第23話 天使の翼
レイスは悪魔達を倒す作戦を練ろうと宣言した。
それに対して水風の国王はにこりと微笑んだ。
一切笑っていないのが、俺達だった。
「ここはわてに任せて」
その時、死神リナがそう言った。
彼女は突如として背中から白い天使の翼を出現させた。
彼女は元々ガブリエルと呼ばれる天使だった。
片方の翼しかなかった彼女はその片方の翼を死神の力と交換した。
死神の翼を手に入れた彼女は、体の奥深くに眠っていた天使の翼を具現化する事を覚えていた。
それはあのダンジョンを脱出する時に、死神リナがガブリエルとしての力を再度手に入れた形であった。
その白い翼と死神の翼を出現させた彼女は、レイスを見つめていた。
水風の国王は驚いた顔でこちらを見ていた。
次にレイスは体を痙攣させて震え上がっていた。
「どうやら、悪魔にとって天使族は弱点みたいね、レイス、いや、アスモデウス!」
水風の国王が不思議そうに死神リナの発言を聞いていた。
次にレイスはぶるぶると震え上がる。
「天使の翼、いや天使と死神の力を融合させた、断罪の翼を受けて見なさい」
それは単なる光のような力だった。
死神リナの天使の翼と死神の翼がきらりと光り輝く。
そこにいる人達は輝かしいものを見るように、目に手を乗せて、光を遮る事もしなかった。
しかし悪魔の眷属となっているレイスには弱点となり、雷鳴のような悲鳴を轟かせた。
レイスの体から黒い影があふれ出てくる。
それを水風の国王は驚きの視線でただただ見ていた。
断罪の翼の光り輝く光景が終わる頃には、レイスの体からアスモデウスがいなくなり、そこには心の無い死体が転がっていた。
水風の国王は唖然としてこちらを見ている。
俺は事情を説明しようと、口を開いた。
水風の国王はそれを真摯に受け止めていた。
「という事は、このヴァーデン砦の場所も、こちらの兵力も筒抜けではないか!」
水風の王様は顔を真っ赤にさせて叫んでいた。
「勇者神レイスを信じたわしがバカであった」
「レイスは勇者なんかじゃないですよ」
俺は冷酷に呟いていた。
「彼は俺を生贄にして神の力を手に入れたんですから」
「な、なんと……」
水風の国王デンガクは蒼白な顔をしていた。
勇者神レイスは確かにこの国の為に戦ったのだろう、その力は俺を生贄にする事で手に入れた物なのだ。
正義なのか悪なのか分からない、今、彼はみじめに死体となって転がっているのだから。
その時だった。ヴァーデン砦に侵攻してくる悪魔達がやってきたと言う鐘が鳴り響いた。
王様の周りにいた側近たちは真っ青な顔になり、いまにも世界が終わってしまいそうな表情を浮かべた。
国王はじっとこちらを見て、伝説のジャックを見ていた。
「勇者神ほど、優しくはないですが、俺達が相手しますよ」
「君達が普通ではない事は理解している。それでも悪魔の数百万体に勝てるとは思えない」
「そう思うのも仕方がありませんが、そこに転がっている勇者神より俺達のほうがはるかに強いですよ」
その発言を聞いていた水風の国王デンガクは頷いた。
「すまぬ、ここは力を貸してくれ」
「もちろんです」
そうして俺達は、ヴァーデン砦に来たばかりなのに、砦の守護を任された。
この砦を守る兵士達は数百名しかいない。
俺と死神リナと勇者テニーと隻眼のオーディンと安倍晴明と伝説のジャックで十分だと思うが、倒し漏れで民衆に被害があっては困る。
その時玉座の間に数十名の緑色の軽鎧を身に纏ったエルフ達が入ってきた。
部隊長らしきエルフが水風の国王デンガクの手前で足を折り曲げて、膝をついた。
「エルフ族のエルルフ騎士団到着しました」
「おお、そなたは勇敢なるドルンク殿じゃな」
「御意、こちらは2千人のエルルフ騎士団です。わたくし達がヴァーデン砦を死守いたします」
「それは助かる、実はそこの冒険者達にも依頼したのじゃ」
するとドルンク殿と呼ばれたエルフの隊長はこちらを見て、舌打ちした。
「見るからに小僧と、女が2人にジジイが1人ではないか、それだけで悪魔の数百万体を倒せるとは思えんがな、ガキは家に帰ってる事だ」
「言いたいように言えばいい、俺達は悪魔達を倒すだけだ」
俺がそう呟くと、ドルンクは歪な笑顔を浮かべた。
まるで俺達は即座に死ぬから足手まといだという意味を込めた笑顔だった。
俺達はこちらをバカにしたドルンクを無視してヴァーデン砦の外に足を向けた。
===軍勢===
ヴァーデン砦の周囲に張られている魔法は悪魔達によって解除されていた。
