(17)子供の事情

~ジョゼフ目線~



『…………相性、よくないんですか?』



 おもわぬ事実を真に当たりしていると、サーヤ君は不安そうな声音で恐る恐ると話しかけてきた。


 まあいくら相性の悪い人間がいるとはいえ、自分がそうとは思わないだろうね。

 私も意外な事実に驚いてしまったよ。



「そうだね。まあ、心配せずとも文字やこの国の言葉は私たちが教える。安心していい」

『え…………でも、忙しいですよね?』

「遠慮しなくてもいいよ。困ったときは、周りに頼りなさい。私も他の者も、君が頼ったとしても怒る者はいない」



 この国の言葉も文字も、私達が教えればいい。


 そう思いながら言えば、サーヤ君は私達の忙しさについて言ってきた。

 確かに忙しいが、別に子供に知識を与えられないほどでもない。


 何より、騎士団に所属する者は身分関係なくある程度の知識は求められる。

 私達が忙しくて無理であろうと、他の者が教えればいい。


 まあ、もしそのことに反対する者がいれば、少々説教__話し合いが必要だろう。

 

 とは言っても、この騎士団にそんな大人げない心の狭い者はいないが。



「さて…………これから診察をするから、君たちは出て行ってくれ」

「私たちですか」



 私がアル君とシヴァ君にそう言えば、アル君が不思議そうな表情を浮かべながら言ってきた。


 というか、この場には君たちとサーヤ君と私以外にいないだろう。

 私は診察する側だが、君たちは別に診察している時は手持無沙汰だろう?


 何より彼女は幼いとはいえ、女子だ。

 まあ、他の種族で言うレディだな。



「君たち以外に誰がいるんだい? それとも、レディの裸体を見たいのかい?」

「いえ! そういうわけではありませんが…………」



 からかい半分・気になり半分でそう聞けば、アル君が慌てた表情で言う。

 アル君、そんなに慌てていると本気だと思われやすくなるよ?



「まったく、心配せずともこの子はちゃんと私が見ておくから安心しなさい」

「…………確かに、俺たちがいても役には立たないな」

「その代わり、君たちはセレス君とノーヴァ君に彼女のことを伝えてきてくれないかい? 診察は、魔法があるとはいえ時間がかかるからね」

「ああ」

「わかりました。では、行ってきますのでお願いします」



 私の言葉に、シヴァ君とアル君が医務室から出ていく。


 さてと、とりあえず彼女にいろいろと聞こうか。



「さて、診察の準備が終わるまでまだ時間がある。その間、一緒にお話ししようか」

『はい』



 彼女に話を聞けば、彼女の置かれている現状に何度目かわからない頭痛を感じた。


 森の中には、気づいたらいた。

 仕事先に向かっている途中に眠くなり眠り、気づいたらいた。



 まず、彼女の言う仕事とはいったい何なのだろうか?


 彼女ぐらいの歳の子供の仕事とは遊ぶ・睡眠・食事が普通だが、彼女の様子からしてそうではない。

 しっかりと睡眠をとっていれば、彼女の目元に隈はない。


 彼女が今までしてきた仕事とは、本来ならば子供がするべきことではないのだろう。



 彼女に助かって良かったと思いながら言えば、彼女はシヴァ君とアル君に礼を言いたいと言った。


 彼女は、とても礼儀正しいようだな。

 礼儀がなっていない若い者たちにも、彼女を見習ってほしいものだ。

 …………子供を見習えと言うのは、大人としてどうなんだと思うがね。


 そう思っていると、子供が何かを耐えるような表情を浮かべてかと思えば俯いてしまった。


 …………彼女は、泣きそうになるのを耐えているのだろうか。


 なんというか、彼女はとても不安定に見えてしまう。

 実際に、彼女の今の心理状態は不安定だろう。


 彼女が子供だからというわけではない。

 誰だってそうだろう。

 自分が今までの行動通り動いていれば、なぜか見たこともない場所にいた。


 彼女の場合、眠っていて気づいたらあの森にいた。

 眠ることを怖がらないといいが。



「…………大丈夫だよ。君が泣いて怒る人は、いない。だから、安心して泣いていいんだよ」

『でも』

「でも、じゃないよ。自分の感情を抑え込む時が必要な時もあるが、君は抑え込む必要はない。そんなに抑え込んでしまっては、いつか爆発してしまうよ」



 真面目な者ほど、爆発してしまえば周りも予想しないような非行に走る。

 今まで騎士団の医師として行動してきたが、荒くれ者よりも真面目な者が犯した犯罪が多かった。

 荒くれ者は普段の行動からストレスを溜めにくく、逆に真面目な者は自身を律することからストレスが溜めやすい。


 彼女のように幼い者が非行に走ったとしても止めることは可能だが、止めたとしても彼女の心の面は晴れないだろう。

 だからこそ、私達がすべきことは彼女の本音を引き出すことだ。

 口に出せば、少しはストレス発散になるだろう。

 

 甘いものを食べたりなど、人によってストレス発散はそれぞれだが、栄養が足りていないかもしれない彼女に好きなものを食べさせては体調を崩してしまう可能性があるから今は無理だろう。



 ならば、今は彼女の話を聞くしかできないな。


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