青!春!始!動!

第14話 入学式

 「サンタクロースをいつまで信じていたかなんてことはたわいもない世間話にもならないくらいのどうでもいい話だが、それでも、俺がいつまでサンタなどという想像上の赤服じーさんを信じていたかと言うと、これは確信を持って言えるが、最初から信じてなどいなかった。

幼稚園のクリスマスイベントに現れたサンタは偽サンタだと理解していたし、オフクロがサンタにキスしているところを目撃したわけでもないのに、クリスマスにしか仕事をしないジジイの存在を疑っていた賢しい俺なのだが……

 はてさて、宇宙人や未来人や幽霊や妖怪や超能力者や悪の組織やそれらと戦うアニメ的特撮的マンガ的ヒーローたちがこの世に存在しないのだということに気付いたのは、相当後になってからだった。

……いや、本当は気づいていたのだろう。ただ、気づきたくなかっただけなのだ。俺は、心の底から、宇宙人や未来人や幽霊や妖怪や超能力者や悪の組織が目の前にフラりと出てきてくれることを望んていたのだ。しかし、現実ってのは、意外に厳しい。

 世界の物理法則がよくできていていることに感心しつつ、いつしか、俺はテレビのUFO番組や心霊特集をそう熱心に見なくなっていた。

 宇宙人……未来人……超能力者……そんなのいる訳ねぇっ。でも、ちょっといて欲しいみたいな、最大公約数的なことを考えるくらいにまでは俺も成長したのさ。

 中学を卒業する頃には、俺はもうそんなガキな夢を見ることからも卒業して、この世の普通さにも慣れていた。

 俺は大した考えもなく、普通の高校生になり、ソイツと出会った……」


 「蔵敷……お前ひとりで何言ってんだ?―――というか丸パクリはやめろよ……。」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「お兄ちゃん、おっはっよー!」

 「んあ?」


 4月12日。俺は結乃が布団を盛大にめくったことによって目を覚ました。

 結乃が起こしに来たのだから、寝坊しちまったのかな?


 そう思い、枕もとの目覚まし時計を見ると―――


 「4時じゃねえか。今日は弁当もないし、5時からでも朝飯は間に合うから。もう少し寝かせてくれ。」

 「駄目だよお兄ちゃん。早く起きないと玲羅先輩を起こせないぞー。」

 「いや、玲羅は規則正しいから、起こしても起こさなくても6時に起きてくるぞ。」

 「そんなんだからダメなんだよお兄ちゃんは……。」

 「お?喧嘩なら買うぞ。」

 「いいの?私とお兄ちゃんが喧嘩したら、この家が半壊するよ?」


 クソッ……。昔、実際にやってるからぐうの音も出ねえ。


 「取り敢えず、結乃はもう少し寝てろ。朝飯の準備しといてやるから。」

 「はーい。」


 そう言いながら、結乃は寝室に戻って行く。


 まてよ、今日の当番って結乃じゃ……?まあいいか、明日やらせよう。

 俺は釈然としないながらも、朝食の準備を始める。


 二時間後、制服に着替えた玲羅が下りてくる。わお、さすがラブコメ。セーラー服だ。


 「その、翔一……似合ってるか?」

 「滅茶苦茶似合ってる。もう、可愛すぎて……」

 「い、いい!それ以上は言わなくていい!恥ずかしい!」


 ふふっ。今日の玲羅も絶好調。


 時間は少し経過して、登校時間。


 「お兄ちゃん、忘れ物ない?」

 「ねえよ。じゃあいってくるわ。」

 「結乃、いってくる。」

 「二人共、いってらっしゃーい!」


 そう言って手を振る結乃に見送られ、俺と玲羅は高校に向かう。

 もちろん恋人つなぎで登校だ。


 握った時、初めて気づいたのだが、玲羅の手はとても小さい。そうは言っても気持ち的な話だ。体格の割に小さいとかそういう話じゃない。本当に俺にとっては小さくて、包み込みたくなるような気分だ。―――自分でも何言ってんのかわかんねえや。


 そうこうしている内に俺たちは電車に乗り込む。俺達の通う高校は、最寄りから二駅ほど離れている。そこまで不便な距離じゃない。


 電車に揺られていると、ふと玲羅が話しかけてくる。


 「翔一は、どんな高校生活を送りたい?」

 「うーん。玲羅が隣にいれば何でもいいかな?不幸なことが起きず、何事もなく終わればいいな。」

 「私はいっぱいしたいことがあるぞ。色々なところでデートをしたい。文化祭も体育祭も、クラスで団結して頑張りたい。それに……」

 「それに?」

 「エッチなことも翔一と……」


 っぶねえ。耐えたぞ。突発的に玲羅を抱きしめそうになった。危なかった。

 こんな公共の場で抱き着いたら、俺の人生の終わりにチェックだ。


 ただ、玲羅も恥ずかしかったのか、この話は沈黙によって打ち切られた。そんな気まずい雰囲気が出来た中、高校の最寄り駅に到着する。


 そこからしばらく歩いていると、つないだ手をいきなり切り離される。

 誰だ!?と思い、振り向くと―――本当に誰!?


