(12)魔法

~紗彩目線~



 ジョゼフさんに連れられてきたのは、真っ白な壁の部屋だった。

 あるのは一組の机と椅子と本棚、いくつかの真っ白なベッドと南京錠が付いたドア。

 ここが、ジョゼフさんが言っていた医務室なのかもしれない。



『さてと、まずはちょっとお話をしようか』

「はい」



 ジョゼフさんが狼さんと黒猫さんの分の椅子を用意すると、私は椅子に座った狼さんの足の上に座らされた。

 ジョゼフさんは、2・3枚の紙とペンを用意してから私の方を向いた。



『そうだね。まず、君はいくつだい?ちなみに、私は今年で480歳だ』

「そ、そうですか…………」



 ん?なんか、ものすごい数字を聞いた気がした。


 480歳?

 え?

 それって、年齢なの?

 何?

 これって、あれかな?

 異世界ジョークってやつ?


 おもわず混乱して、ジョゼフさんの顔をジッと見てしまった。


 でも、ジョゼフさんを見ても浮かべている表情は真剣そのもの。

 多分、嘘でもからかいでもなんでもないみたい。


 もしかしたら、この世界では寿命が長いとか?

 異世界ものの小説でも、ドラゴンとか神とか長寿な種族がいるからこの世界では長寿なのが当たり前とか?


 そうなると、私そのままの年齢でもいいのかな?

 いや、でも目の前の人たちは人間じゃないかもしれないけど、さすがにこの世界にも人間はいるでしょ。

 異世界ものの小説にも人間はいたし。


 それに私の頭の上に動物の耳もついていないから、この人たちも私が人間だってことはわかっているだろうからそのままの年齢を言っても大丈夫だよね?



『見たところ、君は十歳ぐらいの身長だと思うんだが…………』

「私は、二十五です」

『おや、そうなのか。君は、見た目よりもお姉ちゃんなんだね』



 ジョゼフさんの言葉に表情には出さないように気を付けたけど、心の中では怒りと悲しみでいっぱいになった。


 とりあえず言えること。

 悪かったな、低身長で!


 自分の身長が、一般の成人女性の平均身長を達していないことは自覚している。

 実際、学生時代もよく身長のことでからかわれた。



 とりあえず身長のことはまあおいておくとして、ジョゼフさんの方を見れば彼は広辞苑の二倍ぐらいの大きさのホワイトボードらしきものを取り出していた。



『さて、君もわかっている通り君の言語はこの大陸で通じる者は一部だけなんだ。だが、言葉が通じないと何かと不便だ。だから、君には【言語一致魔法】という魔法をかけることになる』

「え?魔法があるんですか?」

『そうだね。君の所ではなかったかい?』

「はい」

『そうなのかい。それじゃあ、魔法の説明からしようか』



 魔法のことを聞かれて私が魔法の有無を思わず聞いてしまえば、ジョゼフさんは驚きながらも真剣な表情でホワイトボードらしきものに何かを書き始めた。


 多分、ホワイトボードらしきものじゃなくてホワイトボードなのだろう。

 ペンで文字を書くときに出るキュッキュッと言う音が聞こえてくる。


 

 ジョゼフさんが書き終わったのか、ホワイトボードをこちらに向けられる。



 ホワイトボードには、棒人間と三角と丸が描かれている。

 

 三角の中には、黒い文字で【まそ】という文字が書かれている。

 たぶん前後の文字的に【魔素】かな?


 丸は棒人間の頭の部分の中に書かれていて、黒い文字で丸の中には【まりょく】という文字が書かれている。

 こっちは、たぶん【魔力】かな?



 書かれている文字は日本語だけど、本棚の中にある本の題名を見ればここで使われている文字は日本語でも英語でもない形の文字。

 …………気を使われているんだろうな。

 この人たちにこれ以上迷惑をかけないためにも、早く日本に戻りたいなぁ。



『魔法と言うのは、大気中にある【魔素】という物質と体の中にある【魔力】を合わせることで発生させる術のことだ。』

『種類は、全部で三つ。攻撃・補助・精神ともう一つ禁術があるのだが、これは使うこと自体禁じられている。だから、使えるのは主にこの三つだね。』

『攻撃は、その言葉のとおり相手を攻撃するものだ。補助は回復や防御などで、精神は精神異常や呪いなどを行うものだ。これから実際に君に対してかける【言語一致魔法】は、補助魔法の一種だ』



 説明を進めるごとに、ホワイトボードに描かれている絵が変化していく。


 え?

 描き直すの、早くない?


