第5話 木の家を作る

「ここにしようか……」


 俺達は拠点とする土地を選定した。まあ、ぶっちゃけた話どこでも良かったんだが……。何せ荒れ果てた大地である北の辺境。どこの土地も似たり寄ったりで大差がなかった。だから結局は適当に決めたのだ。


 俺はアイテムポーチから建築資材となる木材×10を取り出し、適当に床に置いた。


「……グラン様、私も何かお手伝いを」


「何もしなくていいよ……そこで見ていてくれ、リノア」


「は、はい……そうですか。そうおっしゃるのでしたら黙って見ております」


 リノアは俺を見守る事にした。


 俺は【建築(ビルド)】スキルを発動した。


「ビルドカッター」


 俺はビルドカッターを作り出す。ビルドカッターは鋭いのこぎりのような刃物である。この刃物で、木材を加工する事が出来るのだ。


 俺はそのビルドカッターで木材を瞬く間に加工していく。俺の頭の中には既に、住まいの設計図が出来ているのだ。


「す、すごいです! あれほどの木材があっと言う間に……」


 リノアは俺の手際の良さに面を食らっていた。


 簡単な基礎工事の跡、俺はビルドハンマーを利用し、瞬く間に家を作り上げていった。


 キンコンカンコン!  キンコンカンコン!  キンコンカンコン!  キンコンカンコン!  キンコンカンコン!  キンコンカンコン!  キンコンカンコン!

  キンコンカンコン!  キンコンカンコン!  キンコンカンコン!  キンコンカンコン!


 俺の木工事の音が一日中鳴り響いた。近隣に住居があれば文句(クレーム)でうるさかっただろうが、ここは北の辺境である。俺達以外に誰もいないのが幸いだった。好き勝手に工事が出来るというものだった。


 ものの見事に、丸一日もかければ小さな家が完成したのだ。


「完成だ」


「こんなに一瞬で家を作れるものなのですか……グラン様の授かったスキルは素晴らしいものですね……」


 リノアは感嘆としていた。


「……素晴らしいかどうかは置いておいて、役に立つスキルだとは自分では思うよ……けどダメさ。俺の実家のロズベルグ家は剣聖の家系だったんだから。闘えるかどうか、闘って強いかどうかってだけが重要な評価項目なのさ。その評価項目に俺の授かったスキルは適していなかったんだ」


「ですが、私は感じるんです。グラン様の授かったスキルはこの世界に必要なものなのだと……そして、グラン様がそのスキルを授かった事には大きな価値があるのだという事を……」


「そうだといいんだけどな……今は世界の事なんか考えている暇はない。今考えなきゃいけないのは自分達がどうやって生き残っていくかだ。そして、とりあえずは雨露凌げそうになったのは一歩前進したって事で喜ばしい事だ」


「はい! そうですね! これで野宿をしなくてもいいかと思うと、大変心強くて喜ばしいです」


「そうだな……内装はろくにできていないけど、すぐにベッド作るから」


 木材の量的に、大きな家は作れなかった。プライバシーも何もない。小さな家。犬小屋よりも多少大きいくらいの家だった。


 一部屋しかない、簡素過ぎる間取り。だけど俺達にはそれでも十分だったのだ。野宿よりは随分とマシだった。


「とりあえず、中に入ってみるか」


「はい! 楽しみです!」


 俺達は出来上がった家——『木の家(ウッドホーム)』の中に入った。これが俺の【建築(ビルド)】スキルで築き上げた、最初の住居だった。


 ◇


「うわー……ちゃんとしたお家になっています」


 中を見たリノアは感心していた。


 窓があり……そして床と天井がちゃんとある。だけどそれだけだ。先ほど言ったように、一部屋だけの簡素な間取りだ。それでも一人で住む分には十分だろう。下水道の処理など出来ていない為、排泄などは外でしなくてはならないし、台所などもない為、料理もできないが……。


 それにしてもエルフは排泄などするのか? もしかしたらしないのかもしれない。淑女(レディ)に対して、排泄の質問をするのは流石に憚られた。


「……けどまずいよな」


「何がですか?」


「……その……リノアはエルフとはいえ、女の子じゃないか……それで俺は男なんだ。男女は普通は同衾しないもんなんだよ」


「グラン様は私に対して、何か邪な考えを持っているのですか?」


「持ってはない……断じて。そういうわけではないけど、倫理的に良くないだろう」


「倫理観よりも自分達の生活基盤の方が大事ではありませんか? ちゃんと寝ないと、翌日に差し支えますよ。グラン様にはもっと頑張っていただかなければならないのです……そうしなければ私達の生活が立ち行かなくなってしまいます。違いますか?」


「それもその通りだ……」


「でしたら一緒に寝ましょう。グラン様だけ野宿させて、私だけ屋内で寝る事など出来るはずもありません」


「……そうか。リノアの言う通りだ。待っていてくれ、すぐにベッドを作るから」


 俺は余った木材を利用し、木製ベッドを作り出す。布団も何もない為、非常に硬いがそれでも地面の上に寝るよりは上等だろう。


 こうして俺達は一緒に眠る事になったのだ。家を建てるのに一日を使った為、時刻は既に夜になっていた。日が落ちている。もはや俺達にやれる事などない。


 ◇


「ぐー……すかー……ぴー……むにゃむにゃ……グラン様、もう食べれません……お腹いっぱいです……こんなに食べさせてくれて、私、幸せです……むにゃむにゃ」


 床についたリノアは眠り始めた。よっぽど疲れているという事もあるが、男の俺の隣で平然と眠れるとは、一体どういう神経をしているんだ。もしかして種族が異なると言葉は通じても異性とは見れないのかもしれない。


 心が通じていたとしても雄犬を異性としては見られないだろう。そんな感じなのだろう。


「全く……呑気に寝て」

 

 深く溜息を吐いた。俺もリノアの隣で横になった。


 眠れない……隣に女性がいるから気になってしまうというのもある。それからもう一つ……。


 ぐー……。

 

 腹が鳴った。食糧の備蓄が減っているのだ。あまり食べれていない。お腹が減っているから眠れないのだ。


「明日からは食糧を探さないとなぁ……」


 雨露凌げる住居を確保した俺達の次なる目的は食糧の確保だった。


 こうして、眠れない夜が過ぎていくのであった。 





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