第48話 監禁部屋
ガラガラガラ
俺は、矢草に教えられた住所の廃工場の扉を開ける。するとそこには案の定、不良たちがたむろしていて、俺に威圧的な態度を取ってくる。
はあ、ここって不良のたまり場なんだよなあ……
もしかしたら、こいつらに捕まったのか?
だとするなら、ぶっ殺してやりたいところだが、見た感じ結乃らしき人物はいない。
「あ?なんだてめえ!」
「少し聞きたいことがある!別に俺は喧嘩するために来たんじゃないぞ!」
「あ?どの道、生きて返さねえよ!お前らやっちまえ!」
「そんな雑魚の頭みたいなセリフを吐くなよ」
「「「うらあ!」」」
そう声を上げながら、俺に向かってくるのは、不良の5人ほど。さすがに、ボス的な奴は出てきてないみたいだ。
「しっ……」
俺はできるだけ最低限の動きだけで、攻撃をかわし、制圧する。もちろん、凰術は使わない。こいつらは不良とはいえ、俺が殺さなきゃいけない悪人じゃない。
「ぐえ……」
「おご……」
俺が、鳩尾に拳を入れたことで、かかってきた全員がうめき声をあげて倒れる。
「よし、あと一人。お前だけだ」
「ひっ」
「と、言いたいところだが、聞きたいことがある」
「な、なんでも言ってください!」
なんだ、このヘタレは!たかだか味方が一人やられたくらいで、ビビり倒しやがって!
コホン。話題が逸れてしまったな。
ひとまず聞きたいことを聞くとしよう。
俺は、スマホに保存された写真を不良男に見せる。
「こんな女子がここに来てないか?」
「き、来てません!そもそも、こんなところにそんな一般人が来るわけがありません!」
「本当だな?」
「ほ、本当です!」
「そうか……なら、見たことないスマホが落ちてなかったか?」
「い、いえ、そういうのも見ていません!」
だとするなら、矢草にはめられた?んな馬鹿な。
―――いや、やるか?しかし、矢草だぞ?
そんなことを考えてる場合じゃないか。早く探さないと、手遅れに……
「クソッ、八方塞がりだ。結乃は、結乃はどこだ!」
「―――いち!」
「はあはあ、くそっ!どうする!どうすればいい!」
「翔一!しっかりしろ!」
「はっ!?玲羅……」
「落ち着け。翔一が冷静さを失ったら、結乃を助けるのが遅れるだけだ!」
「……すまない。少し、冷静になれた」
「いいってことだ」
まずい。俺も気付かない間に、精神をすり減らしているようだ。
だが、玲羅の言葉で冷静に戻れた。ここからは、もう少し考えなければ。
矢草の言った場所が間違いであるという事は、二つの可能性がある。
一つ目は、犯人が場所を移した可能性。だが、これは考えにくい。日頃から、ここには不良が溜まっており、まずここでの犯行は不可能だ。
そして二つ目。シンプルに矢草が嘘を言った可能性。こちらの方が、可能性は高い。
なら、矢草の行動を全て予測する。
俺は、その場に座禅の体制を取り、座り込む。
「し、翔一!?」
「玲羅、少し静かにしてくれ」
「わかった」
俺は閉じた目を開眼させる。さぞ今は、瞳孔が開ききってるだろう。
「僕は矢草斎宮。僕は結乃が好き。それを家庭にどう動く?」
俺は瞑想で、矢草の行動パターンを羅列し、行動予測を組み立てていく。
そして四日後
俺の迷走が終了し、答えが出る。
俺はすぐさま、美織に連絡する。
『もしもし?』
「急ぎのようだから、案件だけ伝える。俺の発信履歴から、矢草斎宮のスマホの位置情報を追跡してくれ」
『……わかった。あなたが学校を休んでるのとは、関係あるの?』
「ある。だから急いでくれ。事態は一刻を争う」
『居場所がわかり次第連絡するわ』
「ありがとう」
俺は、美織にお礼を言うと、電話を切る。やはり、美織はこういう時に、特に良い味方だ。
情報系は、美織の専門。俺がやるより、ずっと早い。
電話を終えたころに、玲羅が俺のもとにやってきた。
「翔一、終わったのか?」
「ああ、どのくらい時間が経った?」
「もう、四日目だ。びっくりしたぞ。座禅の姿勢から数日微動だにしないし、ときたまぶつぶつ何かを言ってるから」
「それは悪かったな。でも、ずっと玲羅はどこにいたんだ?」
「私は翔一の隣にいたぞ。たまに、水が欲しいって言ってたからな」
「そうなの?」
「無意識なのか……でも、これからどうするんだ?」
決まってる。美織の情報を待ちつつ、犯人の特定をする。その後は結乃を助けて、玲羅とのイチャラブタイムだ。
俺の数少ない癒しの時間だ。
頑張るぞ!
