(25)犬

~紗彩目線~


 なんか、犬みたいな人だな。

 第一印象はそれだった。



 ピンッと立った茶色の犬の耳に、うなじまでの茶髪。

 タレ目の黒い瞳に、狼さんほど長くない茶色の尻尾。

 なんだか見ていると、地元の近所に住んでいたお婆ちゃんが飼っていたヨークシャーテリアの『ミミ』を思い出すな。


 あの子もこんな感じだったし。



『…………迷子か~?』



茶髪の犬みたいな人…………犬さんでいいか。

 本人には言えないけど。


 犬さんがそう言いながら、そろりそろりと私に近づいていた。


 迷子…………。

 まあ、彼の言う通り迷子と言えば迷子なのかもしれない。

 成人して迷子なんてなりたくはないけど。

 でも、今の状況は迷子かもしれない。

 世界を越えているけど。



『な~、お前どこから来たんだ?ここには、基本騎士団のメンバー以外は来れねーはずなんだけど』



 犬さんに言われて考え込む。


 私がここに来れた理由は狼さんたちに保護されたからなんだけど、それをどうやって伝えよう?

 今の私は、相手の言っていることはわかるけど私の言葉は相手に伝わらない状態。

 どうやって伝えればいいんだろう?


 それにしても、騎士団か。

 軍関係かと思ったけど、さすが異世界。

 騎士団も存在しているもんなんだね。

 


『…………もしかして、耳が聞こえていないパターン?』

「あ!いえ、聞こえています!」



 犬さんに言われて慌てて、そう言いながら頭を振り否定をする。


 言葉が通じないののなら、なんとか動作でわかってもらうしかない。

 ボディランゲージは、初めてやるけど相手にうまく伝わるといいな。



『あー、何言っているのかわかんないけど。耳は聞こえているってことでいい~?』

「はい」



 犬さんの言葉に頷けば、彼は私を抱き上げながらベッドの上に座り込んだ。


 犬さんの身長は、狼さんたちほど高くないとはいえ大きい。

 たぶん、二メートルぐらいだろう。


 多分、狼さんたちの種族はみんな身長が高いのだろう。

 ベッドもかなり大きくて、降りるとき地味に怖かったし。

 降りた後も、改めて周りの家具の大きさに圧巻された。

 なんというか、自分がチビになった気分だ。



『とりあえず、どうしよ~?俺、君が何言っているのかわかんないけど、とりあえずこっちの言っていることはわかるんだよね?』

「はい」

『俺の名前は、ジャックっていうの。え~と、ここにいるのって保護されたの?』

「はい」



 犬さん__ジャックさんの問いに頷くと、保護されたことを聞かれたからまた頷いた。



『あ~、保護ってことは訳ありか~。ある意味、仲間だな~。俺も、ジョゼフ先生に保護されたんだぜ~』

「そうなんですか?」



 保護=訳アリって方程式が成り立つんだ。

 もしかしたら、この世界では、訳アリの人間を保護するのも騎士団の役目のなのかもしれない。


 ジョゼフさんに保護された…………騎士団にいるってことは、この人も騎士なんだよね。

 騎士団の雇用形態が気になるわね。

 もし可能なら、文字とかを覚えた後雇ってもらえないかな?


 荷物も何もないから、もちろんお金もない。

 生きるには、絶対にお金が必要だし。

 それに、働かずにずっとここにいれるわけもないし。



『驚いた顔してるってことは、ここに来たばかりなんだな~。どういう状況なのかはわかんないけど、あんまり不安に思わなくてもいいと思うよ~。ここには、つえ~団長も副団長もいるし悪い奴らなんてみ~んなぶっ飛ばしちまうから』

「団長に副団長?」



 はて、団長さんと副団長さんっていったい誰の事だろう?

 狼さんたちにここに連れてきてもらった後はすぐに医務室の来たから、もしかしたらこの後会えるのかもしれない。


 …………もし、保護を断られたらどうしよう。


 この騎士団の団長さんって、どんな人なんだろう?


 こういう時、小説の知識は役には立たないからな。

 だいたい女主人公小説の中だとイケメンのイメージがあるけど、男主人公の場合はヤのつく自由業の人みたいな見た目の人もいたからな。


 うん、できればあんまり心臓に悪くない見た目の人だったらいいな。

 狼さんだったら、ちょっとキツめだけどイケメンだし。

 そういえば、他の人たちも結構顔が整っていたな。

 ジョゼフさんは優し気なおじさんって感じだったし、目の前のジャックさんはスポーツ少年って言うか快活な感じの男の子だし。

 まあ、身長的には少年と言うより青年だけど。


 …………さすがに騎士団だから顔で選んではいないと思うけど、やっぱり雇用形態が気になる。

 その雇用形態によって、アピールできるところがあるかわからないし。



『団長はな~、すごいんだぞ~。いつもピシッてしててな~、ドンッてつえ~感じがするんだ。でも、ちゃんと実力あって、俺も救われたんだ~』



 ジャックさんの言葉からわかったのは、団長さんが強い人と言うことだけだった。

 でもジャックさんの目は団長さんをすごく尊敬しているようで、人柄的にもいい人なのかもしれない。


 とりあえず、団長さんに会ったら土下座して迷惑をかけたことを謝罪して、仕事がないか聞こう。



『おや、起きたのかいって……ジャック君』

『あ、ジョゼフ先生』



 ドアを開ける音が響いて入り口の方を見れば、ジョゼフさんが入ってきた。


 ジャックさんの言葉を聞いて思い出した。






 あ、謝罪も兼ねて土下座しなきゃ。

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