片想いの告白練習。〜好きな人の練習台にされました〜

遊真野 蜜柑(ゆまの みかん)

初恋は実らない、前編。



辺りがすっかり暗くなった夕方6時過ぎ


「……ぅーっ……ぅ……」


部屋の明かりを消してベッドに深く潜り込み、声を押し殺して私は泣いていた。

たった数時間前の出来事で私の世界の景色は色を無くしてしまったのだ。



初恋は実らない

そう実感した日だった

これは私の失恋が確定した

初めての恋が終わりを告げた

悲しい出来事を綴った物語である



ーーーーーーーーーーーーー



明後日から冬休みになるという事で今日は午後からの授業は全て掃除になるらしい。

給食を終えたクラスメイト達はそれぞれが制服からジャージに着替え、その後に好きな事をしている。


本を読む者、友達と教室でトランプ等で遊ぶ者、廊下でお喋りをしているキャピキャピしてる女子達も居るし、寒い寒いと言いながらベランダではしゃぐ男子達も居ていつも通りの学校風景が広がっている。


そんな中、私自身も友達数人とお喋りしている一人だったりする。


「ねぇ、ひろちゃん」

私は友達の茉梨まりに呼ばれてそちらを見る。

「なぁに?茉梨ちゃん」

「もうすぐ冬休みだけど…、藤島君に告白ってしないの?」


ドキッとして一瞬私は反応が遅れる。

そして更に友達である彩葉いろはも畳み掛けてくる。

「あー、それ私も思ってた!紘と結哉ゆうやって結構仲良いじゃん、いけるんじゃない?」

「彩葉ちゃんまでいきなり何言い出すの?!」

「「だってぇー、ねぇ?」」


フフッと笑い合い楽しげにからかう二人とは対照的に幼なじみ兼親友の亜沙美あさみは冷静に話してくれる。


「告白はタイミングも大事だけど、気持ちも大事じゃない?焦って良い事はないと思う」

「亜沙美ぃ」

私は縋り付きたい気持ちを抑えて頷きながら亜沙美を見た。


「冬休み明けたら本格的に受験シーズンになるし、告白なんて言ってられなくなるもんね。3月には卒業だし」

「そう!冬休み明けたら本格的に受験シーズンになるし、遊べるのは今の内なんだよ。高校別だったら尚更……会えなくなるし…」

亜沙美の言葉に彩葉が同意して熱く語ったかと思うと目に見えてペタンと萎れた。


「あー、彩葉ちゃんといつき君って、志望高、別だっけ?」

彩葉の落ち込みに茉梨が少し考えてから隣のクラスの男子の名前を口にする。


「…野球やりたいから強い男子高目指すって…」

俯きながらボソッと教えてくれた。


私達四人は皆同じ共学の高校を志望校にしている。


彩葉には彼氏が居るけれど茉梨と亜沙美には彼氏も好きな人も居ないらしい。

私は話に出てきたように好きな人が居る。

藤島結哉ふじしま ゆうや

同じクラスのちょっとだけ背が高いちょっとだけ優しい人だ。

何故ちょっとだけなのか…それは気まぐれ猫みたいに気が向いた時だけ優しくしてくれるから。

皆のノートを配る時とかプリントを配る時とか、5回に1回位で手伝ってくれる。

それ以外の時は声だけ掛けてくれるんだ。

それは私にだけじゃなくて皆に同じ様な態度なのできっと彼の性格なのだろうと思う。


そう考えて窓の方へと視線を向ける。

外には数人の男子達がベランダで下を覗いたり、じゃれ合ったりして遊んでいる。

その中の1人…結哉へと視線を動かした時、目があった。

ニカッと笑いかけてくれてすぐ隣の友達との話に戻ったようだけど。


「笑顔向けてくるなんてやっぱりいい感じなんじゃなーい?」

ニヨニヨと微笑みながら彩葉が頬をツンツンしてくる。

「もー!まだ心の準備が出来てないから告白はしませーん!」

私は恥ずかしくなり咄嗟に早口で言って席を立つ。

