#14 シュウ 50
―シュウ 50―
「浅川詩織って憶えてますか?わたし、浅川詩織の娘なんです」
「え、ムスメェ?え・・・」
そりゃ驚くに決まってるよ。ぼくのお店にやって来た女のコ、ミチルちゃん。初めて会うというのに、何か懐かしいものを感じていたんだ。そうかぁ、確かに、詩織の面影があるよ。
「ねぇ、なんでぼくのことを知ってるの?」
「お母さんがテレビに出てるのを見たんです。以前にやってたお店ですか?カフェ・レストラン。お笑いの人がナレーターで、街散歩のコーナー」
「あぁ、あれか。確かにぼく出たわ」
「それからお母さんいろいろ調べたみたいで。今もお店のブログとかインスタとか、チェックしてますよ」
「えぇっ、そうなんだぁ」
「わたしが東京に出ることになって、お母さんが教えてくれました。行ってみてって」
「そっかぁ。ぼくもね、お母さんのお店チェックしてるんだよ。『ホーボーズ・カフェ』。なんだぁ、お互い知ってて、チェックしてたんだ」
「うふふ、笑っちゃう。いろいろ聞きましたよ」
「19歳、今のミチルちゃんと同じ頃だなぁ。お母さんはぼくのことなんて言ってたの?」
「大好きだったって」
その途端、周りで聞き入っていたお客さんたちが一斉にどよめいた。
「写真一枚もらってきたんですよ、ほら」
お客さんに奪われたその写真は、恰好の笑いのネタだ。
「マスター若ーい」
「これミチルちゃんのお母さん?きれいだねぇ」
「氷川丸。山下公園ですね」
「見せて見せて」
写真の中のぼくを見て、勇也くんがやっぱりってな顔をしてる。あ~あ、もう隠しきれないな。
大騒ぎのお客さんをよそに、ぼくはミチルちゃんにそっと聞いた。
「ねぇ、今は旦那さんと二人でお店やってるんでしょ。お母さんはしあわせにしてるかい?」
ミチルちゃんがぼくの目をじーっと覗き込む。おいおい照れるだろぉ。
「はい。お父さんもいい人ですよ。お母さんの古い友達だったらしいんですけど、片山竜司って言います。知ってますか?」
「片山竜司、、、なんか聞いたことがあるようなないような。うん、いい人ならいいんだ」
ミチルちゃんの堂々とした答えに、なぜだかぼくは安心するのだった。
「ねぇ、お母さんのメールアドレス教えてくれるかな」
ミチルちゃんの帰り際、勇也くんが意を決したように立ち上がった。
「ミチルちゃん、待って」
あわててカバンの中を探り出す勇也くん。
「今度、ライヴやるんだ。これチケット。来てくれないかなぁ」
「27日、、、うん、大丈夫だと思う」
「絶対来てほしい。待ってるから」
そんな二人のやりとりをぼくは眺めていた。あの頃のぼくらも、きっとこんな感じだったのだろうか。
後日、お店のテレビでミチルちゃんが出演するドラマを見た。勇也くんや、あの時居合わせたお客さんなんかも来てくれて、みんなで見たんだ。ミチルちゃんの出番は、確かに短かったけどよかったねぇ。輝いてて、オーラが違う気がした。人気出るよ。きっとうまくいく。ぼくはそう思ったね。
ぼくは思い出していた。詩織がいなくなってしばらくして、ぼくは人生で最後の曲を作ったのだった。いつだったかケイタに言われた。思ってることを素直に歌にしろって。最後の最後でやっと作れたよ。いつか詩織に聴いてもらいたいと思って作ったんだ。そうだなぁ。またギター引っ張り出して弾いてみようかなぁ。
詩織はこの曲をなんと言ってくれるだろうか。いい曲だね、なんてほめてくれるだろうか。
同い歳
知り合ったのは深夜のコンビニだった
俺は学生アルバイトただの小遣い稼ぎさ
あの娘は2時半になるとやって来る
ほんの小さな恋だった 俺あの時19
声をかけるのに3ヶ月もかかったよ
夜の水商売 少しショックだったけど
自分の力で生活をしているあの娘
親の金で大学に行っている俺
同い歳なのにあの娘は大人だった
あの娘を越えることが俺の課題だった
男に生まれたから
この恋実らせるために
初めて夜を明かしたあの娘のアパートで
なのに抱くどころか触れることもできず
眠れずに窓の外朝日が射し込む
あの娘の寝顔見て俺は自分を恥じた
あの娘には夜の仕事を辞めてほしかった
なのに今の俺何も言えるわけないから
退学届け出したんだ すぐその足で
あの娘の部屋へ 頭を下げて頼んだよ
同い歳なのにあの娘は大人だった
あの娘を越えることが俺の課題だった
男に生まれたから
この恋実らせるために
新しい部屋二人で暮らし始めた
なのに俺ときたら
ロックバンドに夢中になっていく
ただ俺はいかした姿をあの娘に見せたくて
おかげでバイトは続かず生活が崩れ出す
あの娘の帰りが遅くなるすれ違いの日々
後で知ったよ昼間の他に夜もアルバイト
やっとライヴハウスで人気が出だした頃
あの娘は倒れ救急車で運ばれた
病院のベッドであの娘は眠ってた
俺は自分の無力に情けなくて泣いたんだ
俺との生活はただ負担になるだけだ
あの娘は部屋に戻ることなく故郷へ帰った
同い歳なのにあの娘は大人だった
あの娘を越えることが俺の課題だった
男に生まれたから
この恋実らせるために
あの娘だけがいない部屋に取り残された俺
やっと周りが見渡せた気付けば24
別れ際のあの娘の言葉が頭から離れない
わたしの代わりに早く夢を叶えてね
電話であの娘が約束してくれた
身体を治してこの部屋に戻って来ると
俺は未来のために小さなお店で
真面目に働いてるまともにならなきゃと
おまえと出会って俺は変わったんだ
おまえを想う気持ちが俺を動かした
やっと自分になれた自分が始まったんだ
おまえに認めてもらいたくて
それは今も変わらない
同い歳なのにあの娘は大人だった
あの娘を越えることが俺の課題だった
男に生まれたから
この恋実らせるために
<おしまい>
読んでいただきありがとうございました。
架空 テラサキマサミ @mashman4104
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