恋人じゃ無く幼馴染の方がお互い良かったみたいだ

海音²

幼馴染以上、恋人未満そんな不思議な二人

 俺……紅川 蒼太べにがわ そうたには、3歳の頃からの同じ歳の幼馴染がいる。彼女の名前は紫雲寺 紫音しうんじ しおん。俺と彼女の出会いは最悪な形で始まった。当時の俺は、後ろ髪を少し伸ばしてて1本に纏めてたのがお気に入りだった。

 親達がいると大人しかったけど、2人で遊ぶのに部屋へ行ったら、紫音は突然ハサミを取り出した。


「男なのに髪の毛伸ばしてるのおかしい!」


「え? やめてよ紫音ちゃん! やだ! いたいよ!」


 そう言って俺の後ろ髪を引っ張り、叫ぶ俺を無視してバッサリ切り落としたのだ。そのせいで、俺は大泣きをして母さん達が慌てて見に来たら、泣き叫びながら後ろ首を抑えてる俺と、本来そこにあった髪を握りしめてる紫音が納得して頷いていたらしい。

 それが俺と紫音との初めて出会った日の思い出で今でもたまに話に出る。


 それから中学生になっても、男なのに情けないが力で負け、俺はいつも肝心な所で紫音の言うことに従ってた。そう言えば……俺が炭酸嫌いなのも、元はと言えば紫音が飲ませてきたのが原因なんだよな……まぁ、それに関しては親切からだったから良いんだけどね……そうだよね?


 それでも、俺がずっと一緒にいたのは、なんだかんだお互い気疲れ無く自然体で言い合ったりできたし、いつも一緒にいたから、当たり前になってたんだと思う。もちろんその時は異性と言うより、姉弟って感じに思ってた。


 そんな俺が紫音を意識したのは、中3の夏休みに入る少し前、俺の部屋で一緒にいた紫音は、俺がゲームばかりして相手にしなかったから、いつも通り力任せに絡んできた。

その時俺は、初めて紫音に力で勝ち、押し倒してた……今思えば、成長期を向え今までのパワーバランスが変わってしまっただけだった。

 でも、その時初めて見下ろした紫音は、驚き目を見開いて俺をじっと見つめてた。俺は彼女の紫色の大きく見開いた瞳から目が離せなくて、吸い寄せられる様に俺は、じっと見つめてた。

 少し暴れたから呼吸は少し荒れてて女性らしい膨らみが呼吸する度に、触れては離れを繰り返し、柔らかそうな紫音の唇には、黒く艶のある髪が少し被さってた。


 その時初めて俺は紫音が異性である事に意識してしまった。その瞬間俺は、自分の顔が真っ赤になって事に気がついた。じっと見つめてるのも、恥ずかしく思い視線を上下左右と泳がせ、口の中が一気に蒸発していくような感覚に驚いた。このままキスとかしたら、どうなるんだろ……俺はそう思ってしまい、紫音の唇に被さってる髪の毛を手でそっとのけた。一瞬プニっと唇に触れたが、意識しないようにした。紫音も顔を真っ赤にさせてて、俺の手が唇から離れた瞬間、紫音は「んっ」と小さく息を吐いた。


 そのままそっと顔を下げたら、キスできると思ったけど、そのせいで俺たちの関係が無くなってしまうのでは? そんな事が一瞬頭に浮かび、俺はそっと彼女から離れた。


「悪かった……その……痛くなかったか?」


「う……うん。大丈夫だから……その……私こそ急にごめん……」


 俺と紫音はお互い何を言っていいのか分からず、部屋は沈黙に包まれた。最初に沈黙を破ったのは紫音だった。


「ねぇ蒼太……私ね……」


「なぁ」

「え?……なにかな?」


 紫音は俺が話を遮ったら、ビックリして今まであまり聞いたことないような声を出してた。


「俺さ……紫音の事好きなのかもしれない……」


「かもしれない?」


 俺がそう言うと、紫音は意味がわからない感じで聞き返してきた。


「実はさ……さっき紫音見た時、凄くドキドキしたんだ……でも俺……こんな気持ち初めてでさ、コレが恋なのかまだよく分からないんだ……」


「そう……なんだね……」


 俺の気持ちはきっと恋なのかもしれない……それでもハッキリしないのに決めるのは紫音に失礼だと思い話したけど、紫音その話を聞いて、俯き消え入りそうな声で返事をしてくれた。


「それでさ、もし紫音が待ってくれるなら……同じ高校行けたらさ、その時は付き合わないか?」


 俺はずるい事を言ってるなと自覚していたが、これしか言葉が出てこなかった。紫音はきっと怒るだろうな……もしかしたら、もうこうやって2人で遊んだりできないかも……俺は紫音の返事を待ってたが、紫音は突然泣き出し、両手で顔を覆いながら、震える声で話してきた。


