいなものなんです」

『そうかい。それなら、無理強いはしないよ。ただ、君が敬語を外したいと思えば外していい。ここには、君に強制する者はいないからね』

「わかりました」



 ジョゼフさんは一度敬語について言ってきた。


 そういえば、ジャックさんもジョゼフさんに対して敬語を使っていなかったような気がする。

 騎士団って、日本の組織みたいに上下関係に厳しいわけじゃないのかな?

 それとも、ジョゼフさんが私に言ったみたいに他の人に敬語は不要だって言っているのかもしれない。



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