第18話 不意打ちキス

 「椎名翔一、お前を、帝聖生徒会副会長に任命する!」

 「あ゛!?」


 なにを言っているんだ?この生徒会長は。


 俺が生徒会副会長?ありえないだろ。そもそも噂が流れている。


 「白銀先輩、冗談も休み休みにしないと面白くありませんよ。」

 「なにを言っている?冗談のつもりなんか欠片もないぞ?あと拒否権はない。校長たっての任命だからな。」

 「はい!?」

 「だから拒否権は無いと……」

 「いや、そこじゃなくて。」


 校長が直々に任命?そんな馬鹿な。俺と校長の接点なんて、初日のあれしかないぞ。


 「いやいや、そもそも俺の噂聞いてるでしょ?」

 「聞いている。だが、私も校長も信じていない。少なくとも、天羽が選んだ人間だ。女性を襲うなんて卑劣なことはしないはずだ。してても、猛烈な罪悪感に苛まれているだろうな。」

 「あんたは俺を信じてるのか?信じてないのか?」

 「そんなことはどうでもいい!早く来い、仕事の説明をする。」

 「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 と、ここで今まで呆気に取られていた玲羅が初めて発言する。

 彼女の顔はとても真っ赤だ。


 「わ、私も生徒会に入る!」

 「ほう、なぜだ?」

 「わ、私は翔一と、ずっと一緒にいるって約束したんだ!翔一が生徒会に入るのなら、私も入る!」

 「玲羅……」


 玲羅、なんていい子なんだ。やめて!大好きになっちゃう!もう愛してるけど!


 「ふむ、ならば会計補佐の役職をやろう。色恋にうつつを抜かすようなら、私が椎名を没収させてもらうからな!」

 「え?ちょっと待ってどういうこと……」

 「白銀先輩―――いや白銀会長、ありがとうございます。翔一、私がそばにいるからな。」

 「お、おう。それは嬉しいんだけど、聞き捨てならない発言が聞こえたんだけど?」

 「あれ、カナメじゃん。偶然だな。運命感じないか?」


 俺が会長の発言について言及しようとすると、3人の男が会話に入って来た。


 というか、運命ってなんだよ。しかも、学校内ならほぼ必然的に会うだろ。偶然って……


 「感じない。それより、ボクシング部の勧誘は良いのか?」

 「相変わらずクールだな。そんなに堅く生きてないで、少しは遊ぼうぜ。」

 「遊ばない。鬼頭、あまりおふざけが過ぎると、予算を下げるぞ?」

 「おいおい、職権乱用は酷いぜ。あれ?君、新入生?めっちゃ可愛いじゃん。」

 「うっわ、マジだ。レベルたけえな。―――あ゛!?」


 会長に絡んだかと思えば、今度は玲羅に目を付けた男たち。そいつらは玲羅に触れるために手を伸ばすが、その手を玲羅に弾かれたため、威圧のこもった声を出す。


 「触るな。私の体は、心は、全て翔一のものだ。お前達なんかが気やすく触って良いものじゃない。」

 「あ?翔一って、そのもやしみたいな体の奴?体が細過ぎて気付かなかったわ。」


 体が細いから気付かない。きょうび日聞かないな。よくある奴なら、影が薄いとか、背が低いとかならよくあるけど。


 「ふん、お前達みたいな低能では、翔一の良さが分からないんだろう?かわいそうな奴らめ。」

 「あ!?てめえ、少し顔が良いからって調子乗りやがって!」


 あ、これ玲羅に殴りかかるな。ヘイトを少しこちらに向けるか。


 「玲羅、言ってやるなよ。頭で考えたことが、理性というフィルターを通さずに下半身に直結するような顔してるだろ、こいつら。」

 「てめえなに言ってやがる。」

 「ほら、こいつら同じことしか言ってねえぜ。低能が透けて見えるよ。」

 「ぶっ殺す!」


 かかった!うまくヘイトはこっちに向いた。


 玲羅のきれいな肌には、俺が傷一つつけさせない!―――我ながら、この発言はキモすぎるな。マジワロタ


 あとは、こいつらを再起不能になるまで叩きのめす。


 「ちょっと待った!お前達、停学になるつもりか?」

 「確かに会長。こんな低能な奴らのせいで、被害を被るのはバカバカしいっすね。」

 「椎名、少し黙ってろ。鬼頭、お前ボクシング部だろ?なら、ボクシングでケリをつけろ。」

 「俺が勝ったらどうしてくれるんだ?」

 「私と天羽が、週末お前らとデートしてやる。」

 「よっしゃ乗った!」


 こうして、怒涛の超展開で、なぜかボクシングの試合がマッチングした。


 さ、意味が分からないぞ。どうしてこうなった?


