廻る風車、棄てられた駅

紙飛行機

第0話 プロローグ

 夏の暑さがやっと引き、肌に当たる風だけで言えば肌寒さすら感じるようになった。競うように喚いていた虫たちは、静かに奏でる虫へ徐々に入れ替わった。ゆくゆくは山頂から望む景色も赤く染まり、そこに住む者達も寒さへの支度を始める。この村の草木は揺らぎを止めることは殆ど無い。北から南へとくさびをなぞるように風がほぼ一年中、集落へ向かって吹く。その風は井戸のポンプから集落に行き渡る電力まで、今では村で一括管理する仕組みに変更されてしまったものの、かつてはエネルギーの「自給自足」のためどの家も自家用風車が設置されていた。そのため今でも風車は村のシンボルにもなっている。


 リンガン村は鉱山の村である。最盛期には八万人もの人が住んだと言われるこの村も、今では三千人に満たない集落になってしまった。人が増えるにつれて作られたものは、人が減り情勢が変わることで使われなくなる。あるものは壊され、あるものは放置ののち、姿形が周りの自然と同化する道を歩む。人も需要に対応して作られた建物、道具のように必要が無くなると、自然に溶け込んでしまうのか。あるいは溶け込むことを余儀無くされるのか。


 北の山頂から村を望むと集落に沿うように川が流れる。そこに寄り添うように家々が建ち、逆に距離を置いて両側の斜面には鉱山に関連した建物が点々と立つ。その中にはかつて最盛期に活躍した鉄道の廃線跡もある。現在も使われているわずかながらの建物を除けば、どの建物も周りの草木に溶け込み自然に生えた草木と見分けがつかなくなっている。


「うーん。行き止まりか」


 一人の少女が廃線跡にある詰所だった廃屋を前にして、心の中でそう呟く。その廃屋の屋根は崩れ二階の天井へ垂れ下がり、木の板が敷き詰められた壁には蔦が少しずつ廃屋を蝕まんかの如く這っている。薄い窓ガラスはどれも割れ、入り口のドアには斜めに交差した二枚の板が貼られて侵入者を防いでいたが、それらの板も今にも腐り落ちそうだ。少女は行き当たりばったりで山に登り、行き当たりばったりでここにたどり着いた。


「ここからだと今から引き返せば夕方には家に着けるかな」


 所々に手書きのメモや印が記された地図を見ながら少女は帰路のルートを頭の中で組み立てる。リリと呼ぶその少女は暇さえ見つければリュック一つを担ぎ、村の中で行き当たりばったりの「旅」を繰り返していた。

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