(16)年齢と知識

~ジョゼフ目線~



 医務室に三人を連れてくれば、シヴァ君の腕の中にいるサーヤ君がキョロキョロと部屋の中を見ている。

 なにか、珍しいものでもあっただろうか?

 まあ、子供である彼女にとっては見慣れた風景の中にも気になるものがあるのかもしれない。



「さてと、まずはちょっとお話をしようか」

『はい』



 三人に椅子を用意しながらそう言えば、シヴァ君がサーヤ君を膝にのせていた。

 なんというか、とてもほっこりしてしまうね。

 父親と幼い娘みたいで。


 さて、ほっこり癒されたところで彼女の話を聞こう。



「そうだね。まず、君はいくつだい?ちなみに、私は今年で480歳だ」

『そ、そうですか…………』

「見たところ、君は十歳ぐらいの身長だと思うんだが…………」

『私は、二十五です』

「おや、そうなのか。君は、見た目よりもお姉ちゃんなんだね」



 なるほど、身長と本来の年齢が平行していないのか。


 だが、彼女は獣人ではない。

 もしかしたら、彼女の種族は身長が低いのかもしれない。

 栄養が足りていなくて身長が低いのか、もともと彼女の年齢であの高さが当たり前なのか。


 実際、四つの種族の中で獣人はどちらかと言えば高い方だ。


 今の現状で判断はできないか。



 とりあえず、この子にこれから診察ですることを教えなければいけない。

 言葉で言ってお、彼女がすべて理解できるかはわからないからホワイトボードに書きながら説明するか。



「さて、君もわかっている通り君の言語はこの大陸で通じる者は一部だけなんだ。だが、言葉が通じないと何かと不便だ。だから、君には【言語一致魔法】という魔法をかけることになる」

『え?魔法があるんですか?』

「そうだね。君の所ではなかったかい?」

『はい』

「そうなのかい。それじゃあ、魔法の説明からしようか」



 【魔法がない】

 そんなことが本当にあり得るのだろうか?


 【魔素】がある以上、体の中に少量でも【魔力】があれば魔法を使うことは可能だ。

 この世界であれば、【魔素】は何処にでも存在している。


 魔法が存在していなかったのではなく、周りが魔法の存在を彼女に教えていなかったということか。

 …………本当に、腐った連中だな。



 ホワイトボードに説明するための図を書いて行けば、彼女はそれをじっと真剣な表情で見ている。



「魔法と言うのは、大気中にある【魔素】という物質と体の中にある【魔力】を合わせることで発生させる術のことだ」

「種類は、全部で三つ。攻撃・補助・精神ともう一つ禁術があるのだが、これは使うこと自体禁じられている。だから、使えるのは主にこの三つだね」

「攻撃は、その言葉のとおり相手を攻撃するものだ。補助は回復や防御などで、精神は精神異常や呪いなどを行うものだ。これから実際に君に対してかける【言語一致魔法】は、補助魔法の一種だ」



 私が説明していても、彼女は騒ぐことも体を動かすこともせずじっと聞いている。


 なんというか、幼い子供というより大人を見ている気分だ。

 

 子供であれば、長い説明を大人しく聞くことはできない。

 長ければ長いほど、だんだん飽きて騒いだりして大人しくすることができない。

 この子は、こうやっておとなしくしていることを周りから強制されてきたのだろうか?


 子供らしくない子供。

 子供が背伸びして大人らしくなろうとするのは微笑ましいが、彼女に対しては微笑ましさよりもそうなってしまった悲しみを感じてしまう。


 魔法の相性についても長々と説明していても、彼女は口を挟まずじっと聞いている。

 もう少し何らかの行動をしてもいいと思うんだがな。



 だが【言語一致魔法】をかけた時、彼女の意外な相性に驚いてしまった。



『えっと、こんにちは』

「?すみませんが、何を言っているのかがわからないのですが…………」

『え?』

「ふむ…………彼が何と言っているかわかるかい?」

『えっと、何を言っているかわからないって言っています』



 彼女はこちらが何を言っているのかを理解できたが、こちらが理解できなかった。


 この魔法は、今まで相性が悪いものは全くいなかった。


 だから、今回も何も問題なく会話できるようになると思っていた。



 さて、どうしたものか…………。

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