「ずるいね……そん事言われたら私がどうするか、わかってるくせに……後でやっぱなしとかダメなんだからね!」


 そう言って、涙で目を真っ赤にしながらも、俺を睨みつけてきた。


「そんな事しないよ。逆にその間に紫音が他の子好きになってたりしてな」


 そう言ったら、まるで睨みだけで俺の命を奪おうと言わんばかりに、さらに鋭く睨みつけてきた。俺は背中に嫌な汗が流れるのを感じ、なんとも言えない乾いた笑みで紫音をみつめた。紫音は、その鋭い視線のまま目の前まで寄ってきて、頭を「ん!」と言いながら、俺に向けてきた。俺は恐る恐る紫音の頭を撫でた。


「私が、他の子をで好きになるかもとか言う馬鹿な蒼太を安心させるためにも、定期的にこうやって撫でてもらうから」


「あぁ、わかった……変なこと言ってごめんな」


「わかればいい」


 そう言いながらも、紫音の視線はいつの間にか、ふにゃりと目を細め気持ちよさそうにしてた。


 ───────────────────────


 それから6年……

 俺と紫音は付き合っていない……いや正確にはに戻ったと言った方が正しいかな……


 無事高校が一緒になった俺達は、付き合うことになった。高校生の頃は、浮かれてたのもあるけど、イベントとかも沢山あり、順風満帆な日々を過ごしてた。だが……大学生になり、お互い徐々にすれ違っていった。まぁ……正しくは、恋人らしくってお互い無理をしてただけなんだよな……俺達は……順番を間違えてた。同じ高校に通えるとわかった俺たちは、恋人になる前……つまり幼馴染の関係の時に恋人らしい事をやり尽くしてしまった。そのせいで……恋人になっても特別それらしい事が思いつかなかった。だから去年俺達はもどった。……恋人では無く……幼馴染に……だからと言って、何かが変わった事があったかと言うと、特に変化もなく……いや、恋人だった頃よりお互い気を許しあってる感じがする。もちろんこの1年で、俺達は別の人と付き合ったりもしたけど、なんだかんだすぐ別れたりして、長く続かなかった。


「ねぇ蒼太! また彼氏に振られた!」


「はぁ!? 付き合って1ヶ月経ってないぞ?」


 ほら、こんな感じですぐ別れてくる。どっちかが別れたら……いや誰かと付き合うまではが正しいか、それまではなんだかんだ常に一緒に居る。


「だって、この前蒼太も一緒にご飯食べたじゃん? あの後から彼氏めっちゃ口うるさく言ってきてさ。俺以外の男と会うなとか、蒼太と浮気してるんじゃないのかとか、説明しても全く信じてくれなくてさ」


「またかよ……だから付き合ってる時会うの嫌なんだよな……」


 そう……俺も紫音も小さい頃から一緒にいるから、だいたい何が欲しいとか見たら何となくわかるし、勝手も知ってるから仕方ないけど、その様子を見て相手から別れ話を切り出してくるのだ……

 はぁ……俺は小さくため息を吐いて、片手でチョイチョイと紫音を手招いた。紫音はそれに気づいて凄く嬉しそうに俺の胸に顔を埋めて、頭を見せてきた。俺は、その頭をそっと撫でながら、紫音を見下ろした。紫音は頬を俺の胸にスリスリしながら、ふにゃりと気持ちよさそうに目を細めてた。


「まったく……そんな可愛い仕草を、彼氏にしてあげたら信じてくれるんじゃないのか?」


「いやよ! あの日私は言ったわよ? 本気で好きになる事は無いって。それに頭撫でてもらうのは蒼太じゃないと嫌だもん」


「だもんってなぁ……つまり……この後はいつも通り……なのか?」


「もちろん! ちゃんと私を慰めてね♪」


 そう言って、紫音は俺の唇にキスをして抱きしめてきた。俺は、このままで良いのかと悩んだが、まぁの時と変わらないか、と自分に言い聞かせ、紫音を抱き抱えてベッドへ行った。


もし、子供ができたら俺達の幼馴染としての関係から、ちゃんと進めるのかもしれないな……それまでは、今のままでもいいかな。きっと紫音との子供だったら、可愛くて少しお転婆な子供になるんだろうなぁ……


そんな事を考えながら俺は、愛する幼馴染と一緒に夜を過ごした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恋人じゃ無く幼馴染の方がお互い良かったみたいだ 海音² @haru19890513

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