私は、生意気御曹司の教育係です。〜教育は戦争なんですよ?〜
姉御なむなむ先生
新しい日常
第1話「俺の教育係は生意気です」
生まれた時から俺の人生はイージモードだ。
俺には出来ないこと、手に入らないものは存在しなかった。
女なんぞ少し口説けばどんな女でも落ちたし、男は暴力と頭脳で屈服させられた。
勉強なんて片手まで全て出来た。運動なんてちょっと動けば注目の的だ。
「さすがは、柴田家の御曹司であらせられる蓮寺様。神童の噂はほんとうだったのね」
「見て、なんて麗しい方なんでしょうか!ワタクシ、惚れ惚れしてしまうわ」
入学したばかりのこの学校『私立
俺はここの主席として入学した。もちろん、勉強なんて殆どやっていない。
そんな俺でも簡単に主席を取れるのだから、本当にちょろいものだ。
俺が廊下を歩く度に周りの視線が集まり、授業で教師と軽く話しただけで黄色い声が上がった。
この学園で俺は知らないやつなんて存在しない。
この学園でも、俺は一目置かれて当然なのだ。
それにしても、さっきからヒソヒソと頬を赤くさせてコッチを見る女ども。
顔はまぁま可愛く、スタイルも良い。今日はこいつ等でいいか。
「なあ、そこのお嬢さん方。今日この後空いているならどうかな?」
俺に声をかけられたことで驚く女どもに、俺は淡く微笑む。
こういう笑みを浮かべれば、大抵の女は落ちるんだよな。
「え!?蓮寺様!は、ハイ!喜んで!」
「そんな蓮寺様からなんて……ワタクシ胸がいっぱいですわ!」
「それは良かった。じゃあ行こうか」
ほら、すぐに釣れた。これ程度で来るなんて、女ってちょろいな。
俺は顔を真っ赤にしてきゃあきゃあ言う女の肩を優しく掴んで学園を後にする。
ほんと、人生はイージーモードだな。
「……アレが、柴田蓮寺。ねぇ?」
****
「また、教育係……だと?」
朝食を取っていた手を止め、俺は目の前のメイドを睨む。
「は、はい。ご当主様が直々の。今日いらっしゃるそうです」
睨まれて萎縮したメイドは、俺に深々と頭を下げて逃げるように食堂をでる。
気分が悪くなった俺は持っていたスマホを投げ捨てて舌打ちをした。
今日は休日だと言うのに、本当にあのクソ親父が。タイミングを考えろよ。
教育係がこの歳で来るのは別に珍しいわけではない。
それに前にも教育係はいた。三日でいなくなったが。
俺についた教育係は大体は三日、遅くて一週間で辞めていく。
胃をやられたとか、俺に惚れてしまったとかの理由で。
まあ、当然。俺の仕業だがな。
俺よりも無能の分際で教育するなんぞ、俺を馬鹿にしているとしか思えない。
教育者だというのであれば、俺に惚れたりせず、俺に頭脳やらなんやらで負けたりしないやつを連れてこいよ。まあ、無理だと思うが。
それにしても、親父が選んだっていう教育係か。
親父が俺に構うなんてほとんど無いくせに、一体どういう風の吹き回しなんだ。
「ま、ソイツもすぐに消えるだろうが」
そうほくそ笑み、俺はフォークで目玉焼きを弄る。
半熟の目玉焼きは、黄身を潰され白い皿を汚していった。
ほんと、つまんねぇ……
「――食べ物で遊ぶなど、はしたないですよ。坊ちゃま」
「っ!?お前、誰だ」
凛とした声とともに、俺の握っていたフォークがいつの間にかナフキンの上に置いてある。
急いで上を見れば、そこには目元のホクロが印象的なきれいな女が立っていた。
「申し訳ありません。先程からノックはしたのですが、反応がなかったので失礼を承知で入らせていただきました」
女は申し訳無さそうに眉をひそめ、俺から見ても完璧なお辞儀をした。
「初めまして、坊ちゃま。私、今日から坊ちゃまの教育係をさせていただく、
「お前が、教育係……」
俺に微笑みかける女は片耳だけ桜のイヤリングをし、その焦げ茶色の髪をひとまとめにしている。
桜のイヤリングがなければ、殆ど表情筋の動かない固い女のイメージがあった。
女の吸い込まれるような黒曜石の瞳は、表情と同じように笑っているのに、その鋭さのせいか鷹のように感じる。
「はい、坊ちゃまの教育をご当主様から直接頼まれまして。微力ながらこの悠、全力で坊ちゃまの教育係をさせていただきます」
「親父が……?」
女の言葉に俺は眉をひそめる。
まさか親父が会って決めたっとは。この女一体何者だ?
いや、その前にこの女。
「……坊ちゃま呼びはやめろ。俺は蓮寺だ」
先から坊ちゃま坊ちゃまと、俺は15の男だ。
「おや、これは失礼。先程から席も立たずに私を見上げてくるものですから……つい年長さんあたりかと思いましたよ、坊ちゃま」
っこの女!俺が年長のガキだというのか!