どうやら悪魔達は魔法の結界の場所さえ分かれば解除する事が可能なのだろう。
悪魔というモンスター達は数えきれないほどぎっしりといた。
これから戦争が始まるみたいな雰囲気だった。
いや、もうこれは戦争そのものだった。
俺ことリュウフェイは不思議と恐怖を感じなかった。
俺達は地獄そのもののダンジョンを制覇したのだ。
そんな俺達が負ける訳がないと思っていた。
多種多様な悪魔達はたった数名で立ち向かう俺達をバカにしたように笑っていた。
「これは、久しぶりの乱戦を期待できそうでござるなぁ」
「ジャック、今日は暴れようぜ」
「もちろんでござる」
「わては空から天使の翼で援護するわ」
「助かるよ死神リナ」
「あたしは、真正面から倒す、それがあたし」
「勇者テニーも頼む」
「わしと安倍晴明はリーダーらしきやつらを葬って来るわい」
「まぁ俺様の出来る範囲で暴れるよ」
【わたくしは情報伝達の役目ですな】
「ゴーストの声も頼むよ」
俺はごくりと生唾を飲み込んだ。
大きな口を開けて、伝説のジャックの魂をデザートを食べるようにぺろりと飲み込んだ。
そこに出現したのは巨大な魂の剣であった。
最近の思考訓練により大きさを調整する事が出来た。
今は長大であり、自分の身長の10倍の大きさの剣となっていた。
俺達は地面を踏みしめた。
次の瞬間、地上から解き放たれた。
===エルルフ騎士団団長ドルンク===
ドルンクは砦の城壁に立っていた。
周囲にはエルルフ騎士団達のメンバーがいた。
彼等はたった数名で悪魔達に立ち向かうリュウフェイ達をバカにしたような視線を送っていた。
ドルンクも心の底からバカにしていた。
だがそれは起きた。
地上から羽ばたいた死神の鎌の翼と天使の翼をもった死神リナと呼ばれる女性。
彼女は空高く舞い上がると、輝かしい光を発した。
次の瞬間低レベルの悪魔達が次から次へと蒸発していくではないか。
勇者テニーと呼ばれたおとりとした女性はこれから散歩でもするのか、普通に歩いていた。
悪魔達に囲まれた彼女は死ぬのだろうと思った。
次の瞬間、四方にいる悪魔が一刀両断されていた。
それも一撃で数百体は葬っていた。
隻眼のオーディンと呼ばれた爺さんと神の一つとされる安倍晴明と呼ばれる2人は、巨大な幹部クラスの悪魔と相対していた。
隻眼のオーディンはいたるところに文字魔法を展開していった。
文字に触れた悪魔達は爆発していた。
連鎖爆発するかのように紙切れ、いや呪符でさらに爆死していった。
そこはもはや兵器が暴走していると思ってもいいだろう。
次から次へと幹部クラスの悪魔達は消えていった。
そしてドルンクは彼等のリーダーであるリュウフェイをじっくりと見ていた。
さぁ何を見せてくれる、そんな視線だった。
リュウフェイは長大な剣を構えてただ歩いていた。
悪魔達は彼の四方に入る事が出来ない、正確に言うと剣の攻撃範囲に入ると、悪魔達は小間切れのように両断されていた。
リュウフェイは普通に歩くだけで、剣の動きそのものは見えないレベル。
あれが人間なのか?
ほぼ化け物ではないか、ドルンクは絶句していた。
それから5分もしないうちに数百万の悪魔達は全滅していた。
悪魔達の亡骸は徐々に空気と同化して蒸発していく。
その亡骸を見て笑っている上級悪魔が6体いた。
彼等の姿形はもはや人のそれではない、悪魔そのものだ。
「あれが七つの大罪か」
エルルフ騎士団団長のドルンクにも七つの大罪の知識はある。
だが、なぜ1人足りないのか、それがドルンクには不思議でならなかった。
死神リナ、勇者テニー、隻眼のオーディン、安倍晴明、リュウフェイは七つの大罪と相対し、双方は睨みあっていた。
「もはや俺達の手に負える奴等じゃない」
「隊長、あれが七つの大罪ですね、奴らは手に負える奴等じゃないってことですね」
「いや、違う、リュウフェイ達が手に負える人間達じゃないってことだ」
「は……」
「お前何も見取らんのか、リュウフェイはもはや人の領域、神の領域を超えてるぞ」
「まさか、先ほど隊長は彼等をバカにしたではないですか」
「それは彼等が弱いと思ったから、それどころか力を隠しもっていたぞ」
「は、はは」
その場にいるエルフ族はただただ笑うしかなかった。
その時巨大な咆哮が響き渡った。
それは巨大な化け物のサタンが叫んだ鳴き声であった。
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