第36話
アジトに入って数分。
その中は長い廊下と部屋のドアが並ぶシンプルな構造だったが、1つ1つに外から鍵がかけられていたことと非常に頑丈に作られ、普段使いの部屋や客室というよりは牢屋を思わせた。
「いないか」
ノルが表で暴れているせいか部屋には人はおらず、いちいち鍵を零式で開けるのが面倒なくらいでその程度の障害しかなかった。
全て細切れにしてやりたかったが、無関係者を巻き混む&話を聞かなければいけないナドフが万が一死んでしまっては意味がない。
適当に扉をあけるが、中には魔獣の死体。
何か実験でもしていたか?
「ん?これは……」
その扉の1つ、他とは違う特徴があった。
鍵穴がない。
零式衝で壊そうと試みるのだが、壊した直後に瞬時に再生してしまう。
再生魔術か。
だがここまで瞬時再生は複数の魔術を組み合わせている難解なもの。
そしてそうまでして守りたい何かがある。
破壊できず、鍵穴もないのであれば魔術での解除しかできないはずだ。
もし、零式水晶を悪用したのがナドフなら同じ様な仕組みを多様している可能性がある。
「……よし、見つけた」
扉の中に埋められていた小さな零式水晶。
それはまるで電子錠の様。
番号を入力するかのようにそれに零式を放つ。
どうやら特定の零式を放つと開く仕組みみたいだ。
すると扉が開き、中にはベッドに横たわる老人。
「扉を開けるとは、零式使いの中でも相当の実力と見た」
「……ナドフ」
皺は増え、多少頬は落ち窪んでいたが間違いないナドフだ。
「少年か、息子よりも更に若い。これは零式の新たな才能を見つけられたかな……で、私に会いに来たのはどういう用件かな?弟子入りであれば今は優秀な弟子であるリンとノルと息子に弟子入りしてくれ、可愛い侵入者さん」
「久しぶりだな、ナドフ」
「ははは!言葉遣いがなっていないようだな……何処かで会ったことが?もう年でね」
「人の弟子を自分の手柄にするのは魔術師長の座を奪った昔と変わらないな、まさか本当にボケて俺のこともわからなくなったか」
「……貴様、まさか」
余裕の表情が一変する。
誰からも尊敬され穏やかな老後を過ごしていた男の本性が顕になる時だ。
「初めまして、僕はレイズ・アレグリス……そしてレイ・ゼロスの生まれ変わりだ」
「まさか……そんな馬鹿な!おい、誰か……」
「残念なことに俺の優秀な弟子がそっちの弟子達を相手にしてくれてるみたいだからゆっくり話ができそうだな」
「くっ……」
「零式水晶と零式に無理やり覚醒された人達について話してもらう」
「な、名を残せなかったからと俺を恨むのか!見苦しいぞ!」
……こいつは何を言っているんだ?
「名を残す?そんなことはどうでもいい。お前が今話すべきは零式水晶を盗んだか、そして奇妙な零式を生み出したのがお前かだけだ。あと10秒だけ待ってやる」
零式絶禍を放てるように構えると、ナドフは慌ててベッドから起き上がる。
「零式水晶は確かに儂が盗んだ!そしてあの零式も儂が研究して作り出した究極の零式だ!」
「究極の零式だと?あんなものが?」
「ああ!誰もがすぐに強力な力を得ることが出来る、暴走する奴が出るのは資格が無いからだ!もう少しで、もう少しで完成する……お前めそれを望んでいるだろう!?零式を多くの人々が使い幸せになる世界だ!」
「……確かに零式を多くの人が使う世界は望んだ」
「なら!!」
「暴走した奴を救う方法は」
「ない、覚醒したなら2度と元には戻らない。何百種族、何万人、何十年と試した結果だ。これだけは間違いない」
「……そうか、なら」
それ以上の言葉をナドフは発することは出来なかった。
頭が地面をころころと転がっていたからだ。
「もう不要だ……一思いに殺してもらってありがたいと思え、零式を侮辱した屑が」
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