最悪の終わり方で完結を迎えたラブコメ漫画のその後の世界で、読者だった俺は負けヒロインを救って作者が思い描かなかったハッピーエンドを迎えてみせる
波多見錘
転生!
第1話 漫画の世界に
ピッ
『漫画家「博也達也」さんへの脅迫状についての―――』
ピッ
『漫画の作者に対して展開が気に食わないからと脅迫するのは―――』
ピッ
『12月25日未明に、漫画家の「博也達也」さんに脅迫状を送ったとして、足立区在住38歳無職の男が逮捕されました。男は調べに対し、「あんな結末にするのは―――』
ピッ
俺はほとんどすべてのチャンネルを見て、テレビを消した。
最近ほとんど同じニュースばかりだ。
「中学ハーレム」略して「中ハー」
高校恋愛が盛んな漫画で、中学恋愛を題材にした漫画で、主人公の
この漫画は社会現象を巻き起こし、流行語にノミネートされるくらいの人気を博した作品だ。
かくいう俺もこの作品の大ファン―――いや、この作品に登場する「
この漫画は、アニメ化、ノベル化、ゲーム化、アニメ映画化。などなど、超人気の大作だ。しかし、完結した後に作者への書き直しを求める脅迫状や、作者の自宅や出版社の爆破予告などが届き、世間は「中ハー」を最低の作品と言うようになった。
理由はたった一つ。その終わり方だ。主人公に思いを寄せる二人は、「ツンデレの
この展開に、八重野ファン、天羽ファン、両名達共々に驚愕した、俺も「ウゾダドンドコドーン!」と考えながら、単行本を床に叩きつけた、
八重野の突然のキャラ崩壊、天羽の扱いの酷さに、漫画ファンたちは憤慨した。しかも、最終巻が発売されてから三日後、SNSでの作者の投稿によって、最悪の事態に発展した。
『ハーレム漫画っていうのは誰エンドになっても、選ばれなかったキャラのファンの方々に炎上させられるのが常です。しかし、私はこの漫画を描き始めてから八重野エンドにすることは決定していました。私は「クーデレキャラ」は好みじゃないんです。だから、別編で天羽エンドを描くことはありません。3年の連載期間、お付き合いいただきありがとうございました。』
作者の「クーデレキャラ」好きじゃない発言によって、天羽ファン過激派が作者に脅迫文を送るなどして逮捕されるといったことが最近は社会問題になっている。
俺は天羽ファンだが、何もしていない。自分自身で天羽ファンでいることを恥ずかしくない存在でありたい。大好きな天羽玲羅の評判を下げたくない。ただそれだけだ。
社会の情勢なんてさておき、俺の名前は『
そんな俺は、テレビニュースは何もやっていないわけなので、自分の小遣いで玲羅グッズを買いに行くところだ。
ここ2、3年は小遣いが全て玲羅グッズに消えている。仕方ないだろう?そのキャラが好きすぎて現実にいたら、付きあいたいくらいだからな。
用意を済ませると靴を履いて、外に出た。道の途中に工事をしているところがあるので少し注意だ。
「~~♪♪」
鼻歌交じりに歩いていると、どこからともなく「危ない!」という声が聞こえてくる。
声の出どころの方に目線を向けると、上から工事現場によく見る「枠組足場」が崩れてきていた。
え……?なんで……?今日はそんなに風は強くないし崩れる理由は……。クソ……まだ死にたくない…。せめて、天羽玲羅のグッズを胸に死にたい。叶うなら、天羽玲羅の彼女になりたい。段階を踏んで、両思いになって、最終的に―――
ガシャーン
俺の意識はそこで途絶えた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ん……ここ…は……?」
俺の意識が覚めると見慣れた部屋にいた。俺の部屋だ。俺は確か枠組足場が崩れてきて―――
そうだ。あれは即死レベルだ。夢だったのか……?
そう考えると、突然頭痛が襲ってきて知ってるような知らない記憶が流れ込んできた。
「ぐ……なんだ……これ……?この世界は……?」
「中ハー」の世界!?
俺が今いるのは「中ハー」の世界みたいで、俺は物語に干渉しないような背景モブの一人に転生したのか?
夢心地だが、ありきたりな展開でもある。ここの夢の世界か。それとも新たに現実になった世界なのか。俺には見当がつかない。
だが、あの倒壊事故を生存できるとは考えられない。
本当に転生したのか?
―――!?今日の日付は!?
「1月5日…。天羽玲羅が主人公にフラれた日だ。西暦は……最終回のと一致する…。」
という事は、天羽玲羅は酷く傷ついた状態のはずだ。誰かが助けないと!
八重野が天羽にしでかしたのは冤罪による信用失墜だ。八重野は、天羽を主人公から遠ざけるために冤罪をかけた。内容は暴力事件。
運動神経の良い天羽は、不良グループに絡まれても返り討ちにした。そのシーンを八重野は上手く撮って、天羽が暴力を振るってるように見えるようにした。
後にこれは暴力事件にまで発達し、天羽の推薦は取り消し。豊西からの信頼も好感度も、ガタ落ち。結末として、天羽はフラれ、八重野が選ばれた。
冤罪で何もかもを失った彼女は、正常でいられるはずがない。
原作通りなら、近くの公園で一人になってるはずだ。
しかし、外は大雨。こんな日にいるのだろうか?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ザ―――
(どうしてこうなったんだ…。)
雨の中の公園で、天羽玲羅は思い悩んでいた。
原因は言うまでもなく豊西にフラれたことだ。
玲羅は間違いなく、豊西のことが好きだった。しかし、冤罪のせいで信用も失って、フラれて。挙句の果てには、高校の推薦まで取り消されてしまった。
誰がこんなことをしたのか分からない。どんな目的で、こんなことをするのか。玲羅には見当がつかない。
玲羅は良い意味でも悪い意味でも純粋だ。故に、恋敵であり、よき友である八重野が玲羅のことを嵌めただなんて考えもしない。
「はあ……。」
とめどなく出る溜息は、1月の雨の中の空気に消えていく。このままだと、玲羅自身が低体温症で、死んでしまうかもしれない。しかし、当の本人は深く絶望して、死んでも構わないとでも言いたげだ。
(体が冷えてきた…。いっそこのまま死んでも―――ん……?)
玲羅に降りしきる雨が、突然何かに遮られ、何かと思った彼女は上を見上げる。するとそこには面識のない、でも同じ学校の制服を着た男が玲羅の頭に傘をさしていた。
「こんな季節に雨にあたってると、風邪じゃ済まなくなるぞ。」
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