俺を見下ろして笑うこの女は、わざと坊ちゃま呼びを強く言って俺を苛立たせる。
「お前……」
「私の名前はお前ではありませんよ。悠です」
お前の方こそ俺の名前呼ばないじゃないか!
しかも俺が名前を忘れたというかのようにクスクスと笑って名前をはっきりというこの女に、青筋付が立っていく。
俺の記憶力は世界一位だぞこの女!!
しかし待て俺。ここで怒鳴ったり怒れば本当にガキだ。
此処はオトナな対応をすべきだ。そんでいつも見たくこのクソ生意気な女を惚れさせて捨てれば良い。
ギリッと握りしめた拳から力を抜いて俺はいつも女に向ける微笑みを向けた。
「それは済まなかったな悠。突然現れたから少し驚いたんだ」
俺は立ち上がって女のそばまで近寄った。
言外に、いきなり俺に話しかけた女の常識外れを指摘する。
もちろん俺は困ったように微笑んだ上でいうがな。
「申し訳ありません。しかし、随分と食べ物で遊ぶのに熱中するもので……15の男の人でも可愛らしいところがあるのですね?坊ちゃま」
しかし女は同じように笑って首を傾げる。
ブチッと血管が切れそうになり、おれの顔の表情筋が引きつっていくのがわかった。
この女ぁ……
「……教育係がどんな人なのかを想像してな。しかし貴女のような方だと思わなかった。親父が選んだ方は、とても美しく、まるで氷の薔薇のようだ」
無表情で、棘のある可愛さの一切ない女。と俺は口説くように言う。
そして微笑んだまま俺は悠の手を取って口づけをした。
どうだ!これやってほとんどの女は顔を真っ赤にしたぞ!お前も無様に赤くなれ!
俺はちらりと悠の顔を見て、固まった。
ほんの一瞬だけ、アイツは蔑むように嘲笑って俺を見ていたような気がした。
しかしすぐに表情をカラッと変えて頬に手を置く。
「あら、お上手ですね。坊ちゃま。私が可憐な花のようだなんて」
そこまで言っていない。
心のなかでそう思うが、さっきの表情が気になりすぎて俺は曖昧な返事をする。
するとアイツが、俺に優しく微笑んで俺の手を握りしめかえした。
「私も、坊ちゃまは噂と違わぬ方だと思いましたよ」
噂?ああ、俺が神童だの言われたアレか。
ちょっと勉強をやって、ちょっと運動をした程度で周りが騒ぎ、いつの間にか俺は神童だなんて呼ばれるようになった。
アレ程度でそう呼ぶなんて、あの大人もガキも本当にレベルが低い。
しかしその噂を聞いているなら丁度いい。俺は女の手を握りしめて首を傾げる。
この斜め四十五度が良いのだ。
「恥ずかしいな。周りが勝手に言っているだけなのに」
こう言えば大抵は俺を持ち上げる。
この生意気な女もすぐに俺を……――
「ええ、全くもって恥ずかしい限りです。あんな噂が流れるほど、坊ちゃまの素行の悪さは折り紙付きです」
「は?」
「坊ちゃまは、学園の女子生徒と情事を交わし、尊敬しなければならない教師を頭脳で負かして喜ぶ。あまつさえ自分に逆らうものを暴力やその無駄に悪知恵の働く頭脳で潰す……なんと嘆かわしい」
喉から声が出なくなる。
この女は、嘆かわしいと言って目元をハンカチで押さえて俺から目を伏せる。
あまりの白々しさに、俺はソイツをじっと見た。
「ですが、ですが安心してください!私がついたからには必ず坊ちゃまを一人前の紳士に教育していきます!」
そう俺の右腕をギュッと握りしめて、白々しすぎる涙をためて俺を見つめる。
その様子を見て俺は、堪忍袋の尾が切れた。
「――このっ女!俺を馬鹿にしてんのか!?」
女の手を振り払ってワイシャツを掴む。
掴まれた女はキョトンとした顔をしたまま動かなかった。
「馬鹿にって……してるに決まっているじゃないですか。馬鹿なのか?」
ニヤッと笑った女は、俺にふっと息を吹きかける。
胸ぐら掴んで痛手はいつの間にか外されていて、女は格好を正していた。
コイツ、今……敬語が。
「お前のような人生舐め腐ったやつには、これぐらいのお灸をすえてもいいだろう?」
「おま、え……」
「ああ、お父様に言っても構わないよ?私はお坊ちゃんのお父君から何してもいいって言質を取っているからね」
驚愕で変わっているであろう俺の顔を掴み、女はニヤニヤと笑っている。
嫌な女だとはずっと思っていた。生意気な女だと。
でもコイツは……
「せいぜい他の教育係同様、反抗してみせろ。神童さま?」
胸ぐら捕まれ微笑むこの女は、誰もが惚れ惚れするような笑みを浮かべて俺を下から覗き込む。
耳元で囁いて離れていったその女の顔は、俺を完全に下に見ていた。
これでハッキリした。
この女は、俺の――
「さあ(クソガキな)坊っちゃん、教育(戦争)の始まりですよ?」
敵だ。
****
のらりくらりと新作登場。
現在更新中の作品もよろしくおねがいします!
クチの悪い女の子。結構好きです。
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