 ジョゼフさんのあまりの速さに驚いていると、ジョゼフさんは何かを書き込むと此方を真剣な表情で見てきた。

 先ほどよりも真剣味が増しているからか、少し怖く感じてしまう。

 


『そして、ここからが本題だ。魔法には、それぞれ相性と言うものがある。』



 え?相性ってあるの?

 異世界トリップものでありがちなチートとかってないのかな?


 でもまあ、あれは小説の中なだけであって現実にできないことがない存在なんているわけないか。

 普通に考えて、チートには憧れるけど現実にいたら怖いし。



 とりあえず、今は説明をよく聞いておこう。

 私の場合、魔法なんて空想上の存在という扱いの世界から着ているから、魔法を使えるかはわからないけど。

 でも聞いておけば、何かがあった時に対処する糸口が見つかるかもしれないし。



『相性の有無やその度合いは、人それぞれだ。相性が悪すぎて使うことができない者もいるし、使えたとしても効力が薄い者もいる。逆にかけられた場合も効力が薄くなる。』

『例えば、攻撃魔法と相性が悪ければ攻撃されても特に傷を負うことはないが、相手を攻撃するときも攻撃力は高くない。だが、回復魔法などの場合は100回復できるものが50だったり10しか回復できなくなる時もある。逆に相性が良ければ、攻撃魔法は強くなると同時に受ければ大怪我を負いやすい。回復魔法であれば、100回復できるものが200回復できる時もある』



 なるほど。

 相性が悪くても良くても、プラスな面もあればマイナスな面もあるってことね。

 やっぱり、小説のようにうまくはできないか。


 でも、それを考えると相性が悪くても良くても似たような感じってことね。

 ある意味、プラマイゼロだね。



『次に、【言語一致魔法】についてだが。この魔法は、複数の言語を扱える者のみ取得可能の魔法だ。どういう魔法かと言えば、君のように言語が通じないものと会話をスムーズに進めることを可能にするものだ』



 なるほど。簡単に言えば、翻訳みたいなものか。


 ジョゼフさんはこの大陸では日本語は通じないって言っていたし、たぶん他の大陸でも別の言語が使われている。

 だから、この魔法を使える人もいるんだ。

 

 それにしても、なんでジョゼフさんは日本語を話せんるんだろう?

 もしかしたら、他の大陸で日本語が使われているところがあるのかな?



 そう思っていると、先ほどのジョゼフさんの話を思い出した。

 補助魔法にもやっぱり相性ってあるのかな?



『君がどの魔法と相性が良く、相性が悪いのかはまだわからない。だから、【言語一致魔法】が絶対に成功するとは限らない。まあ、【言語一致魔法】だから他の魔法と違って相性が悪くても、特にマイナスな面に転がることはないが…………どうする?』

「…………その魔法を受けます」

『そうかい。それじゃあ、かけるよ』



 ジョゼフさんの説明を聞いていると、彼にどうするか聞かれる。


 私としては、ジョゼフさん以外と言葉が通じないって言うのはとても困る。

 もし何かがあった時に、ジョゼフさんがいなければどうしようもできないし。

 それなら、まだマイナスな面に転がるかもしれないけれどやってもらった方がいい。


 そう考えると、ハタッと気づく。

 今まで何かがあった時のことを考えていたけど、もしかしたらこれってフラグになる?

 …………考えないようにしよう。



 そう思っていると、ジョゼフさんが私の頭に手を置いて目を合わせてくる。

 その瞬間、周りに青色の光があふれる。


 一分ほどして光が収まるけど、特に何かが変わった感じはしない。



『これでかかったはずだが…………試しに会話をしてみてくれないかい』



 ジョゼフさんの言葉を聞いて、私は私を抱っこしている狼さんの左隣にいる黒猫さんに話しかけてみることにした。



「えっと、こんにちは」

『?すみませんが、何を言っているのかがわからないのですが…………』

「え?」

『ふむ…………彼が何と言っているかわかるかい?』

「えっと、何を言っているかわからないって言っています」



 黒猫さんに挨拶をすれば、彼が何を言っているのかわかるようになると同時に私の言葉が彼に通じていないことがわかった。


 そのことをジョゼフさんもわかったのか、私の方に彼が言った言葉の意味の確認をされる。



『なるほど…………こちらの言語の意味は理解しているが、君の言っている言語はそのままという状態か。あまり相性が良くなかったということか』



 この魔法の場合は、こんな風になるのか…………。

 まあ、でも相手の言っていることがわかるようになっただけかなりの進歩だと思うけど。

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