 知らないおっさんがいたんだよ。


 「だ、だれ……?」

 「しょ、翔一、学校のパンフレットは呼んでないのか?この顔は、私たちの通う帝聖高校の校長だ。」

 「いや、パンフに乗ってる顔なんていちいち憶えて……え!?校長!?」


 俺が正体に驚いていると、まじまじと俺の顔を見てくる。この眼はあれだ。人を査定する目だ。こういうことするのは、物語だと女好きのヤリチンがしそうなしぐさではあるが、それとは違う。本当に人間性を見られているようだ。


 しばらくして、査定が終わったのか、満足した顔でおっさん(校長)は去っていった。


 「な、なんだったんだ?」

 「さ、さあ……。でも翔一の顔を見て、満足そうな顔をしてたぞ?印象は良かったんじゃなかったのか?」

 「そうだと良いけどなあ……。」


 そんなこんなで、校門が見えてきた。その前には生徒会らしき人物たちが挨拶をしていた。その中に見覚えのある人物がいた。


 いや、俺は初対面だけどな。俺は一方的にこの人を知っている。


 「白銀しらがね先輩!」

 「ん?おお、天羽か!久しぶりだな。これから同じ高校かよろしく!……ん?そこの男子生徒は?」

 「そういえば白銀先輩は初対面でしたね。紹介します。」

 「椎名翔一です。白銀先輩……でいいんですよね?よろしくお願いします。」

 「おお、礼儀正しい奴だな。お前は天羽の彼氏か?」

 「はい、そうです!」


 白銀カナメ。「中ハー」に無数に存在するサブヒロインの一人だ。たしか、ヒロインの中で唯一の年上キャラだ。年上と言っても、1歳しか変わらないんだけどな。

 銀髪の髪を腰のあたりまで伸ばし、透き通るような肌をした女子だ。作中、身に纏う雰囲気が女子中学生のそれではないと言われ、その色気からファンになった人物も多かった。しかし、玲羅とのキャラ被り感も若干否めなく、卒業後ほぼ物語に関与していない。


 「じゃあ、それじゃあ白銀先輩。高校でもよろしくお願いします。」

 「あ、じゃあ俺もこの辺で……」

 「あ、ちょっと天羽の彼氏君、話が……」


 最後に何か言ってたぽいが、俺は聞き取れなかった。


 高校に入って、最初のイベント。そう、クラス分けだ。

 まあ、蔵敷が独り言を言っていたこと以外は、特に何もなかったので割愛だ。ちなみに、俺と玲羅は一緒のクラス(1-6)になった。サイコー!


 そこからは、入学式なりなんなりに参加して、高校初日の半分が終わった。

 今は、教室の方に戻ってきている。玲羅は、もう仲のいい友達を作ったみたいで、楽しそうに喋っていた。


 そして、担任の指示により自己紹介が始まり、俺も無難に終わらせたのだが、そこで思わぬ事態が発生する。

 その原因は一人の女子生徒だ。

 一見、小柄で子供っぽいように見えるが、出るところは出ている。一般の茶髪とは違い、茶色単色の髪に、人を射殺さんとするほどの鋭い眼光。

 俺はあいつに見覚えがある。だが、なぜここにいる。


 「私は条華院じょうかいん美織みおり。そこのあなた。」


 彼女が指さすのは、俺だ。


 「はい?」

 「椎名翔一。放課後、校舎裏に来てください。」

 「「「えええええ!?」」」


 美織の発言に、クラス全体が驚きの声に包まれる。

 そんなのお構いなしとばかりに、それだけ言うと美織は席に座った。


 それから少し経って、放課後が来てしまった。


 「翔一、その……今日は仲良くなった人達がいるから、その人たちと遊ぼうという事になったのだが……」

 「なぜ俺に聞く?別に友達と遊びに行くのをどうこう言ったりしないよ。楽しんできな。」

 「いや、そういう事じゃなくて……。さっきの……。」


 そう俯き気味に話す玲羅。おそらくさっきの美織の行動を告白の前段階と思ってるんだろう。


 「今の彼女は玲羅だ。何を言われても、俺は君の傍を離れない。意地でもだよ。」

 「翔一……。信じても良いのか?」

 「いいよ。指切りする?」

 「は、恥ずかしいからいい!じゃあ、行ってくるから!」


 顔を真っ赤にしながら、友人の方に向かっていく玲羅。後ろ姿も可愛いな。


 玲羅の姿が見えなくなった後、俺は校舎裏に向かった。

 校舎裏は設計上、あまり日が差さないため、地面が湿っていた。湿気が多いから、あまり長居したくないな。


 しかし、そんな中でも律儀に待っている奴がいる。美織だ。


 「久しぶりですね、翔一。」

 「ああ、そうだな美織。なんだよ、用って?」

 「あらあら、再会の余韻に浸るとかはしないの?」


 カメラで撮られてるな。正直、再開の余韻とかどうでもいい。こいつはもう―――


 「お前は、俺に愛の告白をしに来たわけじゃないんだろう?」

 「あら、よくわかってますわね?やはり、天才は健在かしらね?」

 「チッ、皮肉はいいんだよ。」

 「じゃあ、言わせてもらいます。」


 美織は一呼吸おいて、喋り始める。しかも、結構な声量で。



 「―――やっと会えたぞ、このレイプ魔。お前を追い詰めて追い詰めて、地獄に落としてやる!」

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