第5話 追いはぎの階層
「それにしても無限竜にはてこずらされたな、ジャック」
「御意だ。あんなに面倒なモンスターは戦いたくないですね」
「それはわても思うわね、わての死神の翼、助かったしょ」
「ああ、2人ともには助けられているな、次が899階だな、ゴーストの声」
【おっしゃる通りです。これで分かりましたかな、魂はレベルアップするものだと】
「ああ、それはとても理解したぞ」
【では次の階層は少し特殊です。そこでは人々が生活しています。それを人だと言えるのならですが】
目の前には899階層に入る扉がある。
ゆっくりとその扉を開いていくと、どこぞの森の中に出た。
天井は遥か真上にあり、先ほどの場所のような太陽はないようだし、雲もないようだ。
ただひたすら続く森の中を俺は警戒しながら歩いた。
もちろん伝説のジャックの魂を喰らう事も忘れず。
死神リナも死神の鎌に武器化する事も忘れなかった。
1人の子供がうずくまっていた。
俺は恐る恐る近づくと。
「どうしたんだ小僧」
「うえええん、お母さんがいないの」
「えと、どういうことだゴースト」
【ですから彼等は人ではありません、モンスターの成り代わりです。パペットパペットというモンスターであり、レベルは1人300程度です。しかし彼等はこのダンジョンで死んでいった人々の魂を喰らい、年齢を変える事が出来ます。それは成長を自在に変更させると言う事で、時たま、レアなパペットパペットが生まれます。すごく厄介なモンスターですよ】
「ジャック、リナ、問答無用だ」
「「おう、はい」」
「まったく、お兄ちゃんの魂はとても綺麗で食べたいのになぁあ、皆、ごちそうだ。1人は人間、1人は高価な魂、1人は死神だ。食って喰らってぶちまけろおおおおおお」
森のあちこちから年齢が多種多様な人間達が現れた。
彼等は多種多様な装備を身に着けている。剣、斧、棒、槍、盾、杖、それは数えきれない。
まるで小説で見たゾンビのように次から次へとわらわらと湧き続ける。
その数は数1000体は超えるだろう。
ここが森の中なのにあちこちにいるもんだから、ぎゅうぎゅうに周りを囲まれる。彼らは自分達の体を理解していないのか、足が頭から出たり、下半身から上半身が出たり、もはや化け物のそれだった。
「まったく、下級は魂の質が悪いからね、体の形をとりとめないんだよ、中級は武器を扱える。知ってる? 魂ってのは品質だ。ソムリエのように味わって食べないとね、そこのところ僕の魂は上質、いや超質だよ、だって僕が喰らった魂は勇者様だぞ」
「おい、ゴースト、敵が勇者ってどういうことだ」
【このダンジョンには賢者、勇者、武王、色々な者たちが挑み宝を持って帰っていった。だが中には騙され、殺され、貶められたものがいる。勇者は心優しく、罠にかかったのだろう】
「まったく面倒臭い事しやがって勇者様はさぁああ、さて、最初から本気でいくぜ、ジャック、リナ」
「はい、おう」
「無敵の壁を発動させつつも、増殖を発動させる」
自分が無数に増殖する事をイメージする。ゾンビが相手ならこちらも増殖するというものだ。
ただ増殖してもそいつ等がやられてしまえば、自分に魂が返ってくる。
ゆっくりとイメージしながら、周りを見回す。
「どうやら諦めてくれたようだね、さぁみんな殺してあげなさい」
あの子供、いや少年はにこりと微笑んでいる。
おれはその少年を見て笑ってしまった。
「俺は勝つぜ、地上に出る前にくたばるか、俺をバカにして生贄にした奴らを見返すんだ。今まで俺をバカにしてきたやつらに俺すげーって言ってやるんだ。俺は最高の冒険者になるんだああああああ」
体が増殖を始める。
小説で見た細胞という体の仕組み。
きっと今細胞が増殖して、自分自身を作り出しているのだろう。