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「白銀会長、なぜこんなことを!」

 「すまない六道りくどう。だが、私の目の前で停学処分を下されるような行為は許さない。やるのなら正々堂々だ。」

 「会長らしいですけど、でもあの男を生徒会に入れるのは納得がいきません。」

 「まあ、最初はそう言うと思ってるから。少しずつでいい。あの男をよく観察してみろ。噂のような人間ではないことはすぐに分かる。」

 「白銀会長がそういうのならわかりました。でも、噂通りの人だと思ったら私は容赦なく追い出しますからね!」

 「はいはい、ツンデレね。」

 「はぁ!?」


 外野がうるさい。


 六道という人は、おそらく生徒会メンバーの一人なんだろう。俺の生徒会就任に、反対しているようだ。


 それよりも今は前に集中だ。


 「翔一、大丈夫か?緊張してないか?体の痛いところはないか?」

 「あーもう玲羅、椎名は精神統一してるのよ。邪魔しないの!」

 「そうだよ。心配する気持ちはわかるけど、あの話が本当なら椎名君、強いでしょ?」

 「玲羅ちゃん、彼氏さんを信じてあげましょ?」


 セコンドもちょっと静かにしてほしいな。玲羅は、友人に俺の過去を話したらしいが、今後そういったことは控えて欲しいな。


 「翔一っ!」

 「なんだ、れい―――っ!?」


 俺が、玲羅の呼びかけに反応して振り向くと、俺の口が塞がれた。


 玲羅の唇で


 この間したようなディープな奴ではなく、今回は唇と唇を重ねるだけの優しいものだ。だが、精神集中している状態でやられると、全ての集中が唇に移動してしまう。


 「激励のキスだ。翔一―――がんばれっ」

 「~~~っ!?」


 元気百倍!翔一、いっきまーす!


 「は、見せつけてくれるじゃんか!でも、残念だったな。あの子の処女は俺がありがたくいただいてやるからな。」

 「なぜ玲羅が処女だと?」

 「あ?こういうのはそういうもんだと思ってた方が良いだろ?なんだ、それとも調教済みか?」

 「ごめん、俺お前みたいな相手を思いやれない低俗な嗜好してないから。」

 「てめえ!」


 怒れ怒れ。感情的になればなるほど行動が読みやすくなる。


 なんか俺、悪役みたいだな。マジワロス


 さ、俺の語彙が古くなってきたところで、相手の戦力の確認をしよう。


 鬼頭義輝きとうよしてる。中学生の時、全国中学ボクシング準優勝。地元ではボクシングの神童と言われていた。過去についてのそれ以上の情報は無し。

 生来の性格から、ラフプレイが非常に目立つらしい。まあ、目見ればわかる。むしろこの見た目でクリーンプレイとかされても気色悪い。


 「先手は譲ってやんよ。」

 「は?」


 俺が分析をしていると、鬼頭に話しかけられる。なんか先手を譲るとか言ったか?頭沸いてんのか?


 「俺がただ素人に勝つだけじゃ、つまんないだろ?せめて一方的にならないように、お前のターンを作ってやるよ。」

 「はあ、そういう慢心が戦いで命取りだってのに。」

 「なんか言ったか?」

 「いや、なんにも。いくぞ!」

 「はは、来いよ。やれるもんならなあ!」


 バキィ!


 試合は一瞬で片が付いた。


 俺の一瞬の踏み込みの後に、放たれたストレートが鬼頭の頬を捉えた瞬間、鬼頭はリング外にまで吹っ飛ばされ、気絶したからだ。


 こうして、神童と言われた男との試合は、1秒にも満たない時間で終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る