そろそろ始業準備の鐘がなりそうだったのでトイレに行こうと思ったのだ。

「トイレ行ってくるね」

「行ってらっしゃい、もぉ彩葉ちゃん、紘ちゃんをあまりからかわないの!」

茉梨にたしなめられて唇を尖らせる彩葉に私は苦笑いを返して踵を返しトイレへと向かった。



トイレを済ませ石鹸で手洗いをしハンカチで手を拭きながら目の前の鏡を見る。

肩より少し長い位で切り揃えられた髪を校則のため二つ結びにしている平凡な顔、奥二重の自分の姿が映っている。


(あーぁ、もうちょっと可愛い顔だったらもっと自信が持てたんだろうなぁ、せめて二重だったら良かったのに……)


鏡を見てニコリと笑顔を作ってみる。

作り笑いの自分が鏡から見ているだけだった。


「はぁ……教室戻ろっ」


呟いて踵を返すとタイミングよく始業準備の鐘が鳴り響いた。


教室に戻ると大体の生徒が教室の中に戻っていて私も席に着く。

この後は5時間目6時間目を使って掃除になる為、皆席に着いているがガヤガヤと前後左右の人と喋っている。



キーンコーンカーンコーン



本鈴がなると担任が教室に入ってきて掃除区域の割り振りをした。

と言っても教室に半分、下駄箱と昇降口付近に半分とざっくりと分けただけだ。

「はい、みんな静かにー。こっちから右側のみんなは教室を徹底的に掃除してね。そして左側のみんなは下駄箱と昇降口付近を綺麗にしましょう。はい、それではやりますよー」


一部の男子が「面倒くさい」だとか「やりたくない」だとか言っているのを聞いて先生は手をパンパンと叩いて行動を促す。


「はいはい、やりたくないのは先生も一緒です。だけど、自分達が使用している場所なのだから自分達で綺麗にしましょうねー。ほら、移動しますよー」


渋々、文句を言っていた男子が動き出した事でクラスの皆が立ち上がり各々机の上に椅子を上げる作業をした。


「教室組はまずは普通の教室掃除をしてそれから雑巾がけ、黒板の上の汚れ落としと黒板を雑巾がけをしていてね」

そう言うと先生はクラスの半数の生徒を連れて昇降口へと向かって行った。


私は教室掃除の担当になったのでまずは皆で机を後ろに移動させてから掃き掃除をした。


教室担当には茉梨と結哉も居た。

二人は別の数人と一緒に前の黒板を綺麗にしたりしている。

黒板消しで黒板を綺麗にした後、雑巾で水拭きしている子も居て、時折楽しそうに笑う声が聞こえてきたりする。


(楽しそうだなぁ、黒板組…)


「紘ちゃん、そろそろ塵取りでゴミ集めるよー?」

「あ、うん。お願いー」

クラスメイトに呼ばれ素早くゴミを集めて塵取りに入れていく。


前側の掃除が終わったので今度は机を後ろからの前に移動させてから後ろ側の掃除をする。

その頃になると一度担任が戻ってくる。


「教室担当はちゃんとやっててくれて先生嬉しいわー。下駄箱組は男子がふざけて数人が学年主任に怒られたのよー」

と微笑みながら言い、教室の掃除の進み具合を見て次の指示を出す。


「そろそろ水拭き用の水が欲しいわね……」

「先生、黒板用のバケツは有るよ、もう汚れてるけど」

先生の言葉に近くにいた結哉が答えバケツを指差した。

バケツを覗いた先生はそのまま結哉に水を替える事を頼む。


「じゃぁ、藤島君はバケツの水を替えてきてくださいね。後はもう一人…小野崎おのざきさんもバケツに水を汲んできて貰える?教室にもう一個バケツ有るよね?」

「あ、はい。わかりました」

私は先生に言われたので掃除用具入れからバケツを持ち出して教室を出て水を汲みに行く。

そこに結哉もバケツを持って来た。








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