第7話 なんか良い
「ただいまー」
「た、ただいま……」
玲羅との同居の許可が下りて、俺の家に帰ってきた。
ひとしきり泣いてスッキリした俺は、なんか、こう、すっきりした。感謝しないとな。
玲羅はというと、そんなに恥ずかしかったのか、俯きながら目を合わせてくれない。そりゃ、人前で、しかも自分を好きだと言った奴の前で泣いたんだからな。
「あ、おかえりお兄ちゃん。玲羅さんがいるってことは、許可が下りたんだね?」
「ああ、いつまでかは分からないけど、この家にいる許可が下りました!」
「そ、そういう事だから、そのよろしく頼む……」
「……?どうしたの、玲羅さん?……泣いてる?」
さすがの妹も、異変に気付いたようだ。しかし、それを隠すように元気な笑みを浮かべて答える。
「なんでもないぞ。これからよろしく頼むぞ!」
「「……っ!?」」
「どうした、二人とも?」
いつもクールな玲羅が、こう、いつも見せない姿を見ると、来るものがあるな!
「普段、あんまり笑顔を見せない玲羅さんが笑うと、もうギャップが凄くて……」
「なっ!?どういうことだ!」
「まあ、つまり可愛いんだよ!なあ、結乃!」
「そう!お兄ちゃん分かってる!危なかったー、惚れるところだった……」
その言葉に、玲羅が顔を両手で覆うが、耳が真っ赤になってるため、恥ずかしがってるのは明確だ。
おっと、
「そういや、今日の夕飯は俺の当番か。結乃、風呂沸いてる?」
「もう、やってるよ。」
「そうか、なら先に二人とも入っててくれ。俺は夕飯の準備してるから。」
「りょうかーい。ほら玲羅さん、行くよ。」
「あ、ちょっと待ってくれ、着替えを取らせてくれ!」
「えー、そんなの良いじゃん。家の中なら誰も見てないよ。」
「よくない。結乃、お前は恥じらいはないのか?兄ちゃん、心配になってくるよ。」
俺も結乃に付き合ってないで、料理を作らなければ。
とりあえず、結乃は長風呂だからそれなりに時間をかけてもいいだろ。
となると今夜は……
「鍋にでもすっか。ちょうど冬だし。」
そう呟くと、さっそく作業に取り掛かる。
……………………一時間半は経った頃。
「お兄ちゃん!今日は鍋にするんだね!お兄ちゃん大好き!」
「感謝するなら、自分の当番の時も、自分だけの力で料理してほしいな。」
「えー、お兄ちゃんのを知ったら、あたし他の男のじゃ満足できない!」
「料理の話な!外で絶対言うなよ!」
結乃の大ボケに、いちいちツッコんでいてはキリがない。
しかし、結乃の後ろにいる玲羅。軽く湿ってる髪にパジャマ姿は、なんともう破壊力が凄い。
「椎名、お風呂ありがとう。その、なにか手伝えることはあるか?」
「ああ、じゃあね鍋見ててくんないかな?噴きこぼれそうになったら火弱めて。その間に風呂入ってくる。」
「わかった。」
そう言って、俺は脱衣所に向かう。
脱衣所で服を脱いで、いよいよ浴室に入ろうという時に脱衣所の扉の向こうから、結乃の声が聞こえてくる。
「お兄ちゃん、お風呂のお湯飲んじゃダメだよー。さすがに兄といえどキモすぎるからね。」
「したことねえよ!てか、腹壊すからお前こそやんなよ!」
「はーい!」
その後、静かになった浴室で、体を洗って湯船につかる。
結乃は、将来大丈夫なのかな?この世界に来てからの妹とはいえ、記憶の中にはちゃんと存在する妹だ。
将来、いい男を捕まえてこれるのか?兄ちゃん、心配だよ。
それなりに、湯船に浸かった後風呂から上がり、部屋着に着替える。
途中、洗濯カゴに適当に放り込まれた、下着やら何やらが目に入ったが、目に毒なので見なかったことにした。
台所に戻ると、鍋を凝視している玲羅がいた。
すごい、ここまで人にエプロンをつけて欲しいって思わせるのは、玲羅は魔性の女か?
「……ん?今、なにかとてつもなく不本意なことを考えられたような…。」
「き、気のせいじゃないか?鍋、見といてくれてありがとうな。仕上げをしたら、食べられるから。少しだけ待ってね。」
「ああ、楽しみにしている。お前のクラスメイトも美味しいと言っていたからな。」
「ハードルが上がった…。」
それから、ほどなくして鍋が出来上がる。
キムチ鍋だ。
ちょっと平日の夜には重いかもしれないが、ぶっちゃけ成長期の俺たちにとっては些細な問題だろう。
「わー、美味しそうだー。さっすがお兄ちゃん!」
「そうだな。いい匂いがする。これは食欲がそそられるな。」
「じゃあ食うか。いただきます!」
「いっただっきまーす!」「いただきます。」
結乃は元気に、玲羅は控えめにそう言ってから、全員で鍋をつつき始める。
二人共
「椎名、この鍋すごくおいしい。こんなに料理が出来るんだな。」
「ふふーん、これが私のお兄ちゃんの力だ。どう?もう、他の人の料理じゃ満足できないでしょ?」
「たしかにこれは、チェーン店とかの味をはるかに凌駕するものだ。これでは店のものでは満足できなくなってしまう。」
なんだろう…。卑猥に聞こえるのは、俺のせいなのか?それとも、結乃が誘導してるのか?
「そういえばさ、お兄ちゃん。」
「なんだ結乃。食事中に下ネタ言うなよ。」
「もー、お兄ちゃん、私をなんだと思ってるの?」
「悪かったよ。で、なんだ?」
「さっきお風呂入ってるときに見たんだけどね―――」
あ、嫌な予感がする。
そして、その嫌な予感は見事に的中した。
「玲羅さんのおっぱいってすごく大きいの!」
「ぶっ!?」
ほらな、やると思ったよ。
「それでね、大きいだけじゃなくて、形も綺麗で、触ってみるとハリもあって、もう吸い付きたくなっちゃった!」
「ゆ、結乃、やめるんだ!それ以上その話はしないでくれ!恥ずかしいだろ!」
「へ?そうなの?そんなにいいもの持ってるのに?」
「そういうことじゃない!」
結乃の発言に、玲羅は顔を真っ赤にして抗議する。
ふと、俺と目が合うと、玲羅はさらに顔を真っ赤にして
「今の話は忘れろ!」
「ちょ、ちょ、ちょ、今食事中!」
「うるさい!忘れるんだ!湯船の中で、結乃にあんなに触られたのを、せっかく忘れかけてたのに……あ……」
玲羅は、自分ですぐに地雷を踏む。今みたいに。
あーあー。また顔が赤くなってるよ。
あれ?目尻に涙溜まってない?
「ああああああ!忘れるんだ!忘れるんだああああ!」
「落ち着け!うわあ!揺するな!」
玲羅は、半泣き半狂で俺を揺すり始める。
食事中にこんなことをするのは、マナー違反だ。でも―――
なんか良い
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