しかし科学的なものではなくて、魔法の力を借りてだ。
役目を終えると、細胞は消滅する。
「お兄さん、普通じゃないねぇえ、きゃははは、面白くなってきたなぁ」
俺は今200体になって暴れていた。
全員が伝説のジャックの魂の剣を使っている。
魂も増殖する事が出来る。
そして死神リナの死神の鎌すらも増殖する事に成功する。
200人の化け物が解き放たれた。
パペットパペットは次から次へと死んでいく。
「俺は、おめーらの魂を無駄にする気はねーんだよ、喰らって喰らっておいしくディナーショータイムだ」
本体の俺は大きく口を開いた。
そこに次から次へと今までパペットパペットに食われた魂が入ってくる。
ノーマルな人間の魂を喰らう事は伝説のジャック以来初めてであった。
それプラスパペットパペットの魂も入ってくる。
味は無味無臭であり、口の中に集中して入ってくるので、空気を吸い込む事が出来ない程であった。
あらかた全てのパペットパペットの魂を喰らい終わると、最後の1人が残されていた。
少年はにこりと笑って、武器を空間から抜いて見せた。
「これはね、勇者の剣って言うんだよ、僕が勇者だから使えるんだよ、うふふ、君は魂なんかを喰らうから、魔王だね、僕は君を討伐する勇者様だ」
「いつまで、おえええええええええええ」
それは突如巻き起こった。
俺の口から大量の魂がリバースしたのだ。
それは下級の魂達であった。
もはや魂の状態を保つ事すらできなかったようだ。
魂ではないそれは俺にとってはゴミでしかない。
「あら、ひどいなぁ、彼等だって素晴らしい魂なのに」
「るせーあんなまじーもん喰えるかよ、さて、坊主、いっちょ死んどくか」
「あはは、魔王は勇者様を倒せないんだよおおおおお」
「るせーーーーー」
【思うのですが、一番変わったのはあなたかもしれません、あなたは引っ込み思案だったはずですよリュウフェイ】
「わからない、どんどん自分が変わっていく、だけどそれはとっても気持ちのいいことなんだよ」
【応援しております】
「だなゴーストの声」
その時200体の増殖した自分が消滅する。
彼等が受けてきたダメージが返ってくる。
俺の体に傷という傷が生まれ、血が噴出する。
「あらま戦う前にギブアップですかぁ?」
「るせーこんな痛みなんてなぁ、気合で何とかするんだよおおお、なぁ伝説のジャック!」
「御意ですな、あなたについていきますぞ」
「わてを忘れないでね」
俺はそこからジャンプした。剣は少年が振り上げた勇者の剣で簡単に防がれた。
とんでもない魔力を俺は感じながら、後ろに吹き飛ばされた。
森の木々を次から次へと粉砕していきながら、大きな岩に激突して止まった。
「すげーなおい」
「あの少年、さすがは勇者の魂を喰らっておりますな」
「リュウちゃん魔眼使った?」
「ああ、使ったぞ、おめーら知りたいのか、絶望すんなよ」
「ふ、戦うしかあるまい」
「わてをなめないでちょうだい」
「勇者フェイブはレベル30000だ」
「あっはっは、それは最高の敵じゃないですか、リュウフェイ殿」
「ちょーおかしいし、それ無理だしだけどあんたならやれる気がするのはなんで?」
「だろ、笑えてくるだろ。俺のレベルは500だぜ、何倍したのって話だろ、でもな、俺は諦めねーぞ」
「それがリュウフェイ殿です」
「まったく、わても腹くくるわ、どうせあんたが勝てないと喰われて終わりだし」
「お兄ちゃん? どこにいったのかな?」
「ああ、お兄ちゃんならここだ」
俺はその岩を踏み台にして自分より体は小さいが最強の勇者フェイブを倒すため、命を投げ出した。
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