そう意気込んでいると、携帯が鳴る。呼び出し人は美織だ。
早いな。
「もしもし?早いな」
『当然よ。場所はあなたの場所から、南側に約2キロ。走っていきなさい』
「おーけー。ありがとな美織」
『はあ、次からは気をつけなさい。結乃ちゃん、すごく可愛らしいのだから』
「ああ、そうだな。一歩間違えたら、シスコンになっちまうかもしれなかったからな。じゃあ、ありがとうな」
俺はそう言うと、電話を切った。
「どう……だったんだ?」
「矢草にはめられた」
「え?」
「多分、一人で結乃を助けに行った」
「何故そんな無謀なことを……」
「はあ、玲羅は分かってねえなあ。男ってのはな、好きな女の前ではカッコつけたいんだよ」
「ああ、矢草は結乃のことが好きだったな」
矢草、無茶だけはするな。死ぬんじゃねえぞ!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ごめん、椎名君。でも、僕だって結乃ちゃんが好きなんだ。いい所見せたいからさ」
矢草は、翔一との電話の後、そんな独り言を吐露しながら、己の手にグローブをはめる。
女の子みたいと言われる矢草は、普段から筋トレをしている。だが、見た目にはそこまでの変化が表れていない。
だが、実際に筋肉はついているし、それなりに力もある。
だからといって、内藤家に突っ込むのは無謀だろう。
だが、矢草にとってそれはどうでもいいことだ。好きな人が危ない。それしか頭にないのだ。
そんなこんなで、矢草は現場の内藤大翔の隠れ家に来ていた。
(見回りは二人かな?これくらいなら……)
そう考え、矢草は軽快なステップで、見張りの目をかいくぐっていく。
そんなことをしているからか、非常に早い段階で結乃のいる監禁部屋に辿り着くことが出来た。
矢草は、ゆっくりとそこのドアを開けて中を確認する。するとそこには結乃がいて、矢草は一瞬冷静さを失った。
「結乃ちゃん!」
「矢草先輩……?―――あぶないっ!」
ガツンッ
結乃に話しかけた瞬間、矢草の頭に鈍痛が走り、意識を手放した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
しばらく、というより4日後。
「うっ……?頭が……」
「やあ、お目ざめかい?泥棒猫さん?」
「君は、確か……生徒会の」
「ご名答!君は勝手にこの隠れ家に侵入した。だから罰として、結乃を君に見えるように、今から犯してあげる」
「やめろ!……やめろ!」
「って、言っても、結乃はもう抵抗する気はないみたいだけど?」
「あ……う……」
もう今の結乃には、言葉を発する余裕すらなくなっている。薬のせいで全身が火照ってしまい、うまく力だが入れられない。
だから、抵抗することが出来ないのだ。
矢草は、内藤を必死に止めようとするが、武装を解除されているうえに、拘束までされている。もう、矢草は結乃をすくう事は叶わない。
「ダメだ!結乃ちゃん!抵抗するんだ!」
「でき……ないの……矢草……さん……こそ、に……げて」
「そんなことできない!僕は、僕は結乃ちゃんが好きなんだ!」
「矢草さん……い、嫌!私の初めては斎宮さんにあげるの!」
「うるせえ!」
パァン!
「んぎぃ!?」
内藤の尻たたきを受けて、結乃の声にならない絶叫が響く。矢草の告白で精神が回復したと言っても、体はすでに限界を迎えている。
そんな状況が、二人を絶望に追い込む。
ゴゴゴゴゴゴ
だが、なにかの轟音があたりに響き渡る。そう、内藤にとっては、あの時、邪魔が入った合図でしかない。
「な、なんだ!おい、監視員!何してる!」
「わ、わかりません!う、うわああ!」
「おい!どうした!おい!」
ドゴォン!
そんな轟音とともに、鉄筋コンクリートに穴をぶち明けて、監禁部屋に一人の男が入って来た。
「ヒーローは奥出て登場する!矢草、無理すんじゃねえ!バカ!」
「ごめん……椎名君……」
「まあ、責めちゃいねえ。次からは、アホなことでも相談してくれ」
「ごめん……」
俺と矢草はそんなやり取りをしていると、瓦礫の中から、内藤が出てくる。
死ねばよかったのに。
「てめええ!また邪魔しに来やがったのか!」
「何度でも邪魔してやるよ。次は殺すとも言った。もう、覚悟はできてるよな?」
「お前、まさか記憶が!?」
「それはどうかな!まあ、お前はこの場で殺す」
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